真理の扉からアルの身体を持ってきちゃった 6 - 5/6

前日からの吹雪が去り、一夜明けた朝は、すっきりとした青空が広がっている。
降り注ぐ太陽光線が窓の外をやけに白くまぶしく感じさせ、エドワードは目を細めた。

ブリッグズ地方バズクール。
かつて炭鉱町として発展していたが、石炭の枯渇と共に放置されたゴーストタウンである。
かつて訪れた最東端の町ユースウェルも同じく炭鉱の町だが、あそことここでは蟻と象ほど規模の差がある。
とにかくバカでかい。お尋ね者が身を潜めるには格好の場所だ。

紅蓮の錬金術師キンブリーの目を欺き、傷の男スカーに同行している白黒猫を連れた錬丹術を使う少女を探すためにここまで来たエルリック兄弟は、あっさりとその目的を果たす事が出来た。
兄弟に無理やりくっついてきた幼馴染で機械鎧オートメイル技師のウインリィは、彼女の両親の仇である傷の男と対話を望み、彼の理不尽な行為は赦さないと言いながらも、両親が助けた彼の傷を手当てする事で、彼女なりの決着をつけた。
自らをイシュバール人の恨みという膿だという破壊の錬奇術師に、ひとつの道を提示したのは、同じイシュバールの血を引くアメストリス軍人だった。
負の連鎖に投じられた正の一石は、中央の地下に巣食う者共の策略を阻止するための新たな共同体を誕生させた。
そんな中、彼らの元に凶報が齎される。
ついに中央の手が北に伸びた。彼らを匿うはずだったブリッグズ砦は、安全な場所ではなくなってしまった。

ウインリィはマルコー先生たちと一緒に坑道から逃がせた。ブリッグズに中央の手が伸びたことを伝えるためにアルフォンスが後を追っている。
あとは、キンブリーを何とかすればいい。
周りの景色に溶け込む白いスーツ姿の男を、エドワードは窓から見下ろす。
マイルズは、彼を暗殺すると言った……弱肉強食はこのブリッグズの掟…自分の甘さが自分や仲間の命を奪う事になるとも忠告された。
少佐の言う事はもっともだ。
だが……
「それでも、オレは殺させたくねえ。」
エドワードは、決意を込めた表情で部屋を後にした。

「人質の心配が無くなったとたん。コレですか。」
中央セントラルから大総統の命を受けてこの地にやってきたキンブリーは、性懲りもなく抗う姿勢を示す少年に薄く笑うと、呆れた声を漏らした。
「人質?何の事かな。
オレは、おめーに知っていることを洗いざらい吐いてもらおうと思ってよ。」
立坑から坑道に入って、ウインリィらの痕跡を探そうと目論む紅蓮の錬金術師に、機械鎧を武器に錬成させたエドワードは対峙する。
「やれやれ。血の気の多い。」
キンブリーは嘆息を漏らした。
「病み上がりで若者の相手をするのは骨が折れそうですね。
それに貴方に付き合っているヒマも無い。」
キンブリーは、コートのポケットに隠し持っていたものを、エドワードの目の前に掲げて見せる。
見た目には鉱石のような形のそれは、赤く燃え立つ命の炎の色をした「賢者の石」。
ラッキー。探すまでもなく、先に出してくれやがった。
エドワードはほくそ笑むと、紅蓮の錬金術師に飛び掛かっていく。
北国用に換装した機械鎧は、鋼のそれに比べ軽い素材でできている。今まで重たい鋼を装備しながら、訓練を受けている軍人にも引けを取らない格闘術を体得しているエドワードである。
軽い装備は彼の身体能力をいかんなく発揮させた。
エドワードの動きは想像以上に早く、キンブリーが石を使う機会を与えない。その動きに翻弄される間に、エドワードの足が彼の手から賢者の石を蹴り飛ばした。
赤い石は、立坑深くに落ちていく。
「ぬっ!」
「遅い!!」
錬金術を使うために両手を合わせようとした右手の錬成陣を、エドワードの切っ先が切りつける。
賢者の石は無し!錬成陣も使用不可!!これで……
「勝ったっ!!
……と、思ったでしょう。」
勝利を確信した彼に、狡猾な男の声がその動きを止めさせた。
「殺さない覚悟…立派なポリシーです。
だがそれは、戦場において付け込まれる隙になる。
さっきの一瞬にとどめを刺しておけば良かったものを。」
紅蓮の男が、嗤う。
「その甘さ…
私が賢者の石をもう一個持っているかもしれないという思考に行きつかなかったのが───」
貴方の敗因です。
うすら笑いを浮かべる男の口から、赤い球体が左手の錬成陣に零れ落ちる。
赤い閃光と轟音と共に彼らのいる建物が崩壊した。

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