真理の扉からアルの身体を持ってきちゃった 6 - 4/6

「───つまり、君という存在がアルフォンスの身体の一部に定着もしくは融合している可能性があると……」
「はい……兄弟が初めて扉を開いた時か、この身体を取り戻した時か判断つきませんが、ここへ来た時には僕はこの身体の一部になっていた……」
「そして、名前が与えられたことで、魂同様に人格が形成し始めていると?」
「彼らの思いやりが、こんな形ででてしまって……
アルフォンスがこの身体に戻るとき、僕が自然に離れられるようにしておかないといけないんです。」
マスタングは、ルースの話に腕を組んで考え込む。
「思うに……君がその身体に定着した可能性が高いのは、アルフォンスから身体を奪った時ではないのか。」
「……そうですね。
あの錬成は稀なケースで……二人同時で人体錬成を行って扉を開いた…その過程で彼らの精神が混線し、代価を支払った後でさらにもう一度、生者の魂を練成している。」
淡々と事実のみを語るルースの言葉に、マスタングは、エルリック兄弟が辿った地獄の片鱗を見た心地がした。
「……その時、アルフォンスの魂はどこにあった?人体錬成の代価としてアルフォンスの全てを受け取ったと言ったが、魂は別の所にあったのではないか。」
「それは……どうだったろう……立て続けに人体錬成が行なわれたので情報の整理が追い付いていなくって……その辺りが曖昧なんです。」
困惑するルースにマスタングも嘆息する。
「アルフォンス自身も、真理を見たことを思い出したのは、最近のことらしいからな。」
「そうなんですか?」
「そう聞いているが。」
「アルは、真理を見たことを忘れていた……それは、錬成された時の後遺症?
何が切っ掛けで思いだしたんですか?」
思考を巡らせながら質問してくる真理に、マスタングは呆気にとられながら答える。
「殺された合成獣の血を血印に浴びた事が切っ掛けらしい。」
「それはどこで?」
「ダブリスだ。バーに呼び出され、グリードという人造人間ホムンクルスに捕らえられた時だと……」
マスタングから聞き出した情報から、アルフォンスの記憶を探る。
「………あった…っ。」
瞑目し考え込んでいた少年が、声を上げ顔を向けてくる。
「大佐。あなたの仰る通りでした。
あの時、アルの魂は2人が錬成したものの中にあった。アルは、あの中からエドを見ている。」
「……それは、アルフォンスの記憶か?」」
息を呑んで尋ねてくる大佐に頷く。
「だが、それは、目の前で息絶えたと……」
「ここからは、推測でしかありませんが……」
と断ってから、ルースは話し出す。
肉体と魂は引き合う。代価として奪われた肉体に引き寄せられ、魂はあれの中から離れた。
だが、肉体に戻る前にエドワードによって鎧に定着された。
「その時、もしかしたら……」
肉体と魂をつないでいる精神にエドワードの精神も絡み合っていた。
複雑に絡み合った二人の精神に、自分も触れていたのではないのか。
エドワードが行った錬成が、精神を介して扉の方にあった肉体にも作用したのだとしたら……
「僕は、エドの錬金術に巻き込まれたのかも……!」
呻くように漏らされた言葉に、マスタングは目を瞬かせる。
「大佐。この仮説が正しければ、僕とこの身体の間にも同じことが起きているかもしれません。」
マスタングは息を呑んだ。
確認してくれないかというルースに頷く。
アルフォンスと鎧をつないでいる血印は、胴と頭のつなぎ目、人体では首のつけ根あたりにある。
ルースの背中に目を移すと右肩に流されている髪の毛を持ち上げ、後首を確認した彼は大きく目を見開いた。
「………あったぞ……血印と同じものが……!」
ルースの項に、アルフォンスほどではないが、小さな赤い円形の痣のような物がある。よく見れば、それは確かに印の形をしていた。
マスタングの声に、ルースは大きく息を吐いた。

「……さて、原因は分かった……これからどうするかだが……」
マスタングの言葉に、ルースは無言で頷く。
「問題なのは、血印と違って簡単にそれを崩せない事だ。」
アルフォンスのうなじの皮下に、痣のように浮き出ている印。それを崩すには、焼いてしまうか傷をつけるのが最も手っ取り早い手段ではある。
しかし───
「場所が悪すぎる。急所のすぐ近くだぞ。」
2人そろって嘆息を漏らす。
「印を崩すのではなく、消す手段を考えなくてはいけませんね。」
「……アルフォンスの身体を錬成し直すということか?鋼のが自身を再構築したように……」
ルースが首肯した。
「代価はどうする。」
「僕が錬金術を使う時に使うのと同じもので間に合うはずです。」
「……それは?」
「僕がここに存在するためのエネルギー。
そもそも、僕はここにあるべき存在じゃないですから。」
微笑む少年を、マスタングは無言で見つめる。
「鎧に描かれている血印を崩すのと、人体錬成を同時に行わなくてはいけない難しさがありますが……エルリック兄弟は一方ひとかたの錬金術師ではありませんから、何とかなるでしょう。」
「彼らの協力が必須か。
だが…素直に協力するかな……」
「えっ……?」
彼の言ったことが分からず、ルースは目を瞬かせる。
「君が消えてしまう事だよ。
彼らは、君のことを“弟”だと言ったのだろう。新たにできた兄弟を失う事を、彼らが納得するのかと思ってね。」
「それは……でも……」
戸惑いの声を漏らす少年に、マスタングは目を細める。
「ともかく、兄弟とよく話し合う事だ。
納得しなければ、あの2人は動かないぞ。」
「───はい。」
神妙な顔つきで頷く少年に微笑み、マスタングは席を立った。
「エルリック兄弟の情報が入ったら、また、見舞いに来るよ。」
「はい。今日はありがとうございました。」
大佐を見送り、ルースは彼が残して言った言葉を思い返す。
「納得しなければ動かない……か。」
まずは、この身体と自分の状況を彼らに知らせなくてはいけない。
どうやったら彼らと連絡が取れるのだろうかと、頭を悩ますルースであった。
窓の外も、彼の戸惑いを映したかのようにどんよりと雲がかかり、どこから流されてきたのか風花が舞っていた。

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