真理の扉からアルの身体を持ってきちゃった 6 - 3/6

朝食を食べ終わるか終わらないかという、面会にしては早すぎる時間にやってきた人物に、ルースは目を瞬かせる。
「………おはよう…ございます。」
ニコニコと愛想笑いを浮かべる軍大佐に、戸惑いながらも朝の挨拶をする。
「食事中申し訳ないね。
こんな時間しか空いていないものだから。」
苦笑するマスタングに首を振る。
「軍の偉い人はみんなお忙しいんでしょ?夕べ面会に来てくれた大総統は、僕が寝る少し前でしたから。」
「大総統」という言葉に、マスタングの顔が一瞬厳しくなる。
看護師が、食事のトレーを下げて退室すると、2人は真顔で向き合った。
「──初めまして。というべきだろうね。」
「そうですね。マスタング大佐。あの時は、挨拶のしようもありませんでしたから。
……僕の事は……?」
「鋼のから聞いている。真理の扉から連れ帰ったアルフォンスの身体で、中に真理がいると……」
ルースは、無言で頷いた。
「名前を付けたそうだね。
ルース……だったか。」
「ええ……エドが付けてくれました。
僕のことを一番末の弟だとも言ってくれました。
彼は…彼らは変わっていますね。
身体を奪った存在だというのに、自然に受け入れている。名前を付けようと言い出したのはアルですよ。」
そう言いながら微笑する真理に、マスタングは苦笑する。
「彼らは“命”に対する考え方が、我々とは違うからな。
君のことも一つの命と捉えているのだろう。」
彼の言葉に、ルースは軽く瞑目すると小さく息を吐いた。
「……命…か。」
「ところで、そのエルリック兄弟の事なのだが。君に、彼らの情報は届いているのか。」
「……ええ。エンヴィーという人造人間ホムンクルスから聞いています。」
「そうか。実は私もさる筋から北の情報を得てね。」
マスタングがそう言い終わるや否や、彼らを取り囲むように四方に壁が出現した。
突如錬成された壁に、マスタングは思わず腰を浮かせる。
「これは──!」
「僕の特技です。どこから監視されているか分かりませんから。」
にっこり笑う少年にマスタングは息を呑む。
「驚いたな。ノーモーションで錬成するとは……君が真理であるからかね。」
その問いに、笑顔で答えると、ルースはすぐに真顔に戻り、目的の遂行を急く。
「大佐は、北のどんな情報を得られたのですか。」
「ああ……」
2人は互いが持っている情報をすり合わせて確認し合った。
「───なるほど……連中の次の標的はブリッグズ……か。」
「ええ。そこに血の紋を刻むと……」
「イシュバールのような大量殺人……それを、紅蓮の錬金術師と鋼のに命じた……ウインリィ嬢を人質に……」
どこまでも非道な事を……!と、歯噛みする。
俯くルースに、マスタングは目を細めた。
「鋼のが、彼らの言いなりになると思うかい?」
問いかけに、ルースは肩を震わせ大きく首を振る。
「私もそう思う。ブリッグズ砦の連中は彼らに味方するだろう。」
確信に満ちた笑みを浮かべる大佐に、ルースも笑みを浮かべる。
「ところで、君は何をそんなに調べているのかね。」
枕もとに何冊も積み上げられた本に、マスタングは首を傾げる。どれも錬金術や人体などに関する著述ばかりだ。
「まるで、人体錬成の方法を調べているようだな。」
揶揄するような言葉に、ルースは肩をすくめる。
「それに近いですね…いや、もしかしたらもう一度人体錬成をしなければならないかもしれない。」
ルースの言葉に、マスタングは表情を硬くする。
「どういうことだ。」
「大佐。貴方を国家錬金術師と見込んでお願いがあります。知恵を貸していただけませんか。」
「“真理”である君が、私如きの知恵をかい?」
「焔の錬金術を使いこなしている方がご謙遜を。
真理だから何もかも分かっているという訳ではないのです。」
訴えかけてくる少年に、国家錬金術師は居住まいをただした。
「話を聞こう。」
ルースは、嬉しそうに微笑んだ。

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