真理の扉からアルの身体を持ってきちゃった 5 - 1/2

「いい名前だね。
今から、僕はルースだ。」
はにかんだ笑みを浮かべるアルフォンスの身体に、エドワードは我が意を得たりと笑う。
そんな彼らに、アルフォンスもえへへと笑った。
自分から言い出したことだが、こうして別の名前を喜んで受け入れている「自分」を見ると、昔からそういう名前の別人であると思えてくるから不思議なものだ。
「エドワード。アルフォンス。ありがとう。」
礼を言うルースに、エドワードは小首を傾げる。
「その言い方。堅苦しいぞ。
オレは『エド』。こいつは『アル』だ。」
これからはそう呼べよ。と言う彼に、目を瞬かせる。
「ルースは、オレたちが名前を付けた。オレ達の弟だ。
アル、良かったな。お前、兄貴になったぞ。」
笑顔で見上げてくる兄の言葉に、アルフォンスは胸がざわつく。
「あ、あのさ。ルース。」
呼びかけられて首を傾げてくる「弟」に、アルフォンスは心臓が跳ね上がる感じがした。
「わっ。」
と、ルースが声を上げる。
「今、なんか心臓がドキンとした。」
今もドキドキする心臓に、ルースの頬が赤くなる。
「兄ちゃんて呼んでくれるかな。」
期待を込めて言えば、ルースは屈託のない笑顔と共に
「兄ちゃん。」
と答える。
「うっうわあああ。
なにこれっ?すごい、快感っ!!」
胸の前でガッツポーズをするアルフォンスに、エドワードは歯を見せて笑いかける。
「なっ!気持ちいいだろ?」
「うん!くそーっ。ボク、いつも兄さんにこんないい思いさせてたのか。」
足をバタバタさせると鎧がガシャガシャとにぎやかな音を立てる。
それにつられるように、ルースが声をあげて笑った。
「アル…兄ちゃん。本当にうれしんだね。」
「うん。なんか無性に嬉しい!」
3人は顔を見合わせ大きな声で笑い合った。

ひとしきり笑うと、エドワードはまた小首を傾げ眉を顰める。
「ルースも、なんかニックネームあった方が良くねえか。」
「そうだねえ。」
同意するアルフォンスに、ルースは目を瞬かせる。
「エドワードやアルフォンスみたいに長い名前じゃないし……呼びにくくはないと思うけど。」
「そりゃそうだけどよ。兄弟で呼び合うんだから、ないよりあった方がいいだろ?」
彼が言った「兄弟」という言葉にルースの口元が緩む。
「ルースの“ス”がどうも空気が抜けて言いにくいから、『ルー』だけでいいか。」
「あ。それ名案。」
アルフォンスはすぐに賛成した。
「ルー?」
きょとんとするルースにエドワードは目を細めた。
「うん。末っ子ぽくていいじゃん。」
そう言って頭をガシガシとなでる。
「ああ。兄さん。そんな乱暴な……
髪の毛ぐしゃぐしゃになったじゃないか。」
かき回されぼさぼさになったルースの髪に、エドワードは「あちゃー。」と、自分の頭に手をやる。
「悪い悪い……
それにしてもよく伸びたもんだな。邪魔だろ、この長さ。」
「邪魔ではないけど、起き上がるときに時々自分で端を踏んずけて痛いかな。」
「そういうのを『邪魔だ』っていうんだ。」
そう言いながら、エドワードはルースの髪を後ろでひとまとめにする。
「兄さん。上の方で結ぶと寝るときに邪魔だよ。」
「ああそうだな。……こうするか。」
エドワードは、まとめた髪を右側に流すと鎖骨辺りで、予備に持っていたゴム紐を使って結ぶ。
背中に流れていた髪の毛が、身体の前に来るようになり、以前よりもすっきりした。
「どうだ?楽になったろう。」
そう言って、笑いかけたエドワードは、礼を言うルースに一瞬目を大きくした。
驚いたような表情から一変し、眉尻を下げる。口角を上げて笑みを作るが、その表情は何とも言えず微妙だ。
ルースは、彼が笑っているのか泣いているか判断が付かず首を傾げた。
「………じゃっ。オレ達、そろそろ行くわ。」
「……うん。」
唐突に切り出された別れの言葉に、戸惑う。アルフォンスは、無言のままだ。
「アル兄ちゃん?」
「えっああ。何?ルー。」
呆けていたのか、取り繕うように返事をするアルフォンスに、ルースは肩をすくめる。
「ごめん。何でもない。
2人とも気を付けてね。行ってらっしゃい。」
笑顔で手を振る。エドワードが大きく瞬きを繰り返し、何か言いたげに口を動かしていたが、苦笑いしながら手を振り返してきた。
錬成した壁を元に戻し、病室を出ていく。その後ろ姿が何故か切なげで、ルースはまた首を傾げるのだった。

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