リゼンブールに戻ったのは、予想通り深夜だった。窓から明かりが漏れているのに、ほっとしてドアを開ける。
奥からウインリィが出てきて、迎えてくれた。
「ただいま。」
「お帰り。お疲れさま。」
「子供たち、もう寝ちゃったよね。」
「うん。さっきエドが寝かしつけてたから。」
「兄さん、帰って来たんだ。」
「うん。2時間くらい前。
子供たちはしゃいじゃって……疲れているから止めなさいって言ったんだけど、どうしてもお父さんに本を読んでもらうって聞かなくて……」
2人で話しながら、子供部屋がある2階に上がっていく。部屋を覗くと、ベッドの上では両脇に子供たちを抱えたエドワードが、いびきをかいて眠っていた。
広げた両腕の上には、それぞれ子供たちの頭が乗っかっている。
ウインリィは苦笑しながら、夫の胸に広げられたまま放置されている本を取り上げた。
「寝かしつけの本のタイトルが『錬金術入門』なんて、笑っちゃうわね。」
幼馴染たちは顔を見合わせて笑った。
「土産、どうしようか。」
肩をすくめてプレゼントの入った袋を見せる。
「明日、アルから渡してよ。
今日は泊っていくでしょ。」
こともなげに言う彼女に、目じりを下げる。
「兄さん帰ってきたし、自分の家に戻るつもりだったんだけど……」
兄の結婚と長男の誕生を機に、子供の頃に自ら火をかけた生家を、アルフォンスが再建し今ではそこで暮らしている。
「何言ってんのよ。帰っても食べるものなんてないでしょ。エドが留守している間ここに居てくれたんだから。
アルの晩御飯、用意してあるんだから食べてよね。」
腰に手を当て、睨みつけてくる義姉に苦笑する。
「はい。有難く頂戴します。」
「よろしい。」
手早く夕食をテーブルに用意する彼女をまなじりを下げて見守る。
温かな夕食に、舌鼓を打っていると、ウインリィが小さな包みをテーブルに置いた。
「いつもお世話になっている義弟にお義姉さんから愛のおすそ分け。」
「……ありがとう。」
包みを手に取り、目を細めるアルフォンスにウインリィも穏やかな笑みを浮かべる。
「アル。いつもありがとうね。エドが忙しかったり、私が出張整備に行かなきゃならない時に、子供たちの面倒見てくれて。
アルだって、錬金術師の仕事忙しいのに……中央じゃ大人気の錬金術師だって聞いてるわよ。」
「……仕事が評価されているんだか…ただ若いってだけで、ちやほやされてる気がするよ。」
そう言って、中央から持ち帰った贈り物を取り出す。
包装からして高級そうなそれに、ウインリィは目を瞬かせた。
「鋼の錬金術師へバレンタインのプレゼントだってさ……僕一人じゃ食べきれないから皆や職場の人たちと食べて。」
「いいの?こんな高価なもの……」
「中身は、ただの食い物だよ。材料と手間暇の分格付けされているだけのチョコレートだから。」
美味しく食べてくれればいいさ。と笑う。
「そうね。これを作った人も贈った人もそれを期待しているんだろうから。」
美味しく頂戴しましょう。そう言って、ウインリィはキッチンでコーヒーを淹れ始める。
ウインリィの言葉に、アルフォンスは目を瞬かせ、次には微笑む。
本当にこの女性は、人の気持ちを大事にする人だ。
あの、山と積まれた段ボールの中に入っているのは「人の想い」なのだ。
顔も分からない人達からの物ではあるが、そこには確かに「想い」はある。
「贈ってくれた人の気持ち……軽く考えてたかも。」
無駄な金だと思う事こそが傲慢だった。
アルフォンスは静かに反省する。
Extra care - 5/7
1
コメントを残す