Letters - 1/2

「エドっ。アルっ。あんたたちに手紙だよ。」
届いた郵便物を、ピナコが2人に渡す。
エドワードには小包、アルフォンスには書簡だ。
どちらも同じ差出人で、小包は私信のようだが、アルフォンスに届いた封筒は軍用品で軍の紋が浮き彫りされた封蝋がされている。
封を切った2人は、口を揃えて同じ言葉を吐いた。
「「あの、クソ准将。」」
そう、どちらもマスタングからの郵便だ。
両方とも怒りを滲ませた言葉ではあるが、2人の声のトーンは全く違う。
アルフォンスが低く冷ややかな声であるのに対し、エドワードは顔を真っ赤にさせて天に轟かんばかりの怒声た。
あまりの声の大きさに、側にいたアルフォンスは目を丸くして兄を見つめ、煙草を一服吸っていたピナコも驚いて彼の元へやってくる。
「何だい。大きな声出して。
2階で寝ているウインリィが目を覚ますじゃないか。」
妊娠初期の体調不良で横になっている孫を気遣い、不機嫌な声で窘める彼女に、エドワードは面目なさそうに謝罪する。
「ごめん。」
「兄さん。どうしたの、急に大声上げて……
准将からだよね、それ……」
話しかけながら近づき、兄がテーブルに叩きつけた小さな段ボールの中身を見たアルフォンスは、ブッッと吹き出しそうになるのを必死にこらえた。
口元や頬をヒクヒク震わせ、声に出して笑いたいところを我慢している。そのため、彼の少したれ気味な眼のふちには涙がたまっていた。
片やゆでだこ、片や爆笑寸前……なんとも滑稽な兄弟のありさまに小首を傾げていたピナコであったが、エドワード宛の荷物の中身を見て、人の悪い笑みを浮かべた。
「随分気の利く奴じゃないか。マスタング准将。」
彼女の言葉に、アルフォンスがついに、もう我慢できないと笑いだした。
「アルっ!お前、あいつに余計なこと言いやがったなっ!!」
大声で詰め寄る兄に、腹を抱えながら右手をひらひらさせて否定する。
「いっ言ってないよ。余計な事なんて……兄さんとウインリィが婚約した事しか言ってないって……っ!」
なんとか笑いを引っ込め、笑い過ぎて溢れた涙を指で拭いながら答えれば、兄は釈然としない顔で自分を睨み続けている。
「───ホントか……?」
「当たり前じゃん。彼女の事は帰ってくるまで知らなかったんだから。
第一、僕が准将に報告する筋合いじゃないでしょ。」
「……じゃあ…何であのヤロー、あんな[[rb:物 > もん]]……」
エドワードは憮然とした表情で、送られてきた荷物を横目で睨む。
「メッセージが付いているじゃないか。」
そう言って、ピナコは添えられている手紙の文面を読み上げた。
「エドワード・エルリック殿
ご婚約おめでとう。
思い立ったら即行動の君らしいが、結婚は人生最大の分岐点だ。
良き相手と出会えても、自分の行動・選択によっては、その相手に辛い思いをさせてしまう事もある。
人生を共に歩む伴侶たる彼女とは、今後どのような人生を送りたいのか、諸々しっかりと話し合うよう、老婆心ながら忠告する。
人生設計に役立つグッズを贈らせてもらった。
若さ溢れる君には、いくらあっても邪魔ではないはずだ。
彼女に嫌がられない程度に、頑張りたまえ。
ロイ・マスタング」
初めのうちは淡々と読み上げていたピナコであったが、読み進めるうちにその声に笑いが混ざり始め、後半に至っては完全に笑って読んでいた。
側で聞いていたアルフォンスもまたしかり、ヒイヒイと腹を抱えながらテーブルに突っ伏している。
「こりゃ……っ。エドが怒ってアルを疑うわけだねえ。」
クックッと笑いながらピナコが言う。彼女の目線の先にはマスタングからのプレゼント……
小さな段ボールの中には、綺麗な小箱がいくつか丁寧に収められており、一見しただけでは何が入っているのか分からないその表面には、「明るい家族計画」と隅の方に小さく印刷されている。
取り出して確認してみたところ、同じ箱が半ダース入っていた。
「准将も相変わらず人が悪い。
今の兄さんには、本当にただの嫌味だよねえ。」
アルフォンスは、結婚前に婚約者を妊婦にしてしまった兄の肩をポンポン叩いた。
「畜生。何が、人生設計だっ。そんなこと心配してもらわなくても、ちゃーんと話し合ってるてえの!」
唸りながら、エドワードはマスタングからの手紙を散り散りにに引き裂いた。
肩を怒らせて喚く兄を、アルフォンスは不信げな眼で見る。
「本当に? 2年で医師免許取得して[[rb:中央 > セントラル]]で修業するのはいいとして……何歳でこっちで開業するとか…出産後ウインリィの仕事復帰のタイミングとか…子供は何歳までに何人欲しいとか……
細かい事まで具体的に考えてる?ウインリィも同じ考えなの?」
ずけずけと突っ込んでくる弟に、エドワードは先ほどまでの怒りもどこへやら……タジタジし始めた。
そんな兄に、アルフォンスは嘆息を漏らす。
「兄さんは昔から、考えているようで考えなしだから……」
「なんだと。こらっ。」
「だって、そうじゃないか。第五研究所の時だってエンヴィーが連れて来なかったら出血多量で死んでたかもしれないし、グラトニーに飲まれた時とかバズクールでは行方不明になるし……」
僕がどれだけ心配したと思ってるの。と首を振る。
「ほんとに…兄さんこれまでよく生きて来れたよね。」
つらつらと思いだしたアルフォンスは、しみじみと呟いた。
「それは……ほら、錬金術という切り札があったから。」
そんな彼に苦笑いで答えたエドワードを、真面目な顔で見ると、アルフォンスは真剣に語りだす。
「でも、今の兄さんにはその切り札がない。
医者になったとしても、医術やこれまでの知識だけじゃ切り抜けられない事もたくさん出てくると思うよ。
その時、誰が兄さんを助けるの。」
じっと見据えてくる黄金の瞳に、エドワードは一瞬息を呑んで目を彷徨わせると、ボソボソ答える。
「それは……ウインリィやお前や……ばっちゃんとか……」
「そう。これからの兄さんを支えるのは兄さんの家族。
だから、これからの事は新しく家族になるウインリィとしっかり納得いくまで話して確認し合って、信頼や絆を深めていかなきゃね。
准将が兄さんに伝えたかったのって、そういう事だと思うよ。」
「………そうだな。」
にっこりと微笑む弟に、エドワードも小さく笑って頷いた。

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