Their reasons - 1/3

「ああ。美味しかったぁ。」
ピナコとウインリィの手料理をぺろりと平らげ、アルフォンスは満足そうに腹をさする。
彼の様子に、ピナコもウインリィも満足げな笑みを浮かべた。
「ばっちゃん。ウインリィありがとう。
とーっても美味しかったよ。」
「そうかい。いつもと変わり映えのない料理だけどね。」
「そんなことないよ。ばっちゃんの料理食べるの2年ぶりだもの。懐かしくて凄く嬉しかった。
それに、ウインリィも。体調良くないのに料理してくれてありがとう。」
つわりのせいで台所に立つのもしんどいはずなのに、アルフォンスの好きなメニューを作ってくれたことに感謝の意を伝えると、はにかんだ笑みを浮かべて首を振る。
「私がしたのは、ほとんどばっちゃんの手伝いよ。」
嬉しそうな弟の横顔に目を細め、エドワードはウインリィに声をかける。
「そんなことないだろう。デザート作っていたじゃないか。」
「あ。そうだった。」
慌て立ち上がろうとする婚約者を制して、エドワードが立ち上がる。
「棚の中だろ。持ってくるよ。
……切り分けて持ってきた方がいいか?」
「えっ。ちょっと待って、エドが切るの?」
「俺が切っちゃまずいのかよ。」
「だって、力任せに切られて崩れたら嫌だもの。やっぱり私が切る。」
そう言って、結局ウインリィも席を立って台所へと歩いていく。
「何だよ。人がせっかく……」
「形を崩さずに切るのには、コツがいるのよ。」
台所でわいわい言い合いながら、並んで立つ恋人たちに、アルフォンスは頬を緩めた。
「二人とも相変わらずだなあ。
でも……兄さん、少し雰囲気変わったかな。
何か、人間として丸くなったというか……ちゃんと気遣いできるようになってる。」
「私からすりゃ、まだまだだけどね。」
あれも、一家の大黒柱になる自覚が出てきたんだろうさ。と、含み笑いをするピナコに、アルフォンスは小さく頷く。
「奥さんと子供……いっぺんに手に入れるんだものね。」
そう言ってまた微笑む。
「羨ましいかい?」
「羨むというより…純粋に嬉しい。
兄さんが、自分の幸せを確かなものにしようとしていることが……
旅をしていた頃は、僕の身体を取り戻す事しか考えていなかったから。あの人。
自分の事なんて、まるで考えてなくて……今だから言えるけど…僕を守るために、殺されようとしたこともあるんだよ。」
その告白に、ピナコは息を呑んだ。
「おい、アル。ばっちゃん驚かすようなこと言うなよ。」
ウインリィと共に台所から戻ってきた兄に咎められ肩をすくめる。
「もう昔話だろ。」
少し不貞腐れたように頬を膨らますアルフォンスに、エドワードは目を細めると、ずいと右腕を彼に見せつける。
「そうだな。この右腕も、お前が魂と引き換えに戻してくれたものだしなぁ。」
命を差し出したのはむしろお前の方だろうという兄に、アルフォンスは目を瞬かせて口の端を上げる。
「両腕がそろえば、兄さんなら必ず勝つと信じてたからさ。それに、僕を迎えに来てくれることも、疑わなかった。」
弟の言葉に、今度は兄が肩をすくめる。
「大変だった頃の話はその辺にして、デザートにしましょう。」
もっと楽しい話を、お茶と一緒にね。と笑いながらウインリィがテーブルに置いたのはアップルパイだ。
エドワードが持ってきた取り皿に、切り分けたパイをウインリィが盛り付け、その傍らではエドワードがカップに紅茶を注いでいる。
2人の共同作業を見守るアルフォンスの笑みは、ますます深くなる。こんな光景が見られるとは、なんて幸福だろうと、しみじみ思う。
「うん。美味しい。前に食べさせてくれた時より、格段に美味しくなってる。」
口いっぱいに頬張りながらの賞賛に、ウインリィは目を細めた。
「口の周り、パイの粉だらけよ。」
子供みたいと笑いながら紙ナフキンを手渡してくる幼馴染に、アルフォンスは「だって、ずっとウインリィのアップルパイが食べたかったんだよ。」と、照れもせず言い切ると礼を言ってそれを受け取る。
幼馴染をからかったはずが、反対に頬を染める恋人に、エドワードも笑みをこぼす。
「アルは、相変わらずタラシだな。」
「なにそれ?」
「自覚ないのかよ。余計タチ悪いぞ。」
非難する兄に、アルフォンスは不満げだ。
そんな彼らに、ピナコもウインリィも声を上げて笑う。
夜のしじまに、ロックベル家の幸せそうな笑い声が響くのだった。

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