Extra care - 3/7

『鋼の錬金術師』こと、アルフォンス・エルリック、24歳。
現在、人気花丸急上昇中の「独身」国家錬金術師だ。
毎年この時期になると、大総統府にある国家錬金術師機関に、将来有望な若手国家錬金術への恋文やら品物が軍用トラック数台分送られてくる。その大半がアルフォンス宛だ。
本人の意向で、お気持ちだけありがたく頂戴し、品物に関しては国内の様々な施設に送られるのだが、大人の事情で無視できない送り主のものだけが、アルフォンスに押し付けられる。

「こちらが、送り主の名前と住所、及び贈り物の種類と関係者のリストです。」
そう言って大総統の補佐官は分厚い紙束をアルフォンスに手渡す。くれぐれも粗相のないようにとくぎを刺して。
「承知しました。」
「アルフォンス君は、手紙の返事や返礼品をくれるので、お嬢さん方のウケがいいんだよね。
数年前までは、マスタング君の管轄だったんだけと……さすがにもうオジサンの部類だからね、彼も。」
ザマアミロと言わんばかりにグラマンが笑う。
マスタング少将も、毎年こんな目にあっていたのかと同情する。だが、女好きで有名な彼の事だ、きっと嬉々としてこなしていたであろう。
アルフォンスは、段ボール箱の1つから適当に贈り物を数個取り出すと、「あとは中央軍の皆さんで召し上がって下さい。」と側の従卒に伝える。
「毎年済まないね。」
従卒は嬉しそうに宝の山を見上げた。それもそうだろう。箱の中身はそんじょそこいらでは買えないような高級チョコレートだ。有名なショコラティエやパティシエの店で買ったものや、貴族がお抱えのパティシエに作らせたデザインや品質も贅をこらせたものばかりなのだ。
まったく、金持ちは無駄なものにお金かけて……おかげで、こっちは毎年大出費だ。
うんざりしてまた大きなため息が出る。
それでは失礼しますと退出しようとしたアルフォンスを、グラマンは慌てて呼び止める。
「はい?」
まだ、何かあるのかと振り返ると、大総統は一抱えもあるファイルのようなものを見せてくる。
よく見れば、それは表紙のついた写真の束だ。
「言ったでしょ。君も適齢期だと。」
アルフォンスは眉間にしわを寄せた。
「大総統……まさか、これ全部……?」
「いやー。あちこちから頼まれちゃってねえ。」
だからって、多すぎでしょ。何十冊あるんだ。この見合い写真。
「これだけあれば、好みのタイプの1人や2人はいるでしょう。
お見合いも、人生経験の1つだよ。」
ん?と好々爺よろしく笑ってくる狸爺のヒゲを思いっきり引っ張ってやろうかと、本気で思うアルフォンスだった。
「お気づかい、感謝します。
ですが、兄に倣って人生の伴侶は自力で見つけようと思っていますので……」
丁重にお断りを入れる。
よく我慢した!偉いぞ僕!と、自分で自分を褒めながら脱兎の如く執務室を飛び出した。

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