詐偽の対価 - 5/6

結局、アルフォンスは捕らえたテロリストを軍に引き渡すために、次の駅で下車せざるを得なかった。
「───いつになったら帰れるんだろう……」
がっくり肩を落として、ため息を漏らす。
「よう。アルフォンス。久しぶり。」
「ハボック少尉。ブレダ中尉。」
連中を引き取るために東方司令部からやってきた旧知の2人に、アルフォンスは懐かしそうに微笑む。
「昨日といい、今日といい……大活躍だな。ご苦労さん。」
ハボックの労いの言葉に、肩をすくめる。
「今日の事は済まなかったな。昨日捕らえた奴らから、このテロ計画を聞き出すのに時間がかかった。
ただの強盗と思って、捜査が遅れた。」
ブレダの謝罪に、首を振る。
「しかし、錬金術で列車爆破とは……めちゃくちゃなこと考えやがる。」
憲兵によって護送車に収容される詐欺師を横目に見て、ハボックが呆れた声を漏らすと、アルフォンスの表情が厳しくなる。
「国家錬金術師を騙り、このテロの中心にいた人物です。厳罰にしてください。」
「了解。『鋼の錬金術師』からの進言 として報告しておくよ。」
「アルフォンス。マスタング准将からだ。」
そう言って、ブレダが通信機の受話器を差し出してくる。苦笑を浮かべて受け取った。
「はい。」
『アルフォンス。無事か?』
まっ先に無事の確認をしてくる声に、目を瞬かせる。
「はい。怪我ひとつしていません。」
受話器の向こうで、安堵の息を漏らすのが伝わってくる。
『連中がお前に報復を計画しているらしいことを聞いて、連絡を入れたんだが、宿を出た後でな。
運の悪い事に、列車も発車してまっていた。
とにかく無事でよかった。』
心底安心したような声に、アルフォンスの顔も綻ぶ。
「ご心配してくださって、ありがとうございます。」
『いや…お前に何かあると、エドワードからの報復が恐ろしくてな。』
突然兄の名が出てきたことを訝る。
『それにしても、たった1人でテロリストを制圧するとは……本当に特殊急襲部隊並みの働きだな。昨日の現場にいた奴らが感心していたぞ。
どうだね。このまま軍に入隊しないかね。』
その言葉に、アルフォンスは眉を吊り上げる。
「何の冗談です…?将軍。」
『私は、まじめに勧誘しているつもりだが。』
「ありがとうございます。お気持ちだけで、結構です。」
眉をしかめて返答する。自然と語気が強くなった。
その声に、受話器の向こうで微かな笑い声が漏れる。
『やはり、嫌か。』
「ぜってー、嫌ですから!」
そう言い放って受話器を叩きつけるように切る様に、ブレダは肩をすくめる。
「軍に勧誘されたか。」
「僕は、錬金術師です。軍人になる気はありませんから。」
ブレダは、苦笑で頷く。
「分かってるよ。」
「でも、勿体ねえよな。その身体能力……いい軍人になると思うぜ。」
ハボックが目を細めて言うのに、軽く睨みつける。
「僕が体を鍛えているのも、錬金術のためですから。
それに、僕が目指しているのは国の役に立つ力ではなく、そこで生活する人を支えるための錬金術です。」
力説するアルフォンスに、軍人は顔を見合わせ苦笑する。
「だから、マスタングさんはお前に期待している。
いつかお前の錬金術が、あの人の作る新しい国の役に立つ日が来るってな。」
真面目な顔で話しかけてくるハボックに、アルフォンスは軽く頷くと真剣な表情でマスタングを支える2人を見る。
「でしたら。早くあの人を上に押し上げてください。
マスタング大総統の理想を叶えるための助力は惜しみませんから。」
「あらら。言っちゃたよ。
後で、前言撤回なんて言うなよ。」
「そっちこそ。あまり、僕を待たせないで下さいよ。」
3人は、声を上げて笑い合うのだった。

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