駅からロックベル家に到着した兄弟を、飼い犬のデンが発見して嬉しそうに尾を振りながら、歓迎するように声を上げる。
その様子に、アルフォンスはアメストリスに帰ってきたことを実感するのだった。
「ただいま。デン。」
飛びついてくる犬の頭をなでてやる弟を横目で見ながら、エドワードは玄関ポーチの階段を上がってドアを開ける。
「ただいまーっ。アルが、帰ったぞーっ!」
屋内に呼び掛けると、バタバタと駆ける音と共に、兄弟たちの幼馴染が飛び出してくる。
「アルっ!!」
呼びかけに視線を上げる。瞳を潤ませて自分を見つめる彼女に、身体を取り戻して帰ったあの日と同じだと、笑みを漏らした。
「ただいま。ウインリィ。」
笑いかけて名を呼べば、瞳一杯に涙を浮かべる。
今にも飛びつきそうな勢いの彼女を、エドワードが左腕でやんわりと腰を抱える姿勢で引き留めた。
「こら。」
咎めるものの、その声は優しく、口元は笑みを作っているエドワードに、ウインリィはハッとした表情を浮かべて照れ笑いを向ける。
「おかえり。」
階段を上ってくるアルフォンスを待って、ウインリィは幼馴染に微笑みかけると我慢できないとばかりに抱き着いた。
エドワードよりも高い位置にある金色の瞳は、優しく微笑んでいる。
「ただいま。」
アルフォンスはもう一度そう言って、彼女を軽く抱擁するとすぐに体を離した。
「ウインリィ。また綺麗になったね。」
さらりと言われた称賛に、ウインリィは頬を染め、エドワードは弟をねめつける。
「ウインリィ。兄さんと婚約してくれてありがとう。ふつつかな兄ですが、よろしくお願いします。」
「えっ……いいえ。こちらこそ、よろしくお願いします。」
ぺこりと頭を下げるアルフォンスに、ウインリィも慌てて頭を下げる。
「おい。アル。“ふつつかな”とは何だ。」
それが、大事なお兄様に対するお前の評価か?と食って掛かるエドワードに、弟は至極真面目な顔で反論する。
「だって、兄さんみたいに、口は悪いわ、態度悪いわ、その上すぐ喧嘩するわ……面倒かける事この上ない男と結婚してくれるって言うんだよ。
弟としてお礼を言うのは当然じゃないか。」
「ほーお。お前、俺の事ずーっとそう思っていたのか。」
口の端を吊り上げ、自分より上背のある弟を睨み上げながら指をバキバキ鳴らすエドワードに、アルフォンスは肩をすくめる。
「客観的事実を言っただけだよ。」
「アルフォンスくーん?」
顔を引きつらせ、両手を戦慄かせる兄に、アルフォンスも、地雷を踏んだかと顔を引きつらせて一歩退く。
到着早々、喧嘩勃発かという雰囲気を変えたのは、「ふつつかな兄」の婚約者だった。
「でも、誰よりも家族思いで、誰よりも優しくて、決して諦めない強い心を持ってるわ。だから、私はエドを選んだの。
ごめんね、アル。」
また、アルの事ふっちゃった。
そう笑いかける彼女に、アルフォンスも苦笑する。
「うん。それに、兄さんは誰よりも自分に厳しい。」
そう言って、アルフォンスはエドワードの左足に視線を向ける。
「そんな兄さんに、僕はいつだって敵わないんだ。」
眉尻を下げて笑いかけてくる弟に、エドワードは、今にも振おうとした握り拳を慌てて引っ込める。
「アル……」
「婚約おめでとう。兄さん。
もう、ずっと言いたくて……やっと言えたよ。」
なかなか、切っ掛けがなくてさ……
頭をかきながらぼやく弟に、エドワードも苦笑する。
「ありがとうな。アル。」
笑い合う兄弟に、家の中からもう1人の人物が声をかけてくる。
「やれやれ。いつになったら家に入ってくるんだい。
玄関先で、いつまでも立ち話しているんじゃないよ。」
相変わらずの、べらんめえ口調で奥から出てくる矍鑠たる老婆に、アルフォンスは満面の笑みを向ける。
「ばっちゃん。ただいまっ!」
「おかえり。また逞しくなって帰って来たね。アルフォンス。」
眼鏡の奥の小さな瞳が、柔らかな曲線を描いて、2年ぶりに帰国した「3人目の孫」を迎え入れた。
幸せのカタチ - 1/4
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