詐偽の対価 - 3/6

ギャーギャーと泣き喚きながら男たちが白状した「計画」に、アルフォンスは小首を傾げる。
足元では見た目屈強そうな男2人が、涙目で「オニ」「悪魔」と情けない声で罵っている。
「僕や、関係のない乗客を殺そうとしている人が、よくそんなこと言えるね。
それより、列車や線路に爆薬を仕掛けずに列車を爆発させるって、どういうこと?」
両手を合わせながら、見下ろしてくるアルフォンスに男の1人が、顔を引きつらせながらも、挑みかけるような声音でこう言った。
「こっちにも、錬金術師がいるんだよ。お前と同じ国家レベルの凄腕がよ。」
「───⁉
国家錬金術師がテロリストに?」
アルフォンスの驚いた顔に、男たちは一矢を報えたとほくそ笑む。
「ああ、そうだ。紅蓮の錬金術師が仲間にいるんだよ。」
「お前も国家錬金術師なら聞いたことがあるだろう。イシュバール殲滅戦で上官殺しをやった爆弾狂のキンブリーさ!」
その名にアルフォンスの表情が固まった。
4年前の中央郊外での戦闘がフラッシュバックする。ハインケルから受け取った賢者の石を使っても、ぎりぎりの瀬戸際、紙一重で生き残れた戦闘だった。
あの時、キンブリーはハインケルによって喉笛を噛み切られ、瀕死だったはずだ。あの傷で生き残ったのか?
ありえない。だが、ありえない事などないのをアルフォンスは何度も経験してきている。
あの時彼が絶命したか分からない。プライドの攻撃から逃げるだけで精一杯で、彼の生死を確認するなど余裕はなかった。
何より、あいつは賢者の石を持っている。石の力を使えば、瀕死の重傷を治す事も、走行中の列車を爆発させることも可能だ。
確認しなければ……!
彼らの仲間だという「キンブリー」が、あのゾルフ・J・キンブリー本人であるのか。
もし、本人であれば、なぜこんな連中に肩入れしてるのか聞きたいところだ。だが、彼の価値観はアルフォンスには理解しがたい。彼の興味を引く何かがあるのかもしれない。
もし、彼と再び戦う事となったら?勝算はあるのか?
残念ながら答えはNOだ。
でも……
「止めなければ……」
強張った顔で呟くと、足元の二人の襟首をつかんで立ち上がらせる。
「会ってみたいですね。その『紅蓮の錬金術師』に……一緒に行きましょうか。」
そう言って2人を引きずるようにして歩きだす。
「おっおい。一緒に……って。」
「あの人がどこにいるのか分かってるのかよ。この列車に乗っているとは限らないぜ。」
「これに乗っているはずです。
確かに、ただ列車を爆破するだけなら外から攻撃するだけで済むかもしれませんが……目的の中に僕を殺す事も含まれているんでしょ?
だったら、確実に殺せたのか確認する必要がある。
その後で、列車を爆破するなら…最後尾に待機していて、連結を外し安全を確保してから……というところじゃないですか?」
自信ありげなアルフォンスに、2人は言葉を失う。図星だったようだ。
大男2人を引きずりながら車内を歩くアルフォンスは、乗客らの目を嫌でも引き付けた。
「おい。あんた。そいつらどうしたんだ。」
腕を拘束された悪人面を指して、乗客の1人が尋ねる。
「この人達、昨日の銀行強盗の一味なんです。だから、車掌さんに引き渡してきますね。」
「一人で大丈夫かい?」
強盗という単語に、他の客も驚いて彼らを見る。
手伝おうという申し出を、アルフォンスは笑顔で制した。
「大丈夫です。こう見えて力はありますから。」
爽やかに言い切って去っていく後ろ姿を、乗客たちは呆然として見送るのだった。

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