a captive of prnce 第12章:キュウシュウ戦役 - 4/9

 雲の上を一隻の艦が駆けて行く。
 神聖ブリタニア帝国統合作戦本部所属、浮遊航空艦アヴァロン。
 ブリタニア国内でもまだ極秘扱いの最新技術、フロートシステムを採用した最先端技術の塊のような新造艦は、帝国宰相シュナイゼルの新たな旗艦として作られたものだが、今回の作戦に於いてスザクが借り受ける事になった。
 ちなみにこの艦の心臓部であるフロートシステムを開発したのは、今は艦長席に座るロイド・アスプルンドである。
 その背後、この艦の所有者であるシュナイゼルの席に座るスザクを、オペレータ席のセシルと共に伺う。
「やっぱり、いつもと様子が違うねえ。」
「ええ……こんな殿下初めて見ました。」
 気遣わしげに見守る中、スザクからはピリピリとした緊張感とともに苛立ちも感じられる。
「この作戦も、スザク君からシュナイゼル様に提案したと言うし……相当腹が立ってるみたいだね。亡命政権の長に……」
「何か因縁でもあるのでしょうか。」
「さあねえ。ただ、戦争を早く終わらせるために自決した訳でしょ、彼の父親。
その首相のすぐ側にいた彼が、また戦争の種を持って来たようなものだからね。」
「───そうですね。」
 無言で、正面を睨みつけているようにも見れるスザクに、セシルは小さく息を吐く。
 前面のモニターを見ていたスザクが、口を開いた。
「間もなく予定空域に到達する。海上の総督に報告を。」
「イエス ユア ハイネス。」
「射撃可能な高度まで降下。総員戦闘配備。
これより指揮をロイド・アスプルンド少佐に一任する。」
 そう言って席を立ち上がると、羽織っていたマントを外す。
 マントの下は既にパイロットスーツだ。
 通信機を装備すると、ロイドとセシルに視線を移した。
「それじゃあ。ロイドさんセシルさん後はお願いします。」
「イエス ユア ハイネス。」
「スザク君。平常心でね。」
 ロイドらしくない声かけに、スザクは目を大きくする。
「はい。……そんなに普通じゃなく見えますか?」
「見えるねえ。イライラがこっちにまで伝わって来たよ。」
 目を細めて答えるロイドに苦笑する。
「すみません。でも、平常心を失っているつもりはないので……」
「うん。この出撃は新システムのテストも兼ねているから、僕としても気になるんだよね。しっかりデータとらせてもらうし……」
「ロイドさん。」
 ロイドを窘めるセシルに、スザクからいつもの笑みがこぼれた。
「それじゃあ行ってきます。」
「行っておいで~。」
 飄々と見送るロイドに笑い返し、スザクはコンダクトフロアを出て行った。
「本当に大丈夫かしら。単騎で敵の中に突入だなんて……」
「大丈夫じゃないさ。だから、我々のバックアップが大事なんでしょ。
シュナイゼル様もコーネリア様も、この作戦を絶対成功させるつもりで動いていらっしゃるし。
ホント、やんちゃな弟を持つと苦労するね。」
「……それ、言い方がなんか変ですよ。」
 ロイドの言葉遣いを指摘して、セシルは戦略パネルに意識を集中させる。
 そんな彼女に目を細めると、ロイドも自分の席に戻った。

 ランスロットの出撃準備を進めていたスザクは、下方からの振動に口元をつり上げる。
「始まったな──。」
 全艦にセシルの声が響き渡る。
「関係各員。遠距離砲撃戦用意。シールド展開中のため、レールガンは使えません。ミサイル発射用意。照準、敵対空ミサイル砲台。
撃てっ!!」
 セシルの号令とともに、ミサイル発射音と振動が艦内に響き渡る。
 オープンで聞こえてくるコンダクトフロアからの通信に、通信士の叫び声が入った。
「敵基地より戦闘機発進を確認!」
「全システム。迎撃戦用意!」
 セシルの凛とした声が響く。
「殿下。聞こえますか。」
 スザクのインカムに、セシルの声が届く。
 モニターパネルの彼女を見た。
「作戦概要を再度確認します。本館は、高高度から敵の前線を突破しつつ、発艦ポイントまで移動中。ポイント到達次第、嚮導兵器Z-01ランスロットはフロートユニットを使用し空中より発艦。
その後、ランスロットは敵の第二陣を突破。フクオカ基地中央にある敵の総司令部を強襲せよ。なお、フロートはエナジー消費が激しいため、稼働時間には留意すること。」
「イエス。マイ ロード。」
 静かに微笑むスザクに、モニターの向こうのセシルが一瞬声を失った。
 心配そうに眉根を寄せる彼女に、力強い笑みを返す。
「敵に、ブリタニアの真の強さを見せつけてやりますよ。」
 その言葉に、セシルからも笑みがこぼれる。次の瞬間にはお互い真剣な表情に戻った。
「アヴァロン、ポイント到達まであと30秒。ランスロット発艦用意。」
「ランスロット。MEブースト……」
「ランスロット、発艦。」
「発艦!」
 白き騎士が、アヴァロンから下方に見える雲海めがけて飛び出した。
 暗い夜空を切り裂くように白い筋を残して消えるその姿は、彗星のようであった。

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