a captive of prince 第11章:再会 - 1/7

「おはようございます。」
 挨拶と共に寝室のカーテンが開けられ、朝の光が容赦なく射し込んでくる。
 ベッドの上のスザクは、まぶしそうに重たい瞼を開けた。
「夕べは、またずいぶんと遅くまで起きていらしたようですわね。」 
 隣室の応接の、夕べ自分が用意した茶器や食べ尽くされた茶菓子の残骸を見て苦笑するアメリーに、あくびをかみ殺したスザクがおっくうそうに答える。
「うん。……寝たの1時近かったかな。」
「まあ。そんな遅くまで……お疲れでしたでしょうに。
どんなお話をしていらしたのか伺ってもよろしいですか。」
「兄さんとロイドさんが、僕に隠し事をしていたから追求していたんだ。」
「あらまあ。」
 アメリーは驚いて口元に手をやる。
「それで。お2人は、隠し事をしていた事を謝罪して下さったのですか。」
「うん。」
 満足そうに笑うスザクに、肩をすくめる。
 道理で、今朝のロイドがいつにもまして顔色が悪かった訳だと得心する。
「ご朝食の用意をします。今日のスケジュールはその時に申し上げますね。」
「1つ確認していいかな。その朝食…誰かと一緒?」
「兄上様は、今朝はコーネリア総督とご一緒ですよ。」
 その返事に、安堵の息を吐くスザクだった。

「本日予定しておりました孤児院への慰問は、副総督もまだお加減がよろしくないという事で、一週間後に延期されました。
子供達にはお詫びとして、本日寄贈予定の玩具や菓子類を届けるよう手配しております。」
「そう。子供達には悪い事をしたな……ユフィも残念がっていただろう。」
「ユーフェミア様の秘書のメリッサ嬢に伺ったら、部屋でクッション抱えてふくれていらっしゃるそうですよ。」
 笑いを含ませたアメリーの話に、コーネリアの指示である事を察して肩をすくめる。
「あっちはあっちで、揉めたんだ。」
 今頃、年下の弟妹を持つ兄姉同士で朝食が盛り上がっているのだろうと苦笑する。
「そう言えば、総督に帰還の挨拶がまだだった。」
「昨夜のうちに面会の申し入れを致しました。朝1番で、本日の昼食のお誘いを頂きましたのでその席でご報告下さい。」
「了解。」
「それから、昨日私の方にアッシュフォード家のミレイ嬢から連絡がありまして……」
「ミレイさんから?」
「はい。文化祭にお越しになる前に、学園を見学にいらっしゃれないかと……」
「学校の見学か……行ってみたいな。」
 遠い目で懐かしむように呟くスザクに、アメリーは微笑む。
「そう仰ると思って、承諾しました。」
「本当に?」
「はい。スケジュールを調整して、明後日の午後を空けました。」
「すごいや。ありがとう、アメリー!」
「スザク様。ずっと、普通の学校に行ってみたいと仰っていましたものね。」
 7年前、日本から連れて来られたスザクは、皇族として身につけなくてはならない事があまりにも多く、ユーフェミアのような学生生活を送る余裕はなかった。ユーフェミアやジノとアーニャから聞かされる学校の様子を羨ましそうにしているスザクを見てきたアメリーは、ミレイの申し出を一も二もなく快諾したのだった。
 嬉しそうにしているスザクに満足すると、手綱を締める。
「そのため、明後日の午後の予定を全部繰り上げさせて頂きましたので、今日、明日は分刻みでスケジュールを組みました。キッチリこなして下さいね。」
「……うそ……」
 にーっこりと笑う秘書官のそれが、悪魔のように思えた瞬間だった。

 副総督より「未処理」としてスザクの方へ回されてきた書類に、難しい顔をしながらサインをしている姿を見ながら、シュナイゼルは紅茶を楽しんでいた。
 執務机の脇の応接にいる彼を気にする様子もなく、スザクは黙々と仕事をこなしていく。
 室内は、書類の上を走るペンの音と紅茶の醸し出す香りが漂い、独特の静けさに包まれている。その空気を、シュナイゼルはとても意心地よく感じていた。
 こんな風に、真剣に公務に勤しむ弟の姿を間近で見る事があるとは思いもしない事だった。
 ペンの音が止み、アメリーが部屋に入ってくる。
「こっちはサイン済み。それから、この2件は承認出来ないから戻して。どっちも予算を多く見積もり過ぎだ。このままでは総督にお伺いを立てれない。」
「分かりました。」
「それから……ユフィに言っておいて。“溜め込むな”て。」
「はい。」
 くすくす笑いながら出て行く彼女を見送って、スザクはやっとシュナイゼルの向いに座った。
「お待たせしてすみません。」
「いや。お前の仕事ぶりが見れて楽しかったよ。」
「それ、言わないで下さい。兄さんが側で見ていると思うと手が抜けなくて、いつもより時間がかかっちゃって……いつもは手を抜いているという意味じゃないですよ?」
「わかっているよ。」
 シュナイゼルの笑みはますます深くなっていく。
「なかなか優秀な仕事ぶりで安心したよ。」
「本当ですか?良かった。兄さんにそう言ってもらえると自信になります。」
「それにしても、昨日の今日でずいぶんと忙しそうじゃないか。」
「はい。実は、明後日の午後の予定を繰り上げたので……
エリアにある学園の見学に行くんです。」
「学校見学?」
「ロイドさんの婚約者の家が経営する学校の文化祭に招待されていて、その前に学校を見せてくれると……
僕、ブリタニアの学校は士官学校しか知らないから、楽しみで……」
「ああ、そうだね。アッシュフォード学園は、このエリアでも人気の高い学校だと聞いているよ。楽しんでくるといい。」
 ひとしきり、学校の話題で談笑すると、スザクが思いだしたように話題を変えた。
「兄さん。昨夜の『R計画』ですが…クロヴィス兄さんの後を引き継いで、兄さんが研究を続けるのですか?」
「いや……中心にいたクロヴィスは死んでしまったし、あのラボもバトレー更迭の時に閉鎖してしまったからね。
新たに始めるには資金の問題もある……これは、このまま立ち消えかな……」
「そうですか。」
 カップを口に運びながらほっとした表情のスザクに、シュナイゼルが含みのある笑みを浮かべていた事をスザクは気がつかなかった。

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