a captive of prnce 第12章:キュウシュウ戦役 - 3/9

「現況は了解した。キュウシュウへのルートは確保できているか。」
「カンモン大橋を落とされているため、陸路は使えません。
海路は防衛できています。制空権は、フクオカ周辺は敵に押さえられました。」
「海路のみか……敵もそれを見越して体勢を作ってくるな。」
 現況を把握したコーネリアが、スザクに視線を移す。
「スザク、ご苦労だった。今日は兄上のところで夕食だったのではないのか。」
「はい。」
「早く行って差し上げろ。くれぐれも余計な事は言わないでくれよ。」
「必要な事は伝えます。何を伝えるかは、私の判断でよろしいですか?」
「任せるが……スザク、お前何を考えている?」
「恐らく姉上のお心遣いとは真逆の事を……
正直、腑が煮えくり返っているので……あの男のせいで……!」
 そう言って、モニターの澤崎を睨みつける。
「スザク……お前。」
「殿下。この件から手を引くのでは?」
 先ほどとは全く違う事を言う彼に、困惑よりも面白そうな顔でダールトンが問う。
「姉上はこれをエリア内の暴動として処理されるおつもりですね。
でしたら……駒としていくらでも使って下さい。」
「だが……」
 コーネリアの次の句を待たずに、スザクは失礼しますと言い残して出て行ってしまう。
「珍しいですな。スザク様があれほど感情を表に出されるとは……」
「本人の言う通りなのだろう。腑が煮えくり返っていると……」
「スザク殿下は当初、澤崎を間においての中華のと代理戦争を懸念されていたようです。この件に関わる事を避けようとしておいででした。」
「そうか……自分の存在が、向こうの口実になるのを恐れたのだろう。」
「ですが、総督は植民エリア権限による反乱分子の鎮圧という形で処理しようというお心づもりで事に当たっておいでだ。
スザク様は、それを察して前言を翻したのでしょう。」
「───駒として使え……か。奴め、何を考えている……」
「また、無茶な事を考えていなければいいのですが……
カワグチ湖の事といい、チョウフの時も、あの方にはヒヤヒヤされ通しです。」
「兄上が側にいらっしゃるのだ。今回はそんな事もあるまい……」

 
 だが、コーネリアの期待はあっさりと裏切られた。
 その夜半、コーネリリアに租界に滞在中のシュナイゼルから面会の申し込みがされたのだ。
 急遽行われたその面談の場に、スザクも同席していた。
 シュナイゼルが齎したのは、一手どうしても足りないと思案していたコーネリアに光明を与えるものではあったが、同時に強い戸惑いをも生じさせる作戦であった。
「兄上は……それを了承したのですか。」
 あんまりな作戦内容に、自然と語気が強くなる。
「スザクッ。お前は……自分の命をなんだと思っている!」
「──兄上と姉上が、ご自分のもののように慈しんで下さっていると理解しています。」
「違う!違うぞ、スザク。私は、私の命以上に大事だと思っている。 
それは、兄上の方がもっとそのはずだ。」
 怒りを滲ませて言うコーネリアに、スザクは絶句した。
 驚きで見開いた目で姉を見つめていたが、やがて顔を伏せ、ゆっくりと頭を振る。
 両手を口元へ持って行き、何かを耐えているようだ。
 兄と姉はそんなスザクをじっと見守っている。
「………そんな風に言って頂けるとは……思いませんでした。」
「お前は、自分の価値を低く考え過ぎだ。
そして、私達の事も見くびっている。生まれが違う事も血がつながらない事も関係ない。7年間弟として一緒に生きて来たのだ。大事に思わないはずがない。」
「───ありがとうございます。」
「だから、この作戦は考え直そう。」
 コーネリアの提案に、スザクは首を振りシュナイゼルの否と告げる。
「兄上!」
「スザクが提案したこの作戦は、悪いものではないと思う。
中華が後ろに控えている以上、事態を速やかに収束しなくてはならない。そのためには、中華連邦が兵を繰り出す大義名分となっている、澤崎を叩けばよい。
これは、君も同じ意見だと思うが。」
「はい。フクオカにいる澤崎を潰すためには、海上から攻撃するしかありませんが……」
「決め手に欠けるね……そこで、アヴァロンを使って空から攻撃を仕掛けるのは大変有効だと思う。」
「それにも賛成です。ですが、本隊に先んじてランスロットを投入するというのは……」
 コーネリアが渋い顔でスザクを見る。
「ランスロットはあくまで揺動だよ。敵の注目をスザクとランスロットが集めてくれれば、本隊の揚陸部隊も上陸しやすくなる。」
「ですが、ランスロットたった一機で敵のただ中に飛び込むというのは……!」
「捨て駒と思わせるのが狙いです。僕が単騎で説得に来たと思わせれば、澤崎にも隙が生じるでしょう。」
「相手がそれに応じず、お前を討ちに来たらどうする。」
「その時は闘うまでです。姉上が来るまで……!」
「責任が重いな……お前にそんな命がけの真似をさせるとは……」
「私が政庁に残ってバックアップするよ。エリア10とエリア12と連携して中華に圧力をかける。」
「兄上……」
「だから、君も全力でスザクを援護してやって欲しい。」
「───解りました。」
「ありがとうございます。
こんな事はこれきりにしたいのです。過去の亡霊に脅かされるのは……!」
 スザクは、鋭い目で語った。

 スザクとシュナイゼルが総督執務室を出ると、そこにはユーフェミアが立っていた。
「ユフィ。」
「君も気になっていたのだね。」
 シュナイゼルの言葉に黙って頷く。
「スザクも出陣するのですか?」
「租界には私が残る事になった。だから、ユフィは心配する事は無いからね。」
 宥めるように話す兄に笑顔で応える。
「スザク……戻ってからでいいのですが、貴方に相談したい事があって……」
「なに?仕事の事?」
 スザクの問いかけに、会談が終わるまで待っていたにもかかわらず、ええ、まあ…と曖昧に答える。
「こんな大変な時に言う事じゃないのかもしれないのですけれど、どうしても気になってしまって……でも、やっぱり全てが片付いてからにします。
だから、無事に戻って来て下さい。」
 お願いします。と念を押す彼女に、スザクは笑顔で応える。
「うん。必ず。」
 立ち去る兄弟の背中が小さくなるまで、ユーフェミアはずっと見送っていた。
 だが、その彼女もスザクが自ら過酷な戦地に赴くとは思いもしなかった。
 スザクの笑顔があまりにも穏やかで優しかったので……

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