真理の扉からアルの身体を持ってきちゃった 11 - 5/6

「いったい何だってんだ?」
急に上から降りてきた命令に、慌ただしく検問所の設置を行いながら、憲兵隊員は毒づく。
「イシュバールの英雄も地に落ちたもんだな。
大総統に何をたてついたんだか、直属の部下全員取り上げられて、デスクワークばかりさせられてたそうだぜ。」
「それで、不満が募って奥さん誘拐したってか!?」
大佐まで上り詰めた人間が、そんなに短慮か?と半信半疑で設営を終わらせる。
市街に入ろうとする車両を軍・民間問わず停車させ、マスタングを見つけるのが彼らに与えられた任務だ。
とはいえ、早朝で人々もまだ活動し始めてはいない時間だ。車の影すら見えない。
「本当に大総統府に乗り込んでくるかねえ。」
「いくら夫人を盾にしているとはいえ、軍全体を敵に回すことになるんだぜ。」
「普通そんな馬鹿な戦いを仕掛けるか?」
「破れかぶれ……というよりは、玉砕覚悟なんだろうさ。
だから、地に落ちたもんだって……っ。」
無駄話を交わしていた全員が息を呑んだ。
こちらへ向かって軍用車が走ってくる。
車に乗っている人影の多さに、固唾を呑んだ。
車両が近づくにつれ、その中の人物のが誰なのかはっきりしてくる。
「とっ止まれ!!」
ゲートを閉め、その前に飛び出すと銃を構える。
車は静かに停まり、運転席からメガネをかけた技術職風の男が顔を出した。
「何かありましたか。」
「車の中をあらためさせてもらう。」
そう言って後部座席を見た隊員が、目を剥いた。
「マ…マスタング大佐……!」
表情を強張らせ、上ずった声を漏らす彼に、車中の人物は軽く目を伏せ薄く笑う。
「私に何か用かね。少尉。」
制服の階級章で確認して問いかければ、相手はさらに表情と声音を強張らせる。
「貴方の逮捕命令が出ています。
人質を解放して、大人しく投降してください。」
「ほう。そんな命令が出ているのか。」
「さあ。2人を解放して、車から降りるんだ!」
叫ぶ男を鼻で笑う。周囲を取り囲む憲兵が一斉に銃口を向けた。
「ヒュリー曹長。」
「アイ・サー!」
マスタングの呼びかけに、運転席のヒュリーが答える。
「ふたりとも、頭を低くして!」
ホークアイが夫人とルースに指示を出す。
ルースは、咄嗟にブラッドレイ夫人の腕を強く引いて前傾姿勢にさせると、彼女に覆いかぶさるようにして、自分の目前にある助手席の背もたれにしがみついた。
急発進した車が、バキバキと音を立ててバリケードを破壊し、検問を突破する。
猛スピードで走る車の後部ドアが左右同時に開かれ、車内を風が吹き抜けていく。
後方から憲兵たちの怒号が聞こえる。
が、それも拳銃の発射音と、バチバチという音にかき消された。
後方から爆音が轟く。きな臭い匂いが風に乗ってきた。
バタンと音を立ててドアが閉じられると、車は速度を落とした。
シートから体を離したルースが後ろを振り返ると、検問所から炎が上がっている。
「いやはや。派手ですねえ。」
ブレダが、楽しそうに笑った。
「さあ。長い一日になるぞ。」
不敵な笑みを浮かべる大佐に、部下たちは苦笑する。
「気合い入れていきますか。」
この攻撃で中央全軍を敵に回したというのに、明るく楽しそうな車内に、ブラッドレイ夫人は唖然とし、力が抜けた身体をシートに預けた。
傍らの少年も、驚いた表情でいながら、どこか楽しそうだ。
これから、私達はどうなってしまうのか……
夫人は瞑目すると、深々と息を吐くのだった。

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