真理の扉からアルの身体を持ってきちゃった 11 - 1/6

自分にまとわりついていた黒い影が、突然霧のように消えてなくなった。
アルフォンスは、また白い空虚を漂っていた。
どこからか、自分を呼ぶ声がする。
遠くから呼びかけるその力強く、頼もしい声に懐かしさがこみ上げてくる。
アルフォンスは、空間を漂うのを止め身体を動かした。その声の主を求めて。

 

「アル。アル!おい。アルフォンス!」
鎧の頭を外し、血印に手を触れて呼びかける。
無反応だった鎧がピクリと動いた。
「あ……れ?」
意識を取り戻した息子に、父、ホーエンハイムは安堵の笑みを漏らす。
「父さん……」
なぜ、父がここにいるのだろう。ぼんやりとする意識で、アルフォンスは尋ねた。
「ここ、どこ?」
「カナマだ。」
「なんでボクこんな所に……」
東軍と北軍の合同演習場にいたはずだ。それが何故……
頭がはっきりしてくると同時に、記憶も鮮明になる。アルフォンスは、はっとして立ち上がった。
「父さん。セリム・ブラッドレイは人造人間ホムンクルスだった!!」
訴える彼に、ホーエンハイムは頷く。
「うん。ゴリウスさんにきいたよ。」
「ダリウスだ!」
傍らに立つ合成獣キメラが、顔を怒らせ訂正する。が、スルーされた。
「くそぅ……中に入られたって言うか、魂に干渉されたみたいで、気持ち悪かったな……」
「奴らは俺の分身の、そのまた分身みたいなものだからな。
……俺の血筋であるアルの血印に干渉しやすいのかもしれない。」
アルフォンスの言葉を受け、ホーエンハイムがそう分析した時、彼らの後ろの藪をかき分けて、見知った老人がライオンの合成獣キメラを抱えて現れた。
「フーじいさん!」
懐かしい人物に、アルフォンスが駆け寄る。
「話は後ダ。この者の手当てヲ。」
ダリウスがハインケルに声をかけ、応急手当を始める。
フーは、一瞬目を見開いてホーエンハイムを見ると、確信に満ちた声で話しかけた。
「おぬしが、エドワードの父だナ。」
「そう言う貴方はシンの国の人……かな?」
問いかけに問い返してくる男へ、フーは「そうダ。」と答える。
「ああ。あそこは良い国だ。昔……」
ピリピリとした緊張感と、草木が燃える焦げ臭い匂いや煙が漂う中、世間話を始めるホーエンハイムに、ハインケルが吠える。
「おいおい。のんきに話してる場合じゃないぞ!
あの影の化け物、どーすんだ。」
「影?」
合成獣キメラの言葉に、ホーエンハイムは表情を硬くする。
「人造人間の『プライド』か!!」
「そうダ。グラなんとかいうのを食ってしまって、手がつけられなイ。」 ハインケルとフーの話から、アルフォンスは現況をおおよそ理解した。
セリムが、以前父が言っていた「とんでもない人造人間ホムンクルス」プライドであること。
そのプライドが仲間であるはずのグラトニーを吸収して暴れている。
アルフォンスが状況を分析している最中、この森を構成する大木が、地響きを立てて倒れていく。
「───派手に暴れてるな。
奴の相手はエドがしているのか?」
「あア。若……を取り込んだグリードという人造人間ホムンクルスとワシの孫娘も一緒ダ。」
「兄さん?兄さんもここにいるの!?」
父とフーの会話に、アルフォンスが割込み確認する。
「ああ……今日、ここに着いたばかりだ。さっきまで、俺の話を聞いてくれてたよ。」
苦笑しながら話す父に、安堵の息を吐く。
「そうか……兄さんも、父さんのこと……」
「……トリシャから俺への遺言も伝えてくれた。」
「母さんの遺言?」
「ピナコが聞いてたらしい。」
「……そう。」
父への怒りと反発心しかなかった兄が、遺言を預かり伝えた……父の身の上話を、兄はどんな顔をして聞いたのだろう……
きっと、なんとも言えない困った顔をしていただろう。自分のようにすんなりと納得できなかったはずだ。
それでも、母の言葉を伝えたという事は、少しは父に歩み寄れたのだ。

───よかった……

兄が父と共に闘う…そして自分も……家族で同じ敵に立ち向かう事ができる事に、アルフォンスは勇気が湧いてくるのを感じた。

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