真理の扉からアルの身体を持ってきちゃった 11 - 6/6

リオールでジェルソとザンパノに合流したマルコーと傷の男は、アルフォンスの伝言に従いエルリック兄弟の父であるヴァン・ホーエンハイムがいるという、カナマにやって来た。
辿り着いたその村でまっ先に目を引いたのは、巨大なドーム状の山だった。
焼け焦げた木々の臭いと、そこここに切り倒され転がる大木に一同は目を見張る。
「うわっ。何だこりゃ。」
「火事か?」
「カナマってスラムは、ここでいいんだよな。」
「何があったんだ?」
「つーか。なんだこの山!」
呆然とするマルコーとヨキらを他所に、同行していた合成獣キメラの2人は、山火事(?)の後始末をしている人物の中にかつての同僚を発見し、彼と揉め始めた。
ギャンギャンと吠えまくる合成獣キメラたちを呆気に取られてみているマルコーの背後から、聞き覚えのある声が呼びかけてくる。
振り返ってみると、バズクールで別れた少年が手を振りながら駆けよって来る。
「エドワード君!」
数カ月ぶりに再会した少年は、別れた時よりも背が伸び、身体も大きくなっていた。
成長著しい年代である彼の、目に見える変化に、医師でもあるマルコーは思わず目を細める。
「久しぶり。しばらく見ないうちに逞しくなったね。」
微笑んで語りかけてくる男性の誉め言葉に、エドワードは一瞬目を大きくすると、「そうかな。」と頭を掻きながら照れ笑いする。
「バズクールで坑道が崩れて行方不明と聞いていたが……元気そうでよかった。
アルフォンス君とウインリィちゃんも心配していたが、君の生存を信じていたよ。」
彼の言葉に、エドワードは眉尻を下げる。
「ウインリィとは、リゼンブールで会いました。」
「そうか。無事に家に帰りつけたんだね。」
安堵の表情を浮かべるマルコーに、エドワードは軽く頷く。
「マルコー先生。あの時はありがとうございました。あいつを一緒に連れて行ってくれて……」
「いや…結局私達も途中で別れてしまったから……」
そう言ってマルコーは傍らの傷の男を見やる。
エドワードは、傷の男スカーを睨みつけた。男は表情を変えることなく、それを甘受している。
「エド。その方は?」
息子が丁寧にあいさつをしている様子を見て、ホーエンハイムが近寄ってくる。「ああ……ドクター・マルコー。
オレに、賢者の石の事を教えてくれた人で……あいつらの計画を止めようとしている。」
「では、同志という事だ。初めまして。エドワードの父のヴァン・ホーエンハイムです。」
目を細めて握手を求めてくる男の容姿から、父親であることに疑いの余地もない。
マルコーも微笑んでその手を握った。
「初めまして。」
ホーエンハイムが、自分の知り合いと仲良くしていることに、もやもやとした感情を覚えたエドワードは、相変わらず怒鳴り合っている合成獣キメラに視線を移す。
「うっさいな。
ブタもデブもゴリもケンカすんなよ。」
「てめえ、ケンカ売ってんのか!!」
こういう時だけは、息の合う3匹であった。

「ゆっくり挨拶している時間はないな。」
ホーエンハイムの言葉に、エドワードは頷く。
「先生。到着早々悪いんだけど、打ち合わせさせてもらっていいかな。」
そう確認してくる少年の鋭い視線に、マルコーと傷の男は真剣な表情で頷いた。

「そうか……逆転の錬成陣は、君のお兄さんが……」
そう言って、ホーエンハイムはマルコーの連れである男に視線を送った。
以前、アルフォンスが見せた錬成陣が、イシュバールの青年が研究の末構築したものだという事に、感嘆の声を漏らす。
「あいつが、この国に仕掛けたからくりを見つけた人物がいたとはな……」
自然と笑みが漏れる。
フラスコの中の小人ホムンクルス」が思うほど、人間は愚かではないと証明されたようで愉快だ。
「それで、この錬成陣を、どうやって発動させるんだ?」
エドワードの問いかけに、傷の男は静かに頷く。
「兄が作った錬成陣だ。これを発動させるのは、我々イシュバールの民しかいない。
そのために、マルコーに協力してもらった。」
「すでに多くのイシュバール人が、中央セントラルに入っている。
彼らが、陣を発動させるためのポイントに、配置してくれる手はずになっている。」
「テロ以外で、この国を変えるために動いてくれている仲間だ……」
エドワードは目を大きくして、傷の男を見る。
自分の事をイシュバール人の恨みという膿だと言っていた人物が、仲間に働きかけこの国を救うために動いている。
以前、マイルズが言っていた。
イシュバール人に対する意識を変えさせるための一石になると……
彼という小さな石は、今確かに傷の男スカーに刺激を与え、その波紋が大きく拡がっている。
この国は、変わろうとしている。
人造人間ホムンクルスの企てという外的要因ではなく、この国を構成する人々の中から少しずつ……

「奴が事をなしてしまった時のカウンターは、俺が仕込んだ。
彼らの逆転の錬成陣と併せれば、奴の力はほぼ無効化できる。」
ホーエンハイムの言葉に、エドワードは大きく頷く。
「あとは、いつ乗り込むか……だな。」

 

話し合っているエドワードらを見守っていた合成獣キメラらであったが、フーが彼らの元から離れるのを見て、それが終わったと確認した。
「じいさんは、どこに行ったんだ?」
中央セントラル市街の様子を見に行った。」
「一人で?」
「この中で、奴らに面が割れてないのじいさんだけだから、動き回るのに都合良いってさ。
マスタング大佐の動きも、可能なだけつかんできてくれるって言ってるけど…何より、リンの行方が気になるんだろ。」
「あー、そっか……」
エドワードに尋ねたダリウスは、納得いったと声を漏らす。
プライドがアルフォンスと共に隔離されたその直後、グリードがその場から姿を消したのだった。
フーが、リンのことを心配するのも当然だ。
彼らが話している側の木の枝に腰掛けるランファンの背中も、寂しげに見える。
エドワードは、人造人間ホムンクルスと共に閉じ込められている弟がいる山を見上げた。
彼の後をついてきたジェルソとダリウスも、それを見て感嘆の声を漏らす。
「たいしたもんだよ。お前の弟は。」
「あんな化け物と暗闇に二人きりなんて、俺だったら発狂する。」
「……うん。」
彼らの言葉に、エドワードは眉間にしわを寄せた。
「アルが、ふんばってくれてるんだもんな。」
そう言いながら、地面に脱ぎ捨てていたコートを拾い上げる。
ついた土埃を軽く払いおとし、ばさりと音を立てて広げる。
両袖に腕を通し、襟を掴んで前に引た。
「あとは……オレ達がやるだけだ。」
トレードマークの赤いコートの背中で、フラメルの紋章が大きく踊った。

 

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