真理の扉からアルの身体を持ってきちゃった 9 - 6/10

「こちらが、お部屋になります。」
そう言って、執事が朗らかな顔でドアを開ける。
3階のゲストルームが、ルースに割り当てられた。
中に入って室内を見まわし、感嘆する。
さすが大総統宅の客間だけあって、広々としている。
余計な調度類はなく、備えられているのは病院のものよりも広く立派なベッドと、書き物ができるテーブルのみ。
そのテーブルは大きな窓の下に設えてあり、昼間なら窓から入る光で手元は十分明るいだろう。
ベッドの横の壁にはクローゼット、テーブルの右手側の壁にはドアがあり、その奥はバスルームになっている。
執事が、テーブルの上の窓を指し、「こちらからお庭がご覧になれますよ。」と、ルースを誘う。
彼と並んで外を見ると、広々とした芝生の庭ががあり、その先の木立の陰から冬晴れのすっきりとした青空が覗いている。
振り返って後ろを見ると、入ってきたドアの横の壁が書棚になっていた。
ルースの取り出しやすい位置にずらりと並んでいる書籍のタイトルを見ると、ほとんどが錬金術関連のものばかりだ。
「これは………」
「奥様がご用意なさったものです。
お坊ちゃんが、ご興味お持ちのようだからと……」
「すごい……どれも高価な研究書ばかりだ……それをこんなに……
後で良くお礼言わなきゃ……」
感嘆して呟くルースに、執事は目を細める。
「それでは、ルース坊ちゃま。
晩餐の用意が出来ましたら、伺いますのでごゆっくりお寛ぎください。」
「ありがとうございます。
でも……あの…僕は“坊ちゃん”なんて呼ばれるような……」
名士の子供じゃないからと断れば、執事は大きく頭を振る。
「何をおっしゃいます。
先ほど皆様とご一緒にアフタヌーンティーを召し上がっていらしていた時の所作は申し分なく完璧でした。
長年ならず者に捕らわれていたと聞いていましたので、失礼ながらマナーも身についていないだろうと思っていましたが、先ほどのご様子を拝見して、きちんと教育受けられたお子様であると確信しました。
それに、セリム様のご友人を無下に扱う訳にも参りません。」
きっぱりと断言する彼に、ルースは瞬きする。
自分の持っている知識をそのまま実践しただけなのだが、ここまで高く評価されるとは驚きだ。
「初めのうちは居心地悪いでしょうが、そのうちなれますよ。」
と宥め、執事は部屋を出て行った。
一人きりになるとルースは、大きく息を吐き出し、へなへなと床にへたり込む。
「つ…疲れた………」
何なんだ、あの人造人間ホムンクルスは。家の中と外じゃ全然態度が違うじゃないか!
かつて、エドワード、アルフォンスと一緒に対峙した時とはまるで違う、ブラッドレイの様子に毒つく。
執事さんには、いいところの坊ちゃんだって、勝手に信じられてしまってるし……
───行儀良くし過ぎた。
相手に侮られないようにと、かなり気を引き締めて臨んだのが、かえって仇になった。
家人や使用人らには、これがルースだと印象づいてしまった事だろう。
もっと、田舎の子供らしくすればよかったと反省しても、後の祭りだ。
ルースは再び大きくため息をつくと、はっとして頭を抱えた。
この後、ディナーが控えている。
「……テーブルマナー……
どうするんだっけ……」
よろよろと立ち上がると、ベッドにガックリと座り直すルースであった。

0

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です