真理の扉からアルの身体を持ってきちゃった 9 - 10/10

 

「格闘術を覚えたい?」
襲撃の翌日。
ルースは、屋敷1階にある警備担当者の詰め所にいた。
自分達が仕える大総統の息子の友人となった少年の申し出に、大総統邸警備の責任者は、唖然として目の前の彼を見る。
病院から退院したものの、過度の栄養失調による影響で、日常生活を送るのにも杖が手放せないというのに、何を考えているのだと呆れた。
かといって、「セリム坊ちゃんのお友達」に無碍な態度も取れず嘆息を漏らす。
「ルース坊ちゃん。
ご希望でしたら、護身術程度で良ければお教えしますけど……まずはその杖を離せるようにならないと……」
そう言って、彼の右手にある杖を指す。
その事に、ルースは肩をすくめた。
「これが離せるようになれば、教えてくれますか?格闘術。」
「──護身術でしたら。」
あくまで護身術だと譲らない相手に、今度はルースが嘆息を漏らす。
「護身なら、今のこの体力でもできます。」
さらりと言い放つ少年に、同席している警備員の1人が、こめかみをピクリと動かした。
「ほぉ。そんなヒョロヒョロの身体で、身が守れるんですかねぇ。」
小馬鹿にした物言いをするその男を、責任者がたしなめる。
が、ルースは不敵な笑みを浮かべてその売り言葉を買うのだ。
「試してみます?」
そう言って、身体を支える杖を手放し、差し出した手の指をクイクイと手前に曲げて挑発する。
大人げなくその挑発に乗って拳を振り上げてくるのを、ルースは何度かするりするりと躱し、最後には、それを受け止め難なく大の男を投げ飛ばしてみせた。
「錬金術の基本は力の循環を理解すること。
相手の力の流れを知り、それを利用して相手に返す……力のない僕でも、こうすることで身を守ることができます。」
身体をしたたかに打ち付け唸る同僚を、責任者は唖然として見た。
そして、苦笑する。
「分かりました……格闘術、教えましょう。
ただし、まずその前に、軍隊式筋トレをマスターして筋力を上げてもらいます。
軍隊式は厳しいですよ。」
「はい。のぞむところです!」
躊躇なく答える少年に、彼は目を細めた。
「しかし、何でまた格闘術を?」
その問いに、ルースは迷いのない目で答えた。
「セリム君たちを守りたいんです。
いつまた昨日のような暴漢が襲ってくるか分からない。
その時、少しでも役に立ちたくて……」
はにかんだ笑みで答えるルースの真剣な瞳に、彼は口の端を吊り上げて協力を約束するのだった。

 

ブリッグズ砦を20年程前と同じ珍事が襲った。
たった1人の「女」に山岳警備兵が襲われ、1部隊が全滅した。
主婦を名乗るその人物は、応援に駆け付けた部隊にあっさり投降したのだ。
地下牢に収監されたその女の元を訪れたマイルズとバッカニアに、ブリッグズの猛者を襲撃したとはとても見えない細身の女は、ニヤリと笑う。
「あら。
黒眼鏡ソリコミイシュバール系と、モヒカン巨漢の軍人さん。
話に聞いた通りだわ。貴方達が出て来るのを待ってたのよ。」
「……貴様、何者だ。」
自分達を待っていたというその女に、マイルズは顔を引きつらせる。
そんな彼らに、彼女はにこりと微笑えんだ。
「通りすがりの主婦ですよ。
アルからの伝言を持ってきた…ね!」
その言葉に2人の軍人は真顔で彼女を見る。
「人払いをお願い。
『約束の日』について伝えなきゃならない事がある。」

彼女が齎した情報は、ファルマンから東方司令部のグラマン中将に伝わり、それは、ホークアイとハボックを介してマスタングの元に届いた。
ホークアイが、ハボックの見舞いに差し入れした煙草に仕込まれたメモを見て、マスタングは呟く
「年を越して来春……」

約束のその日───
北も東も動く!!

 

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