真理の扉からアルの身体を持ってきちゃった 9 - 9/10

「そうか…グリードが……」
ラースの報告に、『お父様』は深く嘆息を漏らす。
「相変わらず、大人しくしている事の出来ぬ奴だ。」
「見つけ次第、また、捕獲します。」
神妙な顔でそう伝えるラースに、軽く右手を振り「放っておけ。」と言う。
「あれの考えそうなことは分かる。
約束の日には戻ってくるはずだ。自分の欲望を満たすために……」
そう言って薄く笑う。
「それよりも、人柱たちの動向は把握しておるのか?」
「エルリック兄弟は、別々で行動しているようです。北部で不審な3人連れを発見したと報告がありましたが、その中に鎧はいなかったそうです。
イズミ・カーティスは現在旅行中という事で、南方司令部に調査させています。」
「ふむ……エルリック兄弟なら、ヴァン・ホーエンハイムと共にわしの所へ来るだろう。
それの師匠であるイズミも……
マスタングの行動は監視しているのであろう。」
「御意。」
「ならば、今は泳がせておけばよい。
来たるべき日に、私の元に集めてくれさえすれば、あとは私がどうにでもできる。」
ラースは、『お父様』に深々と頭を下げる。
「そういえば…アルフォンス・エルリックの身体を自宅に移したそうだな。」
「はい。妻が気に入ったようなので、あれの事は彼女に任せようと思います。」
「得体のしれぬ子どもを、よく手元に置こうと思うものだ。」
呆れた声を漏らす。ラースの口元が微かに動いた。
「まあ。それで奴が逃げないというのであれば、好きにさせてやればよい。」
ほとんど表情を変えることなく『お父様』はそう呟くのだった。

『お父様』の居る地下から自分の書斎へ戻ってきたラースを、セリムが待っていた。
「報告、ご苦労様です。」
「いや。」
「父上はなんと?」
「全て泳がせておけと……
来たるべき日に、彼らを父上のお側に集めればよいそうだ。」
「そうですか……」
そう言って少年は軽く瞑目する。
「ラース。何故、あれの提案を了承したのです?
アルフォンス・エルリックの身体をここで生活させるなど……」
「どういう訳か、あれが奴の事を大層気に入っているようなのでな……
あれの好きなようにさせておけば、奴も逃げたりはせんだろう。」
ラースの答えに、少年の姿の人造人間ホムンクルスは納得したように頷く。
「それにしても……お前こそ何故、奴と友人になりたいなどと言った?プライド。」
「………そう言えば、あれが喜ぶだろう…と思っただけです。
幸い、彼は私の正体に全く気付いていないようなので……あれの望むように仲良くできると思いますよ。」
そう言って、にこりと笑う。それにつられるように、憤怒の人造人間ホムンクルスも口の端を上げた。
「あれが父上の一部になる日も近い……それまでは、好きにさせてやるさ。」
少し遠い目で呟く義父に、セリムは小首を傾げる。
「それは、夫としての思いやりですか?」
ブラッドレイは小さく笑った。
「さてな……」
そう言って彼は、自分達を黙って見下ろす月を見るのだった。

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