「わー。何、あの石像。」
「飯が食える所はないのか?」
リオールに到着するや否や、観光気分で辺りをきょろきょろ見まわしたり、腹が減ったと喚く同行者をなだめながら、アルフォンスは以前兄と一緒に立ち寄ったフードスタンドに向かった。
「「あ。」」
そのスタンド前に立つ女性と同時に声をあげる。
新興宗教「レト教」の教主コーネロに、事故で亡くなった恋人を生き返らせると言われ、レト教に心酔していたロゼだ。
彼女が信じ拠り所としていた「奇跡の技」は、偽物の賢者の石を使った錬金術で、コーネロはとんだペテン師だった。
その事をエドワードとアルフォンスが住民に暴露したことが切っ掛けで暴動が起こり、中央軍が介入して多くの血が流された。
懐かしい人物との会話と、エドに会いたかったという彼女を微妙に意識するウインリィを揶揄っていると、間の抜けた男の声が聞こえてくる。
「お~い。ロゼ~。ナベ、洗い終わったよ~。
他に仕事………」
へらへらと鼻の下を伸ばしてやって来るオヤジを見て、アルフォンスとウインリィは目を丸くする。
「あ!!?」
幼い頃、早朝にこっそりと家を出て行ったきり、会う事もなかった人物。
ロックベル家に飾られている、小さかった頃の自分達との家族写真の中に写っている人物がそこにいた。
「エドとアルの…」
「父さん!?」
「俺の鎧コレクション!!」
「ちがーう!!」
十数年ぶりの再会の第一声がそれかっ!
空気を全く読まない発言に、ウインリィは眉をしかめ、アルフォンスは怒りの声をあげた。
「え。いや。すまん。」
エドワードとアルフォンスの父親ヴァン・ホーエンハイムは、ただでさえでかい鎧が肩を怒らせ大声を上げている様にたじろいた。
………ちょっとしたお茶目だったのに……
「十数年ぶりだな。アルフォンス。」
「そうだね。」
「……ピナコから聞いたよ。身体の事とか……」
「うん……」
思いがけない場所での再会。
ホーエンハイムは、長い間放ってしまい、今、こうして自分が収集していた鎧に魂を定着した状態でいる我が子に掛ける言葉が見つからず、アルフォンスは、もし会えたなら色々と聞きたいことがると思っていたが、実際に本人を前にして何から切り出したものかと戸惑っていた。
2人の間を気まずい沈黙が流れる。
「あの……父さん………」
それでもアルフォンスは必死で言葉を紡ごうとしたが、ホーエンハイムは手伝いを求めてきた住民を渡りに船と、そそくさと彼に背を向けて行ってしっまった。
その背中を見つめるアルフォンスに、店主男が話しかけてきた。
「あのラジオ。直してくれたの覚えているかい。
あれから調子いいよ。雑音も入らない。」
嬉しそうに笑う彼に、アルフォンスはしみじみと声を漏らした。
「あれから……か。」
そう言って、街を見回す。
かつてあれほど活気にあふれ、美しかった町並みは見る影もない。
そこいら中に瓦礫の山が残る中、建物の復旧作業が行われている。
「………ごめんなさい。
ボク達がコーネロにちょっかい出したから街がこんなことに……」
「気にすんな。気にすんな。」
店主が左手をひらひらさせる。
「……って言っても、この状況を見たら気休めにもなんねぇだろうけどよ。
あんたらは不正を暴いた。
それは正しい事だと。少なくとも、俺はそう思っているよ。」
諭すように告げられる言葉に、アルフォンスは肩の力を抜く。目線を下げれば、ロゼが明るく微笑んで自分を見上げていた。
かつて、これから何に縋って生きていったらいいのか教えてくれと泣いていた、弱弱しく哀れな女性はもういない。
街の皆もそうだ。「奇跡の技」なんていう迷信から脱却し、自分達の力で前に進もうとしている。
アルフォンスは両手をぐっと握りしめた。
この街の人達のために、今自分ができる事をしたい!
「ボク、街の復興を手伝ってくる!
ウインリィはどこかに匿ってもらってて!
なるべく目立たないように!」
駆けだした自分に声をかけてくる幼馴染にそう言い置いて、アルフォンスは父を追った。
「父さん。ボクも働く!」
自ら率先して働きだす息子に、父は目じりを下げるのだった。
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