幸せのカタチ - 3/4

「なっ。俺の言った通りだったろ。ばっちゃん。
アルは、元気に帰って来たぜ。」
自信満々な顔をするエドワードに、ピナコは苦笑する。
「ああ。そうだねぇ。」
「マスタングさんから次の連絡が来るまで、ずーっと電話の前でウロウロしてたの誰だっけ?」
くすくす笑いながら突っ込んでくるウインリィに、頬を赤らめてそっぽを向く兄にアルフォンスは眉尻を下げる。
「心配かけちゃってごめんね。」
「おっ、お前が謝る事なんかねえよ。俺が、勝手に心配していただけだし。
それにしても、マスタングの奴…任せておけなんて言っておきながら、結局アル1人で戦わせるし、アルが全員捕まえたら、『いやー、君の弟は本当に素晴らしいな。値千金の働きだ、百人力だよ。実に頼もしい。どうだね、是非軍に欲しいのだが。』なんて、調子のいいこと言いやがるから、ソッコーで断ってやったからな。」
マスタングの口真似を、兄弟で旅をしていた頃のようにお道化てやってみせるエドワードに、アルフォンスは声を上げて笑った。
「ありがとう。僕も断ったっていうのに…諦めの悪い人だなぁ。」
「それだけ、お前の実力が凄いってことだろ。兄貴として鼻が高いぜ。」
エドワードは、この話はこれで終わりと別の話題を振ってくる。
「それで?錬丹術はどうだった。」
「うん。やっぱり、錬金術とは力の根源が違うから、応用範囲も広くて興味深いよ。」
「医療分野に秀でているんだよな。」
「錬金術は物質の質量を変えずに構成を変えることが主だけど、錬丹術は人体に直接作用させることが可能なんだ。
その人が持っているエネルギーを大地が持つ力を借りて操作することで、病気やケガを治療することができる。
でも、これも等価交換で、その人が本来持っている力以上のものは引き出せない。」
「死にかけていた人間がいきなり元気はつらつになるって事はない訳か。」
いきなり兄弟で錬金術談義を始める2人に、ウインリィとピナコは嘆息を漏らす。
「ちょっとー。」
「そういう話は、2人きりの時にしておくれ。
私達にもわかる土産話とかないのかい?」
会話についていけないと苦情を言う2人に、兄弟は苦笑と共に肩をすくめた。
「ごめん。ばっちゃん。」
「土産と言えば…二人にお土産があったんだ。」
アルフォンスが取り繕うように慌ててトランクを開ける。
本や書物がぎっしり詰め込まれていて、日用品や着替えがどこにあるのか分からない状態だ。
「本の行商みたいだな。」
上から覗き込んでからかう兄に、苦笑で応える。
「向こうでしか手に入らない物ばかりだから。
国境の入国管理所で、ものすごく胡散がられた。それこそ、行商人かって聞かれたよ。」
私物であるとの説明にずいぶん時間を取られたと愚痴をこぼしながら、本の山をかき分けて小さな瓶詰を2個、掘り起こし取り出す。
2つとも同じ品物で、ラベルには馬が描かれている。
「なんだい。これは。」
「ハンドクリームだよ。手荒れ防止にいいと思って。馬の皮脂が原料で、肌なじみがとてもいいんだ。
シンでは、高貴な身分の女の人がスキンケアとして全身に塗ってるよ。」
「へえ。高貴な女性のケア用品かあ。」
そう言って、ウインリィが早速瓶を開けると、白濁としたクリームを指先に掬うと手の甲に塗る。
「わっ。すごい、すぐ溶けてなくなっていく感じ。……へえ、本当だ。べたつかないし、サラサラしているのに肌がしっとりした感じがする。」
嬉しそうに感想を言うのに、うんうんと頷きながらアルフォンスは得意げな顔をする。
「僕も、愛用してるんだ。だから、多めに持って帰って来た。」
どんどん使ってね。という彼にウインリィはありがとうと笑顔を向けた。
「良かったな。2人とも手荒れに悩んでたもんな。」
我が事のように喜ぶエドワードに、ピナコも嬉しそうに頷く。
「ありがとうよ。アル。」

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