幸せのカタチ - 2/4

「とにかく無事に帰ってきてよかった。
あたしゃ、朝の電話から気が気じゃなかったよ。」
リビングの椅子に座るアルフォンスに目を細めながら、ピナコが安堵の息を漏らす。
「電話?」
きょとんとする彼に、エドワードとウインリィが顔を見合わせて苦笑する。
「お前の電話のすぐ後に、マスタングからも掛って来たんだ。」

アルフォンスからの電話を切って5分も経っていなかった。
エドワードは、何か伝え忘れでもあったのかとすぐに受話器を持ち上げた。
「どうしたぁ?」
のんきな声で相手を確かめもせにそう話しかけると、電話口の向こうからも誰が出たのか確かめせずに切羽詰まった声がかけられる。
『アルフォンスはっ⁉』
弟からだとばかり思っていたエドワードは、耳に馴染んだテノールが、危機感を孕んで愛弟の所在を確認していることに、背筋がぞっとした。
「───あいつに、何かあったのか?准将。」
顔を青ざめさせながらも、できるだけ冷静な声で、相手の階級を呼ぶ。
その声に、相手が一瞬息を呑み、静かに息を吐き出す音が微かに聞こえた。
『いや……すまない、エドワード。
アルフォンスと至急連絡を取りたいのだが、昨夜泊まった宿を出てしまったようで……その、彼からそちらに連絡が行ってないかと思ってな。』
ぎこちない声で尋ねてくるマスタングに、状況の深刻さを察し、石を呑み込んだかのように胃が重く感じる。
「あんたが、そんなに慌てるなんて…相当緊急な要件のようだな。」
その指摘に、失態だと言わんばかりの嘆息が聞こえる。
『昨日彼と会ったのだが、その時確認しなければならない事を聞き忘れてしまってね。今日中に上に報告しなければならないので、焦っているのだよ。』
彼が事実を自分に伝える気がない事を感じ、エドワードは嘆息を漏らす。
「アルからは、ついさっき電話があった。
これからイーストシティ駅発の列車に乗るって……15分発のウエストシティ行きだ。」
そう言いながら、時計の針を確認する。丁度発車したばかりだろう。
マスタングもそれを確認したようで、舌打ちをしたのが聞こえてくる。
『そうか。ありがとう。朝早くから済まなかったな。鉄道会社を通して、彼に連絡を入れることにするよ。』
そう言って電話を切ろうとするマスタングを、エドワードの声が遮る。
「その要件は、昨日アルが関わった事件と関係あるのか。」
問いかけに、マスタングは嘆息と共にそうだと答える。隠し通せないと悟ったらしい。
「俺の家族。守ってくれるんだろうな。」
『当然だ。』
即答する彼に、エドワードは顔をくしゃりとさせる。
「頼むぜ。
あいつが昨日協力したのは、困っている人を見て見ぬ振りできないあいつの性分からだ。
ただの善意で手を貸しただけの奴が、事件に巻き込まれるなんて……!」
『ああ。分かっているよ。
君の弟は我々が全力で守る。必ず、君の元に無事に送り届ける。』
言い終わらぬうちに、マスタングの力強い声が鼓膜を震わせた。
「約束したからな。もしも、アルに何かあったら……借りっ放しの520センズ、即刻返してあんたと縁を切るからな。」
『おいおい。鋼の……それは、脅迫か?』
マスタングが苦笑した。
「そいつは、アルの二つ名だ。もう俺は錬金術師じゃねえ…ただの一般市民だ。
だから、あんたを信じて頼るしかねえんだ。」
『まさか、君に頼られる日が来るとはな……任せておけ。』
「宜しくお願いします。マスタング准将。」
頭を下げて受話器を置くエドワードに、立て続けに鳴った電話と彼の様子から、不安げに見守っていたロックベル家の女性たちが声をかける。
「エド……」
「アルに、何かあったのかい?」
彼女らの声に、エドワードは一瞬肩を震わせるが、勢いよく振り返ると、愛嬌たっぷりの笑顔を見せる。
「大丈夫だ。あいつ強えし、マスタングさん達も動いてくれている。
きっと、何事もなかったように帰ってくるよ。」

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