南部地方ダブリス。「カーティス精肉店」従業員メイスンは、迷惑な客を送り出すと嘆息を漏らして店内に戻る。
それを計ったかのように、店の電話がコール音を鳴らした。
慌てて受話器に飛びつく。
「はいっ。カーティス精肉店です!」
『あっ。メイスンさん?』
受話器から聞こえる少しくぐくもった声に目を瞬かせる。
『アルフォンスです。』
「おー。アルフォンス君!久しぶり。どうだい、その後?
元気にしてるか?」
先日誘拐事件に巻き込まれた少年を気遣えば、明るい声で元気だと返ってくる。
『あの…イズミ師匠いますか?』
「あー。例によって、ご夫婦で旅行中だよ。」
せっかく電話くれたのに申し訳ないと詫びようとすると、アルフォンスはむしろそのことを喜んでいる。
『良かったぁ。
あ、師匠から連絡があったら、しばらく帰ってこないように言ってもらえませんか?』
店主に店に戻るななど、従業員からすればとんでもない事を言い出す女将さんの弟子に、メイスンは思わず「ああっ!?」と凄みのある声を漏らした。
しかし、アルフォンスはそれを全く意に介さず、言葉を続ける。
『それと……軍が来てもも応じちゃダメだって……中央に連れていかれちゃうから。』
「………どういう事だい?」
軍のことに触れるアルフォンスに、メイスンは真顔で問いかける。
ここ最近、彼を悩ませている存在だからだ。
ある日、大総統の使いだという偉そうな軍人2人がやってきて以来、頻繁にイズミの帰宅や連絡がなかったかと南方軍の軍人が尋ねてきているのだ。
『話せば長くなっちゃうんですけど……軍の上層部が良からぬことを考えていて……それにボク達や師匠を利用しようとしているんです。』
「なんだって!?」
驚くメイスンの耳に、新たな人物の声が届いた。
『どうも、はじめまして。
私、ホーエンハイムといいまして…エドワードとアルフォンスの父です。
息子たちがお世話になり、ありがとうございます。』
兄弟の父だという人物に、メイスンは畏まって返事をする。
「はっ、いえ。とんでもないです。
2人とも素直で元気な、いいお子さんですね。」
電話口の向こうで、フッと息の漏れる音が聞こえた。
『息子やイズミさんからも聞いています。貴方はとても頼りになる方だと……
少し長い話になりますが、彼女たちに伝言をお願いしたいのですが……』
「さっきアルフォンス君が言っていた事に関係あるんですね。」
『はい。できるだけ彼女を巻き込まないようにしたいのですが、どうも、彼女の力も借りないといけなくなりそうなので……』
「……実は、軍が何度も来てるんです。
イズミさんなら、振りかかった火の粉は自分で払わなきゃって言うと思いますよ。」
あの弟子にしてこの師匠あり。
そして、彼はその従業員。
メイスンは「任せてください。」と明るく言うと、店のカーテンを閉め、彼の話を聞き始めるのだった。
真理の扉からアルの身体を持ってきちゃった 9 - 7/10
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