真理の扉からアルの身体を持ってきちゃった 9 - 2/10

中央軍司令部と回廊で繋がっている、大総統公邸。
司令部の敷地内にあるその建物は、軍本部施設の一部でもあり、司令部のような堅牢な印象はないもの、一般的な邸宅に比べれば重厚感のある建物だ。
3階建てのその建物を、ルースはポカンと口を開けて見上げる。
「さあ、どうぞ。今日から、ここが貴方のおうちよ。」
ブラッドレイ夫人がニコニコと玄関へと誘導する。
とはいえ、彼らに付かず離れずボディガードが2人、玄関の前にも警備の黒服が2人立っている。「おうちに入る」という雰囲気ではない。
その彼らが、夫人が連れてきた胡散臭うさんくさい子供を目線を合わせぬようにしながら警戒しているのが分かる中、緊張してポーチを上がると、既に開け放たれている玄関扉の前に、人好きのする笑顔の男性が立っていた。この家の執事らしい。
「ようこそいらっしゃいました。
旦那様と坊ちゃまが、リビングでお待ちです。」
ルースに笑顔で挨拶すると夫人に話しかけ、先導してリビングへと歩いていく。
案内されるまま歩く靴音と杖が床をたたく音、そして、やたらと速く脈打つ心臓の音がうるさいほどに聞こえる。
身体を支える杖を握る右手の掌が汗でじっとりと濡れ、杖のグリップが何度か滑りそうになった。
「さあ。どうぞ。」
リビングのドアを開け、執事が中に入るよう勧める。
ルースは、ごくりと喉を鳴らした。
ブラッドレイ家のリビングは、ドアから数段階段を降りたところにある。その階段を挟むように腰高のカウンターがあり、仕切りの役割を果たしている。
ドアを開けてもすぐには襲撃されないよう計算された居間だ。
「あなた。セリム。ルース君をお連れしたわ。」
夫人が嬉しそうに階段を下りていく。その後をルースは努めてゆっくりと降りた。
降りきったところで、ソファに腰掛けていたセリムが駆け寄ってくる。
「ルースさん!」
飛びつきそうな勢いで、嬉しそうにやってくる少年にルースはまなじりを下げる。
「セリム君……」
視線をソファに移せば、キング・ブラッドレイも立ち上がっている。
ルースは口を固く結ぶと、一瞬相手と目線を合わせ小さく会釈した。
「よく来たね。さあ、君もこっちに座りたまえ。」
ニコニコと朗らかに席を勧めるブラッドレイに、ルースは目を大きく見開くと瞬きを数回するのだった。

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