a captive of prince 第18章:接触 - 4/7

 黒の騎士団による襲撃より3日。新総督ナナリー・ヴィ・ブリタニアの就任お披露目会見は、エリア11に新たな衝撃を与えた。
 最もそれは一部のブリタニア人に限った事で、人口の殆どを占めるイレヴンは冷ややかなものだ。
 『行政特区日本』の再設立。
 ブラックリベリオンを引き起こす切っ掛けとなった、元副総督ユーフェミアの奸計。甘いエサでナンバーズを集め、その目的は不穏分子の虐殺であった。というのが今、このエリア11に住む殆ど全ての者の共通した認識である。
 例え、総督が替わろうともブリタニアの皇女が提唱する限り、反発を買う事はあっても賛同は得られないという事は誰の目にも明らかだ。
 だが、総督が発表した以上実現せねばならない。
 政庁職員は粛々と準備を進めていた。

「特区の参加希望……芳しくないようですね。」
「うん───。想定通りだ。」
「そうですね。…………でも、私は寂しいです。
 ユフィ姉様の真心が、ほんの少しも理解されなかったなんて……」
 総督室でティーカップを弄びながら、ナナリーは小さく呟く。
 アールグレイのふくよかな香りが漂う中、総督、副総督の表情はさえない。
「────ゼロから何かしらの打診はあったのかな。」
「いいえ、まだ………あの時はこちらの状況と私の知る事実を伝えるくらいしか………お兄様も半信半疑でしたし。」
「だろうね───」

 海に墜落した重アヴァロンからルルーシュとナナリーを救い出したスザクではあったが、仮面を外し素顔を晒してしまっているルルーシュを敵味方双方に見られるわけにはいかず、すぐに紅蓮に引き渡すしかなかった。
 ゆっくり話をする時間がなかったのだ。
「ナナリー。スザク。必ず連絡を入れるっ!」

 別れ際そう残していった彼からのコンタクトを待つししかない。
 2人は揃ってため息をついた。

 シンジュクゲットー再開発地区。
 クロヴィスの壊滅命令によって破壊されたこの地区は、コーネリア総督時代にイレヴンの生活環境改善のため着手されたものの、ブラックリベリオン以降、計画は頓挫している。
 コーネリアの後任のカラレスは、イレヴンの生活向上に感心は無く、むしろ圧政を強いていたからだ。
 放置されたままの資材置き場に一組の男女の姿がある。
 ルルーシュとカレンだ。
 2人きりではあるがその様子は睦ましいと言うよりはむしろ険悪で、言い争っている彼らをその場からはなれた場所でロロ・ランペルージがヒヤヒヤしながら見守っていた。

「いい加減、機嫌直したらどうなのよ。
 あんたに、スザクとコンタクトをとっていた事を話さなかったのは悪かったと思うわよ。
 でも、あんたがブリタニアに連れて行かれて、C.C.を捕まえるためのエサとしてアッシュフォードに戻されてから、資金面とかブリタニア側の情報を得るために彼を仲間に引き込む事を提案して来たのは、あの女なのよ。文句があるならあっちに言ってよ。」
「そんな事はとっくにあいつに言っている。
 俺が問題にしているのは、カレン、お前はゼロの親衛隊長でありながらそのことを報告しなかったのは、職務怠慢だと言う事だ。」
「怠慢?なに言ってんのよっ。
 C.C.はあんたの共犯者なんでしょ。普通、共犯者であるピザ女が話す事じゃない。
 だいたい、なんなのよあいつ。いつも偉そうな事言って、当たり前のように人の金使ってピザ食べまくって………!
 私がシュタットフェルトを継ぐハメになったのも、半分はあいつのピザ代のためみたいなものよ。あんたの代わりに養ってやったんだから、礼の1つもあって当然じゃない?」
「それとこれは別問題だろう。
 そもそも、スザクが黒の騎士団のスポンサーの一人だというのはどういう事だ。」
「どうもこうもないわよ。黒の騎士団の資金はゼロが一人で管理していたじゃない。そのあんたが捕まったんだから、資金0のままで活動できるはずないじゃない。あの混乱の中、神楽耶様とも連絡がつかなくて大変だったんだから。
 スザクはそれを見かねて資金提供を申し出てくれたのよ。まあ……ついでに軍備の増強だとかいろいろ口出しもしてきたけれど……
 ラクシャータさんが開発してくれた飛翔滑走翼も紅蓮や他のナイトメアの開発だって、全部スザクのおかげみたいなものよ。
───少し……ううん。かなり悔しいけれどね。」
 眉尻を下げながら言うカレンに、ルルーシュの表情は暗くなっていく。
「やはりそうだったのか……!カレン。お前がもっと早くその事を伝えてくれていればっ………!」
「────まさか………全部C.C.の裁量だと思っていたわけ!?」
 わなわなと拳を震わせ、唇を噛んで頷くルルーシュにカレンは額に手をやる。
「俺が不在の間、これだけの備えを整えてくれたとあの魔女に頭が上がらなかったんだ。
 カレン……俺がどれほどの屈辱を受けていたか解るか……?」
 上目遣いで自分を見る姿に、肩をわななかせ頬を引きつらせる。
「あんのォ……!ええ、解ったわルルーシュ!
 すぐにあんたに黒の騎士団の内情を報告しなかったのは、私の怠慢だったわ。親衛隊長として、あのピザ女をシメてやるわよ!
 ルルーシュ、どうすればいい?あんたの気の済むようにするわ。ボコボコに殴る?それとも陰湿にピザ抜きの刑とか。なんでも命令して!」
 カレンの剣幕に、ルルーシュは気圧されてしまい先ほどまでの怒りはどこへやら……歯切れ悪く口ごもる。
 その様子に、彼女の怒りのボルテージは最高潮に達した。
「何よっ。結局ピザ女の肩を持つんじゃないっ!」
 怒鳴り声を残してかけ去るカレンを、ルルーシュは茫然として見送った。
 呼び止めようかと躊躇しながら足を踏み出した彼の前に、新たな人物が立ちふさがる。
「兄さん……もういいじゃない。
ゼロの事も……ナナリーの事も忘れて……僕と………」
「ロロ………」
 縋るように見つめてくる“弟”をルルーシュもまた見つめ返した。

 太平洋上。タンカーにカモフラージュした黒の騎士団所有潜水艦の一室で、この部屋の主然と居座る女と紅い髪の怒れる少女が睨み合っている。
「あんた一体何を考えているのよ。ルルーシュの共犯者といいながら、スザクの事何も話してなかったんだってっ!?」
「ああ、そうだったな。特にあいつも聞いて来なかったからな。
 ゼロ復帰後、スムーズに黒の騎士団が機能していれば問題ない事だ。
 スポンサーが誰かという事は、ルルーシュが知ろうと思えばすぐに分かる事だろう。私はあいつの“部下”ではないからな。」
 クスリと笑う魔女に、堪忍袋の緒が切れた。
「C.C.!」
 怒りに任せてつかみかかろうとした彼女を止めたのは、艦内に響き渡るゼロの低く凛とした声だった。
『黒の騎士団全軍に告ぐっ。行政特区日本に参加せよ!』
 その声に、乗組員の誰もが表情を硬化させた。
 今まさに取っ組み合いの喧嘩を始めようとしている少女達を除いて。

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