a captive of prince 第18章:接触 - 2/7

「まさか、洋上で仕掛けてくるとはな。」
 政庁地下格納庫に向うエレベーターの中で、ジノは楽しそうに話す。
「黒の騎士団に航空戦力はなかったはず……諜報部の情報では……」
「完全に裏をかかれたな。」
「スザクは知っていた?」
「さあ、どうだろう。政庁の人事に手がかかっていたみたいだからな。
 とにかく、私達は先に出て状況の確認だ。」
 ジノの言葉に、アーニャが頷く。
 自分専任の技術スタッフに見送られ、ワンオフ機であるトリスタンとモルドレッドで、太平洋上をこのエリア11に向って航行してくる新総督を乗せた航空機部隊と合流すべく出撃した。
 が、ものの5分とたたないうちに、政庁から緊急通信が飛び込んできた。
「どうしたっ。総督の艦隊に何かあったか?」
『ふ…副総督が……!』
「スザク?殿下がいかがなされた。」
『救援部隊の編成は任せると……お1人で……』
「出撃した……?」
『はい……』
 半泣きの通信士の声に、ラウンズ2人は苦笑する。
「了解した。副総督は何で出たんだ?」
『V-TORです。』
「データをこちらへ……」
 コクピットのレーダーに、スザクの乗る航空機のシグナルが点滅する。自分達を追うように航行してきている。
「位置は確認した。殿下の到着を待って合流する。」
「救援隊は、あとどれくらいで出撃?」
『あと10分で可能です。』
「了解。」
 通信を切ると、ジノは後方を航行してくるスザクに通信を繋げる。
「おい。スザク。副総督がなんで前線にでてくるんだ。」
『何かじっとしていられなくてさ。』
 笑みを浮かべながら答える皇子に、眉をひそめて忠告する。
「これがもし、敵の揺動で本隊が政庁を襲撃でもしたら………」
『それはあり得ない。彼らの目的はこのエリアの責任者である総督の確保だ。総督をテロリストに奪われるわけにはいかないだろう。』
 ブリタニア側の通信傍受を計算して、それぞれの立場に相応しい会話を交わしながら、スザクとジノはアイコンタクトで通信チャンネルを変える操作を手元で行っていた。
「しょうがないな。総督に同行しているアヴァロンと合流か?」
『ああ。状況によっては僕もランスロットででるよ。』
 切り替えた秘匿回線からスザクの声だけが聞こえる。今頃、政庁の軍本部ではジャミングの影響で通信が途絶えたと判断しているだろう。
「まったく……じっとしていられない皇子さまだ。」
 通信の向こうでスザクが笑った。

 進行方向右手前方に、閃光と黒煙が見える。
「どうやら、もう始まっているようだな。
 スザク。先に行くぞ!」
『ああ。状況はカレンに確認してくれ。』
「了解。」
 ジノとアーニャは襲撃を受けている艦隊へ、スザクはその後方にいるアヴァロンへと別れた。
 ジノは、黒の騎士団のナイトメアに取り付かれ攻撃を受けている“味方”に眉をひそめる。
「────ブリタニア軍人としては、非情に複雑な心境だな。」
『黒の騎士団が、最強と奢っている我々の弱点を指摘してくれていると考えたらいいんじゃない?』
 スピーカーから聞こえる少女の声に、ジノは目を瞬かせる。
「ずいぶんとポジテブな発言だな。───マリアンヌ様ですか?」
『そうよ。“はじめまして”かしらね。ナイトオブスリー。』
 普段のアーニャからは想像もつかない、歯切れの良い明るい声が返ってくる。
「そうですね。アーニャの中にいらっしゃることは聞いていましたが………直接お話しするのは初めてですね。ジノ・ヴァインベルグです。妃殿下。」
 騎士らしく挨拶すると、コロコロと笑い声が返ってくる。
『やーね。“妃殿下”だなんて……そんな肩書きとっくに返上よ。今は、ただのマリアンヌ。ナイトオブシックス、アーニャ・アールストレイムでもあるけれど。
……………挨拶はこのくらいにして、戦いに意識を向けた方がよさそうよ。』
 緊張した声でマリアンヌが話を打ち切ると同時に、ジノも事態が急を要していることに気がついていた。
 ナナリーを乗せた重アヴァロン右舷上方の護衛艦が、黒の騎士団の攻撃を受け火を噴きながら旗艦に向って墜落している。
「しまった!───くそっ。ここからじゃ間に合わない……っ!」
 トリスタンの脇を巨大なエネルギー砲が走り抜け、落下する護衛艦を破壊した。
 その紙一重の荒技に、ジノは安堵の息を吐きながら苦笑する。
「相変わらずだな、モルドレッドのやることは………
 マリアンヌ様。それはもう使わないで下さいよ。
 照準ミスったら、しゃれにもなりませんから。」
『守ったのに~。』
 不満げなマリアンヌの声に、ジノの笑みが深くなった。

『一応礼を言っておくわ。あれがぶつかりでもしたら、作戦目的どころかゼロまで失うところだったから。』
 切り替えたチャンネルから、聞き覚えのある声が聞こえる。
 それは、スザクに教えられたカレンとの極秘回線だ。
 爆散した戦艦の煙の中から、紅い機体が姿を現す。
「おや──。」
 恐らくそれは、以前トウキョウ租界で対戦したゼロの親衛隊長の“紅蓮弐式”と呼ばれるものであったと思うが、今目の前にいる紅蓮は、その時とは違う装備をしている。
「へえ……フロートユニット。黒の騎士団も開発したのか。」
『そうよ。さっき受け取ったばかり。 
 他にも機能を上げたから、今ならあんたに負けないわよ。ナイトオブスリー。』
「相変わらず気の強いお嬢さんだ。」
 ジノの言葉に、カレンはフンと鼻を鳴らすとモルドレッドに話しかける。
『この、サーモンピンクのがアーニャの?』
「そう……モルドレッド。」
 口調がアーニャのものに変わっていることに突っ込んでくるジノに、アーニャはムッとした顔をする。
「マリアンヌが、総督を守ったのにジノに怒られたとブログに残している。」
『あちゃっ。ご機嫌を損ねたか。』
「マリアンヌがへそを曲げると、あとが面倒。」
『まいったな。』
 中空で対峙する3機のナイトメア。
 ここが戦場であるがため、周りで戦っている者達は、まさかこんなに軽い会話を交わしているとは夢にも思っていない。
 特に黒の騎士団側では、スザクを中心とするブリタニア側とコンタクトをとっているのは、C.C.とカレンのみ。
 この事実を首藤であるゼロでさえ知らないのだ。
 この総督奪取作戦は、勿論ルルーシュがたてたものではあるが、そうしむけたのは彼らだ。
『全く。C.C.が説明してくれればこんなことしなくてもいいのに……この私が口で言って納得する男か?だなんて………共犯者だって自慢しているくせに。』
「まあ、しかない。我々の動きを皇帝に知られる訳には行かないからな。………ゼロは、もうナナリー様の元へ?」
『ええ。通信状態が悪くて、応援に入った藤堂さん達も探しているみたいだけれど。』
「予定通りならいい。ナナリー様の言葉なら、きっとルルーシュ様も信じる。」
 その時………
 旗艦のエンジンの1つが爆発した。
「なんだっ?」
「フロートユニットに被弾………アプソンの馬鹿……!」
「状況を知らせろっ!」
 慌てて繋いだ旗艦の通信士が、早口で伝えてくる。
『ア…アプソン将軍が……右舷後方に取り付いた黒の騎士団を撃ち落とそうとして……フロートに被弾。メインフロート推力低下。第3第4エンジンも………!ケースθ発生っ!!』
 旗艦の報告に舌打ちする。
「このままだと……墜落………」
『冗談じゃないっ!これだから、ブリタニアはっ。』
 徐々に降下し始める重アヴァロンに向って、紅蓮が飛ぶ。
『カレンっ!』
 突如割り込んできた通信に、はっとした。
 蒼天を切り裂き紺碧の海との狭間に白い機体が舞い降りる。
「スザクッ!」
 アヴァロンから緊急発進したランスロットが、先陣を切って降下した。
『スザクッ。ルルーシュとナナリーが!!』
 悲鳴にも近いカレンの声に、大きく頷く。
「大丈夫。ルルーシュとナナリーはきっと一緒だ。
 今、ナナリーの位置を探索させている。」
『殿下っ!』
 アヴァロンから、オペレーターのセシルが呼びかける。
『総督の位置が解りました。メインブリッジ後方下部のガーデンスペース。でっでも、墜落まであと48秒っ!』
「必ず助けるっ!」
 海面へと墜落している艦に向って、白と紅のナイトメアは急降下していった。

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