a captive of prince 第18章:接触 - 6/7

「しっかし、相変わらずゼロのやる事とは奇想天外だな。
 100万人の動員とゼロの国外追放とは。」
 副総督の警護という形をとってスザクの部屋に入ると、ジノは愉快そうに言った。
 部屋につくや否や、執務机のPCに駆け寄り電源を入れるスザクに、アーニャは首を傾げる。
「スザク──?」
 ほどなくして受信された事を告げるアラート音がなった。
 椅子に座るのももどかしそうに、スザクが操作するのを、彼の幼馴染達は不思議そうに見守る。
 画面には、先ほど会談を終えたばかりのテロリストの姿が映し出されている。2人のラウンズは目を見張った。
「───やあ。君がこのチャンネルを覚えていてくれて良かった。
 きっと連絡くれると信じていたよ。」
『───“屋根裏部屋で話そう”……そのサインをまた見るとは思わなかった。』
「8年ぶりに使ったよ。………ルルーシュ。」
 仮面の怪人から仮面が外される。
 さらさらと流れる黒髪と紫水晶の瞳を持つ少年がその白皙の面を現した。
 その人物を見つめるスザクの瞳はうっすらと潤んでいる。
「やっと君と話せる。…………ゼロの復活がこんなにも嬉しかった事はないよ。」
『副総督がそんな事を言っていいのか。』
「………立場上、拙いよね。」
 2人揃って含み笑いを浮かべた。
「ナナリーから皇帝の企みについて聞いたと思う。
 僕らは、それを阻止するつもりだ。」
『ああ。“ラグナレクの接続”だったか……概要については俺もC.C.に確認した。
 何故、俺とナナリーが日本に、お前がブリタニアに連れて行かれたかも得心がいった。
 阻止するという点では、俺も同感だ。』
 その言葉に、3人は安堵する。
「では、君も同志と考えていいね。」
『ああ。だが……』
 ルルーシュの言葉に、スザクだけでなくジノとアーニャも眉をひそめる。
『あくまで俺はゼロとして動き、黒の騎士団はブリタニアと戦う。』
 強い口調のルルーシュに、スザクは口の端をつり上げる。
「僕も、ブリタニアの皇子として反抗勢力とは戦い続けるつもりだよ。」
『お前は中から、俺は外から……1年前お前が提案した通りになったな。』
「───外から………
 行政特区式典で何を仕掛けるつもりなのか、聞いても構わないかな。」
『それは、当日までの楽しみにとっておく事だな。』
 不敵なルルーシュに、肩をすくめる。
「中華連邦とは太いパイプが繋がったようだね。」
 スザクも負けじと笑みで問いかければ、ルルーシュは軽く瞑目し、くつりと笑う。
『こちらの動きは把握しているようだな。
 俺を呼び出した理由は他にあるという事か。』
 その問いに、スザクは一瞬息を詰めた。
「………予想はついているはずだ。
 僕が確認したい事は……一年前のあの日、何があったか…だ。
 君は……ユフィにギアスを使ったのか?」
 静かだが、射抜くような強いまなざしで問いかけるスザクに、ルルーシュはびくりと肩を震わせた。
 表情を強ばらせ、一瞬視線を落としたがすぐに顔を上げると真剣な表情で、そうだと頷く。
 その答えにスザクもまた顔を強ばらせると、ゆっくり首を振った。
「何故───?」
 スザクの声が重々しく響く。
 ある程度予想していた答えだった。しかし、現実に肯定されてしまうと苛立ちと怒りが込み上げてくる。
『行政特区を失敗に導くためだ。あのままではどちらに転んでも黒の騎士団は立ち行かなくなる。
 ユーフェミアを聖女にするわけにはいかなかった。』
「だから、魔女に仕立て上げた。」
『ああ。』
 迷いのないその答えに、スザクは小さく息を吐く。それは、安堵の息だ。
 表情を殺して淡々と話すルルーシュに、スザク既視感を覚えていた。
 ルルーシュのあの目……知っている。あれは、秘密を隠している目だ。かつての自分と同じ様に………
 スザクは軽く瞑目すると、再び正面から彼を見据えた。
「嘘だな。」
『今更嘘をついてどうする。事実は、お前やそこにいるナイトオブスリーが良く知っているだろう。』
 スザクの側に立つ騎士を指して言う彼に、皇帝の騎士は小さく頷いた。
「僕が知りたいのは事実ではなく真実だ。
 C.C.は、あれは君の計画のうちではなかったと言っている。
 だが、目的遂行のために利用するしかなかったと………
 君の本心が知りたいんだ。君は、ユフィに日本人を虐殺させたかったのか。」
 ルルーシュが息を呑む。
「ルルーシュ。ユフィからの伝言だ。
 今でも君の事を信じていると────」
 大きく開かれたルルーシュの瞳の奥で、迷いや戸惑い、或は安堵と喜びといった様々な感情が揺らいでいるのが見て取れる。
 スザクは、さらに言葉を続けた。
「あの日、何が起きたのか………本当の事を教えて……」
『私にも教えて下さい。お兄様。』
 秘匿回線を使った極秘の会談。そこに、第三者が割り込んできた。
 2人にとって身近な少女の声に、緊迫した空気にさらに驚きが加わる。
 画面右隅に、このエリア11の総督である少女の姿が映し出されていた。その背景に写る調度から、執務室ではなく彼女のプライベートスペースである事が分かる。
 その彼女の背後にスザクの幼馴染である少女騎士の姿もある。
 つい先ほどまでスザクの後にジノと一緒に控えていたアーニャだった。
「通信相手がルルーシュ様だと分かると、すぐに部屋を出て行ったよ。」
 ジノがウインクしながら答える。スザクは眉を下げた。
『お兄様。私は、あの時言いましたわよね。お兄様と一緒なら、どんなところにでもいくと………。
 お兄様が地獄に堕ちると仰るのなら、私もお供します。お兄様の罪も罰もみんな私に分けて下さい。
────もう覚悟は出来ているのですから。』
 ナナリーの言葉に、ルルーシュは唇を噛み締め俯いてしまった。
 葛藤している────
 ルルーシュの姿を静かに見守る。
 ルルーシュが何故、誰のために行動を起こしたのか。容易に想像のつく事だ。
 本当は、ナナリーを巻き込みたくはなかっただろう。
 だが、彼女はもう当事者になってしまっている。V.V.の企みによってこのブリタニアに連れ戻されたときから───
 当事者である以上、彼女には知る権利がある。
 勿論、何も知らせずに、別れ別れになった兄がいつか発見され帰ってくると信じさせる事も出来た。
 だが、ナナリーがそれを許さなかったのだ。
 彼女自身、何か思い当たる事があったのだろう。自らユーフェミアとの面会を望み、彼女を問いつめたのだ。
「もしかして、ユフィ姉様はゼロの仮面の下をご存知なのではないのですか。
 だから……ゼロに特区参加を呼びかけたのでしょう。」
 真剣に問いかける彼女に、ユーフェミアもスザクも真実を伝えるしかなかった。

 ルルーシュ。僕もナナリーを巻き込みたくはなかった。
 でも、これはナナリーが自ら選んだ道なんだ。

 俯いていたルルーシュの顔が上げられる。
 意を決して語り始めるルルーシュの言葉を、一言一句聞き漏らさぬ様に真剣に耳を傾けるスザクとナナリーだった。

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