a captive of prince 第14章:行政特区 - 1/4

 平日の美術館……特別展示でもない限り閑散としている。
 しかも、雨降りともなると入場者は殆どいない。
 貸し切り状態の展示室。この美術館の建設者である前総督クロヴィス・ラ・ブリタニアの肖像の前に立ち続けている少年がいる。
 数週間前。キュウシュウで反乱が起きた時訪れた副総督ユーフェミア・リ・ブリタニアと同じように、威風堂々としたクロヴィスの立ち姿に向って小声で話しかけている。
 どこかで見た情景だと彼を見ていた学芸員は、その面差しにはっとして展示室を出て行った。目指すのは館長室だ。
「兄さん……貴方の仇は取れそうもありません。きっと、貴方もそれを望んではいないでしょうね。
……でも、無念だったでしょう。ルルーシュに、想いを伝えられなかったのですね……彼らを捜すためにこのエリアの総督になったというのに………」

 エリア11に渡る事が決まった時、新年祝賀会のために帰国していたクロヴィスと、アリエスの庭園で会った。
 宮廷内で話をしていると、どんな噂を立てられるか分からない。スザクがクロヴィスに近づく事を好まない彼の母妃、ガブリエッラを気遣っての事だった。
「そうか。スザクもエリア11に来るか。スザクが来たら、大々的に告知しよう。そうすれば、もしかしたらルルーシュが連絡をくれるかもしれない。」
 エリア総督となって6年……統治の殆どを文官・武官に任せ。クロヴィスがエリア11で力を入れていた事は、文化向上と日本文化の保護、そして密かに、父が捨てた弟妹の行方を探す事だった。
「兄さん……まだ、ルルーシュとナナリーの事……」
「ああ。諦めずに探しているよ。
アッシュフォードが確認したと言うが、その子供達の遺体は酷い状態で、目視で確認できなかったそうだからね。
本当にそれがルルーシュとナナリーだとは断言できないはずなのだ。」
「でも。アッシュフォードは……」
「あれは、元々マリアンヌ様の……ルルーシュとナナリーの母親を支援していた。
落ちぶれたとはいえ、その財力があれば、2人を匿う事もできるだろう。」
「もしそうなら……何故、ルルーシュもアッシュフォードも何も言って来ないのでしょう。」
「───アッシュフォードの思惑は分からないが……ルルーシュとナナリーは、国に戻る意志はないのかもしれないな。
本人達が望めば、アッシュフォードは何かしら行動を起こすはずだが、この6年何の音沙汰もない。
勿論、何度かアッシュフォードに探りを入れてみたのだが……全て空振りに終わってしまった。」 
 クロヴィスは嘆息した。
 アリエスのバラは今日も見事に咲き誇っている。
 風にそよく花々から甘い芳香が漂い、クロヴィスは目を細めた。
「だから…お前の姿を見れば、ルルーシュも何かしら行動してくれると思うのだよ。」
 クロヴィスの言葉に微笑んで頷く。だが……
「もし……ルルーシュが、捨てられた事を恨みに思っていたら……」
「そのときは、2人の気の済むように……討たれても構わないさ。
それだけの事を、私達はしてしまったのだから……」

 寂しげに笑った兄の顔を思いだす。
「これから僕は、ルルーシュを追いつめる事をします…… 
それが吉となるか凶と出るか……良い方に転がるように見守って下さい。」
 クロヴィスを見つめるスザクの横に、恰幅の良い中年男性が近づいてきた。
「この肖像は、生前クロヴィス殿下が贔屓にしていた画家に描かせたものです。そして、その横にある親子の肖像は、クロヴィス様がとても懇意にしていらしたご家族を御自ら描かれたもので、評論家の評価も大変高い作品でございます。
クロヴィス美術館にようこそおいで下さいました。───スザク殿下。」
「───館長。今日は公休日でね。全くのプライベートなんだ。だから……余計な気遣いは無用だよ。」
「イエス ユア ハイネス。
施設や展示物についてのご質問は、何なりと私か担当学芸員にお申し付け下さい。」
「ありがとう。」
 館長は会釈すると、展示室の隅に控えた。
 それを目の端で確認する。と……全く別の人物を捕らえた。
 学生服姿のお下げ髪に眼鏡の少女が、ゆっくりとスザクのいる展示室に向って歩いてくるのが見えた。

 スザクはゆっくりと振り向き、彼女に声をかける。
「やあ。こんなところで会うなんて奇遇ですね。貴女も美術鑑賞ですか。」
 声をかけられた人物…ニーナ・アインシュタインは驚きで目を大きく見開き
「でっ……!」
 殿下、と大声を上げそうになり、慌てて口を押さえた。
 近づいてくるスザクに目を白黒させ、周りに美術館の人間しかいない事を確認すると、小声で話しかける。
「殿下。どうして……おひとりなんですか?」
 もう一度周りを見渡すが、先日見かけたような厳つい黒ずくめな人間は見当たらない。
「休みなので、息抜きに……貴女は?」
「私は、借りていた資料を返してきたところで……」
「そうですか。このあとのご予定は?」
「え…いえ。あとは帰るだけでしたから……」
「じゃあ。少し僕につき合って頂けませんか? 
さすがに、1人で美術鑑賞というのも味気なくて……」
 少し恥ずかしそうに頭を掻きながら話しかけてくる姿に、親近感を憶える。
 だが、自分が一緒でもいいのだろうかという戸惑いもあった。
「え…ええ。私でよければ……で…でも、私……美術に関してはそんなに……」
「僕も詳しくなんてないですよ。名画と言われる物を見ても、ああキレイだな位の感想しか出てきませんから。でも、それでいいんだと思っています。」
 皇子のざっくばらんとした意見に唖然とし、つい笑みがこぼれる。
「そ…そうですね。」
 楽しそうに展示物を見始めた2人に、そこに居合わせた館長と学芸員は顔を見合わせ怪訝な表情を浮かべるのだった。
 展示物を見終えると、スザクは彼女を喫茶室に誘い、そこで文化祭の顛末や学園での生活の事、果てはナイトメアの将来についてまで語り合った。
 ニーナにとっては、こんな話題で話が合う友人はいないので、とても楽しく有意義な時間だった。
 美術館を出る時、わざわざ館長が見送りに現れスザクだけでなく自分にまで頭を下げる様がなんとも愉快だった。
「今日はありがとう。おかげで、いい休日が過ごせました。」
 穏やかに微笑むスザクに赤面する。
「い……いいえ。私こそ。一緒に話せて楽しかったです。
あの…これからお忙しいと思いますけど、ユーフェミア様とご一緒に頑張って下さい。」
「ありがとう。」
 ぺこりと頭を下げると、楽しそうに傘をくるくる回しながら去って行くニーナを見送り、スザクはクスリと笑う。
 手の中には携帯端末が握られている。それを見る目は、鋭く光っていた。

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