a captive of prince 第14章:行政特区 - 4/4

 皇暦2017年12月10日。行政特区日本設立記念式典会場。
 戦前よりあった競技場を改装したその会場に、続々とブリタニアがイレヴンと蔑んでいる日本人が集まって来る。
 ナイトメアまで配備したものものしい警備の中、整然と何の混乱も無く、着々と式典準備が進んで行く。
 会場内の高い2本のポールには、ブリタニアと日本の国旗が並んで同じ高さではためいている。
 その様子に、ユーフェミアは満足そうに微笑んだ。
 子供の頃、学校で「世界中が仲良く出来ればいいのに。ブリタニアもEUも中華も関係なく、戦争のない、誰もが笑っていられる世界に……」と発表して、教師を唖然とさせた事がある。
 素直で子供らしい意見だが、武力をもって世界を席巻している超大国の皇女としてはあまりにも立場を理解していない発言で、周りの大人達を大いに困惑させた。
 しかし、その想いは今でも大事にもっている。
 今、目の前にある2つの国旗は、まさに彼女が想い描いた理想の姿だ。
 ユーフェミアは、傍らで空にはためく日本の国旗をまぶしそうに見上げる兄に笑みを深くする。
 誰もが笑っていられる世界……それを強く考える切っ掛けを与えてくれた人物の1人が、理想の実現のためにずっと手伝ってくれた。
 そしてもう1人……彼はきっと来てくれる。そう信じている。
 ユーフェミアは、胸の前でぎゅっと手を組んだ。
 どうか、ルルーシュ……ここへ、この会場に来て下さい。

 式典に参加する来賓控え室に、日本人が姿を現した。
「ようこそ。よくおいで下さいました。」
 ユーフェミアが、喜色満面で彼らを出迎える。
 日本人がキョウトと呼ぶNACの代表。桐原泰三と皇神楽耶は、ブリタニアの皇女の歓迎ぶりに引きつった笑みを浮かべている。
 その滑稽な様子に、皇族達の後ろに控えている将軍ダールトンは、薄笑いを浮かべた。
 それもそうだろう。表向き恭順の姿勢を取っているが、その裏ではテロリストに資金などを援助し敵対行為を助長している、と黒い噂が絶たない組織だった。それを、この特区に参加する事で、嫌疑を帳消しにする裏取引をまとめたのはダールトンだ。
 そんな彼らを、皇女が歓待している。さぞ、居心地が悪い事だろう。
「いち早くこの特区への参加を表明して下さったと聞いております。
どうか、この先特区が成功するよう、ご助力お願い申し上げます。」
 日本の礼に習って頭を下げるユーフェミアに、さしもの桐原と神楽耶も恐縮して、最敬礼で応える。
「日本人が日本人でいられる場を創って頂き、感謝します。
まだまだ、ブリタニアの方には受けいれられていないと聞き及んでおります。
殿下には、この特区を発展させて行くお考えがおありなのでしょうか。」
 神楽耶の単刀直入な問いかけにスザクは苦笑し、周りの官吏は渋い顔をする。ここが特区でなければ、厳罰に処されるところである。
「そうさせたいと考えております。ブリタニア人に対する啓蒙活動の他、特区に生活する日本人の安定と保証……問題は山積しておりますが、日本人の方々のご意見やご協力を得られれば、必ず良い方向に向かうと信じております。
これから、手を携えて特区をエリア中に拡げて参りましょう。」
 神楽耶の両手を取って力強く言うユーフェミアに、彼女も頷く。
 ぎこちなくも和気あいあいとしている2人の少女を見守るスザクの携帯がコール音を発した。
 発信元を確認するスザクの目が柔らかく細められる。周りに断ると控え室を出た。
「やあ。ジノ。」
 懐かしそうに名を呼べば、明るい声が返って来る。
『今、政庁についた。トリスタンのエナジー補給が済んだら、すぐそっちに向うよ。』
「そんなに急いで来なくても大丈夫だよ。エリア16の平定を済ませてきたばかりなんだから、ゆっくりしてからくればいい。
こっちは問題なく進んでいるから。」
『───ゼロは来たのか?』
「いや。何の連絡も無く、こっちにも現れていない。」
『だったら、あまり楽観は出来ないだろう。』
「そうだね……でも、僕もユフィも信じているから。」
『テロリストを?ゼロの何が信じられると言うんだ。』
 厳しい口調で問いかけられ、苦笑する。
「さあ。これといって確証はないんだ。だが…彼が日本人のためにならない事はしないはずだから……」
『スザクお得意の直感か?それが外れなければいいが………
とにかく、補給完了次第そっちの警備につくよ。』
「申し訳ないな。ラウンズにまで手を煩わせて……」
『なーに。勅命でもあるし、宰相閣下からも依頼されている。気にするな。』
「ありがとう。待ってるよ。」
『ああ。この特区が、スザクのこれからに、いい影響になる事を信じているよ。』
 そう言い残して切れた通信に微笑み、待ち受け画面の時計に気を引き締めた。
 式典開始まであと30分………
 ユーフェミアの指示で、ゼロが座るための椅子が舞台上に用意された。
 彼女が願う通りこの会場に現れるのか……スザクの言葉を受けて国外脱出を選ぶか……
 それとも………
 別の策を用意しているのか………
 いずれにしても、悪い事にはなるまい。
 それが願望なのか、確信なのか……スザク自身分かっていなかった。

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