a captive of prince 第14章:行政特区 - 2/4

 ユーフェミアの行政特区宣言より、黒の騎士団は団員の足並みに乱れが生じていた。
 コーネリアと違って、ユーフェミはナンバーズに好意的な為政者として浸透している。
 そして、元首相の息子であるスザクもその発起人に名を連ねている事が、この施策の信憑性を裏付けていた。
 ブリタニアが“日本”を認め、その責任者の1人にスザクがいる。
 その事が日本人に希望を与え、彼らを行政特区参加へと駆り立てている。
 黒の騎士団内においても同様で、特区参加を表明して離反する者が後を断たない。
「くそっ。ブリキの奴め!あんなもの嘘っぱちだって、どうしてみんな気がつかないんだよっ!」
「スザクが発起人の1人だと言うのが、信用できると考える人が多いんだろう。」
「あいつは……!ブリキに育てられた、ブリキの操り人形なんだぞ。日本人の心なんて、とっくに無くしちまってんだ。そんな奴の、何が信用できるって言うんだよ!」
 玉城と扇のやり取りを心配そうに見守りながら、カレンは小さく息を吐いた。
 離反者が次々と出る事に、ゼロは本人の自由意志に任せると伝えてきただけで、姿を現す事はなかった。
 このアジトに来ているかどうかも分からない。いても自室にこもっているのだろう。
 ゼロ……私達、これからどうしたら………
 ホットラインを登録してある携帯端末をじっと見つめる。
 すると、着信があった。
「ゼロっ。」
 着信番号を見て、表情を強ばらせる。
 未登録の知らない番号……… 
 鳴り続けるコール音に構わず手の中の端末を凝視している彼女に、扇と玉城も不審な顔をする。
 カレンは、意を決して通話ボタンを押した。
『やあ。やっと出てくれたね。』
「あんた……っ!」
 険しい表情と声に、傍らの男達の顔も強ばる。
『文化祭の出し物のお化け屋敷でのモンスター役が好評だったそうだね。見てみたかったな、君の勇姿。』
 くすくす笑うその人物は、自分たちが敵視している、今は妹と共に新規事業への参加を呼びかけてきている皇子だった。
「どうしてそのこと……っ。なんで、あんたが私の番号知っているのよ。」
『そりゃあ。誰かに聞かなきゃ分からないよ。
まあ、他に調べようはあるけれど、色々詮索されるのも面倒だし………』
「誰に……生徒会のメンバーねっ。」
『情報源は教えられない。当然だろう。』
 ブリタニアの情報を得るために、多くの内通者を持つ黒の騎士団幹部の1人であるカレンには、スザクの“当然”という言葉の意味が理解できるだけに、それ以上追求する事を諦めた。
 カレンの正体を知らない生徒会メンバーにしてみれば、皇子に個人的に連絡を取りたいのだと頼まれれば、断る理由は全くないのだ。
「私の事をからかうためにご連絡下さったのかしら。皇子殿下。」
 皇子という言葉に、男達に緊張が走った。
『そう言う口調で話しているという事は、少なくとも学園にはいないようだね。』
「私がどこで何をしていようが、あんたには関係ないでしょ。」
 怒鳴りつければ、通信先でスザクが忍び笑うのが聞こえる。
『確かに君の言う通りだ。つまり今は“カレン・シュタットフェルト”ではなく“紅月カレン”という事だね。ゼロの親衛隊隊長殿に、お願いがあるのだが。』
「お願い?皇子殿下がこの紅月カレンにどんな願いがあるというのかしら。」
『君達のリーダー。ゼロと非公式に話がしたい。』
「ど……どういうことよ。ゼロと話し……って!」
 カレンの上ずった声に、男達は息を呑む。
 2人が通話内容を知りたがっている事を察して、手近な紙に走り書きをした。その内容に扇は驚愕の表情を浮かべ、自分の携帯端末で通信を繋げ話しだす。
『言葉の通りだよ。ゼロと個人的に話をしたい。2人きりで……』
「そんな事言って、どこかにおびき出したり、通信傍受してアジトを探すつもりじゃないでしょうね。」
『そんなことはしない。第一、僕は話をしたいと言っただけで、会いたいとは言っていないだろう。
君達の位置を割り出すつもりなら、この通信中に君達の元に軍が行っているはずだ。』
 カレンは、はっとしてトレーラーの外を確認するようにメモする。
 玉城が慌てて外を伺うものの、いつもと変わらない様子だった。
「───そうね。あんたに、今私達を捕まえる意志がない事だけは信じてあげる。」
『ありがとう。』
「礼には及ばないわ。私はまだ、ゼロに取り次ぐとは言っていないんだから。」
 勝ち誇ったように言えば、通信先でため息がきこえる。
『今すぐ取り次いでくれなくてもいい。ゼロにその意志があるならこの番号に連絡を。そのとき、秘匿回線のチャンネルを教える。
この番号も、軍に知られていない番号だから安心していいよ。』
「───皇子のあんたがどうして……」
『蛇の道は蛇。皇族だからといって安全という訳じゃないからね。
自分の身を守るための、いわば生活の知恵さ。』
 スザクの苦笑が鼓膜を震わせた。
「ゼロには、あんたから非公式での会談の申し入れがあった事は伝えておくわ。でも、ゼロが連絡するとは思わない事ね。」
『ああ。期待しないで待っているよ。』
 通信をきり、カレンは大きく息を吐いた。
 それと同時に、扇も通信を切る。
「扇さん。ゼロとは連絡つきました?」
 カレンの問いに、難しい顔で頷く。
「会談に応じるつもりらしい。」
 その答えに、カレンは息を呑み、玉城は顔を強ばらせる。
「だが、すぐにこちらから連絡してやる事はないとも言っていた。
2、3日間を置くと……ゼロから指示が出たら、スザクに連絡してくれるか?」
「わかりました。」
「へっ。何でもかんでも思い通りに行くと思うなよ。裏切り者めっ。」
 ゼロがすぐに連絡を取ろうとしない事に気を良くした玉城は、勝ち誇った笑みを浮かべる。
 そんな彼に苦笑しながら、扇は扇で自分の考えに没頭しているようだった。
「スザクの奴……今頃ゼロに何の話があるって言うのよ。」
 手の中の携帯端末を見ながら、カレンはイライラと呟く。
 その話がなんであれ、味方になるという話ではない事は分かりきっている。
 小さく舌打ちするとポケットにしまった。

 人払いした執務室で、通信のきられた携帯端末を手に、スザクは薄く笑う。
 賽は投げられた。ゼロ…ルルーシュが乗って来るかは五分五分……
 ルルーシュ・ランペルージとしては何度か連絡をくれている。
 主に、文化祭の事務連絡だったが、そのとき、二言三言当たり障りのない個人的な会話を交わした。
 いつでも連絡してきて……と、伝えてはいるが、プライベートで連絡をくれる事はなかった。
 側に誰がいるか分からない状況で、皇子と学生という立場ではこれが限界だろうと、彼がゼロである事を知らなかったときはそう思っていた。だが、今は、連絡をくれない理由がよくわかる。
 自分の敵に当たる人間に、どうして自ら進んで連絡を入れられるだろう。
 しかし、彼は幼なじみが自分が倒そうとしている敵側の人間になった事を知っていた。
 知った上での、式根島のあの作戦なのだろう。
「僕の事を仲間に引き入れようと考えたのなら……まだ、望みはあるかもしれない。」
 そう考えてしまうのは、僕の奢りだろうか……
 スザクは、大きく息を吐きだすと、椅子の背に深々と体を預けるのだった。

1

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です