a captive of prince 第14章:行政特区 - 3/4

「まずは、呼びかけに応じてくれた事に感謝する。
君が連絡をくれるかどうか、賭だと思っていた。」
『そうですね。このタイミングで、貴方が非公式とはいえ会談を望まれる理由が解らず困惑しています。』
 秘匿回線を使った極秘の会談。モニター画面に映る仮面が、警戒を露にしている事に苦笑する。
「解らない?……本当に?」
『ええ。非公式に……とは、個人的にという事でしょう。
我々の仲間になるという内容なら、歓迎しますが。あの施策の発起人に名を連ねている以上、そんな事はあり得ない。
行政特区への参加不参加の確認なら、何も非公式に行う必要はない。』
 あくまでもテロリストとして、敵対する国の皇子に対する態度を崩そうとしないルルーシュに、スザクは内心ため息をついた。
 僕の考えは、ルルーシュに直接伝えてある。それでもなお、テロリストで貫くつもりなのか。
 ゼロが自分なのだとは、言うつもりがないんだね。
 なら、僕も皇子として接するしかない。
 スザクは小さく息を吐くと、不敵な笑みをゼロに向ける。
「君の意思を確認するためではない事は、保証するよ。
ユーフェミアと僕では、この特区を提案案した理由が違う。」
『───同じ目的ではないと………』
 ゼロに緊張が走った。
「僕の目的は……大体想像がつくだろう。」
『ええ。我々の動きを封じるためでしょう。
解放独立を唱っている我々よりも先に“日本”を認める。
地域限定とはいえ、“日本人”を名乗れる場が出来れば、黒の騎士団への求心力は弱まる。
その上、我々にも参加を呼びかければ、我々は存在意義まで無くしてしまう。ここまで追い込んでいながら、何故、こんな形で会談を望まれたのか、理解に苦しみます。』
「少し、昔話を聞いて欲しい。」
『昔話………?』
 仮面の下で、ルルーシュは困惑を深めていた。
 何故、今更ゼロに昔話を聞かせようとするのか。スザクの意図を計りかねていた。

「日本とブリタニアが戦争にはいる半年ほど前、ブリタニアから人質として2人の皇族が送られてきた。彼らは、僕と同い年の皇子とその妹だった………」
 スザクは、とつとつと3人の出会いから語り始めた。
 それは、ゼロにとっては初めて聞く話かもしれないが、ルルーシュにとっては過去の出来事でしかない。
 それを幼なじみの口から聞くという奇妙な現状に嘆息すると、意識を他の事に向けた。
 表情を全く見られる事のない、フルフェイスの仮面にして良かったとしみじみ思う。
「彼らは、国から見捨てられたのだと憤っていたが、実際は違う。
国では今でも、僕の兄を始め彼らの行方を探している人々はいる。
ユーフェミアは、今もこのエリアのどこかにいる兄妹と僕のために、この特区を提案したんだ。」
『行方不明のご兄妹と貴方のため?』
「彼女は、僕の事を一日も早く“日本”に返したいと考えてくれている1人だ。」
『貴方を日本に返す……』
「僕と彼らが何の支障も無く会うために、体の不自由な妹が安心して彼女の兄と暮らせる場を“ブリタニア”の中に創るために………」
『では…この特区構想はそもそも、ナンバーズのためではなく、その行方不明のご兄妹のためだと………』
「日本人が聞いたら憤慨するだろうね。でも、人の行動の根源は所詮エゴイズムだろう?
しかし、彼女の理想が民族の共存共栄なのも疑いようもない真実だ。フジの特区が成功すれば、エリア内に特区を拡げていく事も決まっている。」
『では、貴方は?ユーフェミアとは違う目的だと仰っていましたね。』
「───今のブリタニアの破壊。」
 以前耳にした言葉を繰り返す幼なじみに、ルルーシュは息を呑む。
『本気……なのですか。今の貴方があるのも、そのブリタニアに拾われたからでしょう。』
「ああ……その点では、皇帝の気まぐれに感謝しているよ。
僕をあの人に預けてくれたからこそ、こういう目的も持つ事が出来た。君のやり方とは相容れないが、目的は恐らく同じだ。」
『だから、特区に協力しろ……と?』
「してくれなくていい。」
「なっ………」
 ゼロ…ルルーシュは思わず立ち上がった。
 スザクの真意が解らない。
 衝撃と困惑で、言葉に窮した。
『君に協力は求めない。ただ、邪魔はして欲しくないんだ。』
「つまり、それは………」
『ここは僕に任せて、君は君で、別のアプローチから目的を果たしたらどうだろう。』
「フ……ククククク………ハハハハッ………」
 ルルーシュは、弾かれた様に笑いだした。
 その様子を、スザクは静かに見守っている。
 ゼロの私室の前では、会談の様子が気になるカレンと扇が中を伺っていたが、突然漏れ聞こえてきた笑い声に困惑し顔を見合わせていた。

『要は厄介払いですか。』
 ゼロが侮蔑を込めた声で言い放つ。スザクは、口の端をつり上げた。
「そうだ。
君の目的は“エリア解放”ではなく“ブリタニアの破壊”だろう。
それを貫くつもりなら、このエリアから離れるべきだ。」
『それは提案ですか。勧告ですか。』
「どうとるかは君の自由だ。
だが、他国に政治亡命するのなら、君の受け入れ先はいくらでもありそうだね。」
 スザクは肩をすくめてみせる。
『お話はそれだけでしょうか───』
「君が、僕たちに協力して特区成功に尽力してくれるのも、エリアを離れブリタニア打倒を貫くのも、どちらも歓迎するよ。」
『あなた方の邪魔をしなければ………ですか。』
「そうだ。君にとって最も優先すべき事は何か………特区設立までに決めてくれればいい。」
『お話は伺いました。だが、私がそのどちらの選択肢も選ばない事も考慮しておくべきだと、ご忠告申し上げます。』
「本当に君は……一筋縄では行かないね………」
 苦笑するスザクに『失礼します。』と断りを入れ、通信がきられた。
 暗くなったモニターに、スザクが大きく息を吐きだす。
 伝えるべき事は伝えた。あとは、ルルーシュがどう判断するか……
「結局、僕が正体を知っている事は言えずじまいだったな………」
 あんなに警戒されるとは思わなかった。
 ユフィ……君が考えているほど、簡単には行かないかもしれないよ。
 そう。これはユフィと僕のエゴだ。
 ルルーシュとナナリーの意思の確認も無く、勝手に最善だと思う事を押し付けている。
 幼なじみが、他人の意志に翻弄される事を1番嫌悪する事をスザクは解っている。
 それでもなお……
 想いは通じると、信じたい。
 ルルーシュ……君は何を考えている………
 スザクは椅子の背に体を預け、ゆっくりと目を閉じた。

 少女の細い指先が、白い紙の上を滑らかに滑って行く。
 左から右へ……何度も何度も……
 紙の上に打ち出された点字を辿るその表情は、とても朗らかだ。
 そんなナナリ-を見守るルルーシュは、彼女とは反対に険しい表情をしている。
 ユーフェミアとスザクの考えはよくわかった。ルルーシュとナナリーは、自分たちのために打ち出したというその施策に感謝すべきなのだろう。
 だが、そんな事は頼んでいない。
 ゼロとして、行政特区のような策も考えたが、無理だと判断した。
 それはあまりにもキレイすぎる理想……ブリタニア人の意識が変わらない限り実現など出来ない。何よりも変わる事などあり得ない。そう思った……思っていた。
 それを、ユーフェミアはいとも容易く実現しようとしている。
 あの日、自分たちがささやかな幸せの日々を送っている学園に突然現れ、時間と労力をかけて準備し形にしていていた2つのもの……生徒会イベントと黒の騎士団をルルーシュが何も出来ないうちに壊してしまった。ほんの僅かな呼びかけ……それだけで。
 あの時自分の胸に湧いた感情がなんであるのか、ルルーシュは自覚している。
 怒りと嫉妬………
 ブリタニアの皇族としての何もかもを奪われた自分には決して出来ない事を、妹と兄になった幼なじみが実現させようとしている。
「………俺は邪魔か………」
 ルルーシュは薄く笑った。
 ブリタニアの皇子がテロリストに向ける言葉としては、至極当然だ。だが、自分を否定されたような心地がしてならない。
「選択肢は2つだけか……?違う、違うぞ。スザク。」
 暗い笑みを浮かべるルルーシュは、ナナリーも先ほどまで朗らかにしていた表情を曇らせている事に気がついた。
「どうした?ナナリー。」
「お兄様が点訳して下さった、ユフィ姉様からのお手紙……最後の2通が切なくて……」
「シュナイゼル兄上が、俺たちの救出に動こうとしていた事と、スザクの事か………」
 先日、スザクから受け取ったユーフェミアからの手紙の束………
 その中に1通だけ、切手の貼られていないものがあった。宛名も、“行方の分からない貴方達へ”となっている。
 それは、スザクがブリタニアに連れて行かれ、ルルーシュ達の死亡が報告された直後に書かれたものらしい。
 その内容も、手紙というよりは、ユーフェミアが自分の気持ちを整理するために書いたように思われる。
 そんなものを何故スザクか持っていたのか……何故、他のものと一緒にルルーシュの元に届けたのか……ルルーシュにはおおよその予想はついた。生真面目なスザクらしい。
 この内容を読んで点訳すべきか迷ったが、自分たち宛である以上、ナナリーにも知る権利があると考え点字に直したのだった。

『ルルーシュ。ナナリー。
 まだ、2人が亡くなったとはとても信じられません。
 私が出した手紙……貴方達の元に届いてなかったのですね。
 スザクにすごく責められて、私も思わず言い返してしまいました。
 私は必ず返事を出していたし、私からも手紙を送ったのだと……彼、すごくショックを受けたようでした。 
 その日、お父様に謁見したそうです。
 以来まるで人が変わったように儚げになってしまいました。
 初めて会ったときは、ルルーシュがお手紙に書いてきて下さっている通り、意志が強そうな凛々しい男の子だったのに………すっかり変わってしまいました。
 スザク、お父様の養子になったそうです。私達の兄弟になったのですよ。
 喜ぶべきなのでしょうか……すべきでしょうね。でも、今のスザクを見ていると素直に喜べなくて…… 
 お父様のなさりようも分からなくて……彼にどう接していいのか困っています。
 せめて、貴方達が生きていて下されば……
 いいえ、きっと生きていますよね。どうか生きていて下さい。スザクと私達のために。
ユーフェミア』
 

そして、ブリタニアから郵送されたもので1番日付の新しい手紙の内容は、皇帝が日本に対し戦争を仕掛けようとしている事を伝えるものだった。

「ユフィ姉様……私達に危険を知らせようとして下さっていたのですね。そして、シュナイゼル兄様も………」
「ああ。だが、結局、俺たちに兄弟からの救いの手は届かなかった……」
「切ないです……スザクさんも、ブリタニアに渡ったばかりの頃は、心細い想いをされていたのですね。」
「そうだな。」
「でも、今はブリタニアの皇族としてとても堂々としていらして、ユフィ姉様ともとても仲がよろしそうで本当に良かったです。」
 嬉しそうに微笑んで、ナナリーは自分の手に添えられたルルーシュの手を頼りに顔を向ける。
「いよいよですね。行政特区……何十万という数の日本人の方が参加されるそうです。これだけでも、お2人の政策は成功したのも同然ですわ。」
 無邪気に喜ぶ妹の言葉が、ルルーシュの心を抉る。
「お兄様。ゼロは、特区に参加すると思いますか。」
「さあ……どうだろう………」
「これだけ多くの方が受け入れているのですもの。お姉様の想いを、ゼロが受け止めて下さればいいのですけれど……」
「───そうだね。
ナナリー。ナナリーは、特区に参加したいと思うかい?」
「…………お兄様は………?」
 問いに問いで返すナナリーに、ルルーシュは言葉をつまらせる。
「私は……お兄様と一緒に暮らせれば、それでいいです。」
 ナナリーの笑顔が、ルルーシュには切なく映るのだった………

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