a captive of prince 第13章:学園祭宣言 - 2/6

「さあ。そしてこの巨大ピザ作りに挑戦するのは……エリア副総督補佐を務めるスザク・エル・ブリタニア殿下!」
 集まった観客の声援に、手を振って応える。
「先日お忍びで来校されたおり、お願いしたところ快く引き受けて下さいました。この気さくなお人柄に、役員一同感謝感激です。」
 歯切れのいいリヴァルのトークに、歓声がさらに大きくなった。
 打ち合わせ通り生地を延ばしていく。順調な作業に、スザクは悦に入っていた。
 古い機体だが、思った以上にスムーズに動く……よほど丁寧に整備されてきたのだろう。
 政庁に戻ったら、ダールトンに整備の重要性の訓示を頼もう。
 そんな事を考えていたスザクの楽しい時間は、悲鳴にも似た歓声と、それから起こったパニックに打ち砕かれた。
「ユーフェミア様よっ!」
「どこっどこっ!?」
「キャー。本物よぉ!」
 女生徒の黄色い声が上がり、会場内が騒然となる。
 来場者が群衆となって、一カ所に押し寄せていた。
 クラブハウス前のテラスに、SPに守られながらおろおろしている少女の姿があった。側には、自分の部下に当たる女性もいる。
 スザクのインカムに、SPから連絡が入った。
『ユーフェミア様が、お忍びで来場されていたようです。』
「こっちはいいから、彼女を避難させてくれ……っ。パニックになる。」
『イエス ユア ハイネス。』
 その頃にはピザ作りを観ていた人々も、彼女に向って動き出していた。
 もう、ピザどころではない、スザクもユーフェミア救出に動くしかなかった。
 巨大なピザ生地が風に乗って、校内に生えている針葉樹に引っかかった。
 校舎の屋上では、学生服姿の魔女が落胆の声を漏らしていた。

「ユフィ。」
 ナイトメアで掬い上げた少女が、安堵の表情で見上げてくる。
「ありがとう。スザク。助かりました。」
 何故、ここへと尋ねる間もなく、取材に来ていた報道関係者がマイクを向け質問を浴びせかける。
 ユーフェミアは、エリア全土への中継を要求した。
「ユーフェミア。一体何を?」
 スザクは、悪い予感がしていた。
 往々にして、彼女は直感のみで突き進む事が多い。
 そして、自分に与えられた肩書きの重さをあまり深く考えていない傾向がある。
「待つんだ。ユーフェミア!」
 それはまだ公表すべき時ではない。
 スザクの静止に、彼女は振り返ると笑顔を見せた。
 大丈夫です。
 何の裏付けもない自信に満ちあふれたそれに、息を呑む。
 スザクは目を伏せると肩を落とした。駄目だ。止められない。
「私、エリア副総督ユーフェミア・リ・ブリタニアは、フジ山周辺に行政特区日本を設立する事を、ここに宣言します。」
 ユフィ…ユフィ……それはまだ、公表できる状態じゃない。
 ガニメデの操縦席で、スザクは頭を振った。
 そんなスザクをさらに愕然とさせる言葉を、ユーフェミアが言い出したのだ。
「ゼロ!貴方の過去もその仮面の下も私は問いません。
ですから、貴方も行政特区日本に参加して下さい……」
「ユフィ!!」
 その呼びかけはもはや悲鳴だった。
 テレビカメラの前で満足そうに微笑む彼女を、成す術も無く見つめる。
 ルルーシュ……これで皆一緒に……そう。昔のように………
 ユーフェミアは、また昔のような幸せな時が戻ってくる事を信じて疑わなかった。
 操縦席のスザクと、カメラから身を隠したルルーシュは、焦りと憎悪を抱え同じ事を思っていた。

──もう、あの頃には戻れない……昔とは違うんだ。昔とはっ!───

 同じ頃、政庁のコーネリアも怒りに打ち震えていた。
 これは一体何とした事だ!私は何も聞いていない。
 ユーフェミアの単なる思いつきか……いや、報道を使って堂々と言う以上、話がどこかに通っているのだろう。
 統治責任者であるコーネリアの与り知らぬうちに、行政特区などという政治的案件が通るとは……しかも、フジ一帯はエリア内でも特殊な地域……サクラダイトの採掘プラントがあるため、半天領扱いとなっている。
「シュナイゼル兄上……!貴方が許したのですか。」
 一体何故……!?
 行政特区の事だけではない、コーネリアの怒りを強くしているのは、ユーフェミアがエリア内でも最大を誇る反抗勢力の首藤に参加を呼びかけている事だ。
「何を考えている!ユーフェミアっ!!」
 無邪気な少女の行動が、波乱を起こそうとしていた。

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