「ゼロの……正体……」
自分の言葉を反覆するスザクに、ユーフェミアは真剣な顔で頷く。
「はやり……神根島で素顔を見たんだね。何故、そのことを言わなかったの？
あいつはクロヴィス兄さんの仇で、ナリタでは多くのブリタニア人やナンバーズを殺した重罪人なんだよ。」
「ええ。ゼロの犯した罪は重いです。
ですが、裁かれるべきは彼の罪であって、その仮面の下は問題ないのでは……？」
「ユフィ……？」
スザクは首をひねった。確かにユーフェミアの言う事は正しい。
憎むべきはその罪であって、その罪を犯した人物を恨むべきではないのだろう。
だが、そんな性善説を自分の身内を殺した相手に、何故……
スザクには理解できなかった。
「仮面の下を知って何故、奴をかばうような事を……」
まさか………
神名島で頭をよぎった事が、蘇る。
馬鹿な。そんな事が……あるはずがない………
スザクの表情から、彼もある人物を想像している事を悟ったユーフェミアは、小さく頷いてから口を開く。
「言えなかったのです。その人が、私にとって大切な人だったから……
スザク、貴方にとってもそうでしょう……？」
「う…嘘だ。彼が……彼がゼロだなんて……
だって…だってクロヴィス兄さんを、彼が殺すなんて……そんなことが……」
あっていいはずがない！！
「でも、本当なの。カワグチ湖で話をした時、薄々そうじゃないかと思ったわ……神根島で会った時に確信して、名前を呼んだの。そうしたら、仮面を外してくれた……やっぱり私の思った人の顔だった。」
ユーフェミアが話している間、スザクは俯いていた。彼女の口から、その名が出る事が怖くて……
「───スザク……ルルーシュだった……ゼロは、ルルーシュなのよ……」
スザクは、びくりと肩を振るわせた。
ああ。やはりそうなのか……7年前僕に聞かせたあの想いを、君はずっと抱えて……ついに、実現してしまったんだね………
───君に、そんな事はさせたくなかった……！───
スザクの頬を、瞳から溢れた水が伝う。唇まで伝ってきたそれは、とても塩辛かった。
「スザク……」
ユーフェミアの呼びかけに顔をあげれば、彼女も泣いていた。
「スザク…私は、ルルーシュを助けたい……助けたいの……」
だから、力を貸して。
ユーフェミアが提示した“行政特区”を聞いたとき、思わず鼻で笑ってしまった。
理想を語る彼女は、スザクの様子には気づかないまま語り続けている。
そんなものは夢物語だ。上手くいくはずがない。
現実を知らない。城の中で大事に守られて、美しいもの優しいものばかりを見せられ、汚く厳しいものから遠ざけられて育ったユーフェミアだからこそ描ける夢だ。
第一、本国がそれを許すはずがない。国是を否定する発想、主義者と見なされても仕方のない内容だ。
ユフィの理想は、あまりにキレイすぎる。
だが……と、スザクはユーフェミアを見た。
自分やコーネリアと違って、彼女は武器を取って闘った事はない。
公務と言えば、セレモニーのプレセンターや慈善事業の慰問など……ナンバーズの中には、ユーフェミアに対し好意的な者も少なくない。
できる……かもしれない……
鞭で打たれ続けるような政策を打ち出してきた政庁が一変して、日本に歩み寄る政策をユーフェミア主導で始めたら……
「───日本人の支持を得られるかもしれない。」
「そう思いますか!?」
ひとりごとに反応したユーフェミアが、嬉しそうに尋ねる。
「ああ。そうなれば………」
反抗勢力は、牙の向けどころが無くなる。
ユフィ……君はどこまでも自分の理想を貫こうとするんだね。
その強さに、僕はいつも気圧される。でも……
「ゼロが、この特区に参加するとは思えない。」
君は、どうやって彼を引き入れるつもりなの？
スザクは、自分の前の紅茶を口に含んだ。
冷めてしまった紅茶は、少し渋くなっていた。
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