a captive of prince 第13章:学園祭宣言 - 5/6

 部屋のドアがノックされ、カノンがシュナイゼルに来客を伝えた。
「コーネリアかな。」
「はい。」
 カノンが恭しく頭を下げ壁際に寄ると、コーネリアがギルフォードと共に入ってくる。
 その表情は厳しく、眉間の皺が美しい顔を台無しにしていた。
「兄上!」
「私も、スザクから事情を聞いて困っていたところなんだよ。
君に話を通さず、私のところへ持ってきたらしい。もちろん、スザクにもだ。」
「そうでしたか。」
 コーネリアは、スザクを一瞥するとため息と共にソファに座った。
「すまなかったね。てっきり君の承諾を得ているものと思って、敢えて、あの子に確認しなかったのだよ。」
「兄上に気苦労をおかけして、申し訳ありません。」
「しかし、既に公表されてしまった。今更撤回はできないだろう。」
「はあ……」
 コーネリアは困り果てた様子で頷くと、スザクに話しかける。
「スザク。お前はこの行政特区の共同提案者だそうだな。
お前もユフィと同じ考えなのか?ゼロを…黒の騎士団も参加させると……?」
「いいえ。僕の考えは違います。その事を彼女ともっと話し合ってからと思っていたのですが……」
「あの子が先走ったのか……」
「姉上。僕の考えを聞いて頂けますか。」
 スザクは、シュナイゼルに話した事を姉に説明した。
 コーネリアは、相変わらず厳しい顔は崩さず、黙って聞いていた。
 全て聞き終えると嘆息する。
「テロリストの動きを封じるための施策として考えていたのだな。」
「行政特区の構想そのものは、ユフィの考えです。僕は、それを利用したテロ対策として提案するつもりでした。」
「つまり、ゼロを加えるつもりはないと……」
「ゼロなら、ブリタニア主導の“日本”など、まやかしだと批判するでしょう。」
「まやかし……かい?」
「ええ。澤崎の日本を否定し、自らの力で独立を果たすと宣言していましたから……」
「だが、あそこでユーフェミアはゼロの罪は問わないと言い放った。
彼女には、ゼロを参加させる秘策があるからこその、あの宣言なのではないかな。コウ?」
 シュナイゼルの問いに、コーネリアの表情は険しくなる。
「ユーフェミアは…あやつの罪を帳消しにするために、己の皇籍を捨てるというのです。」
「皇籍を…捨てる?」
 スザクとシュナイゼルは、言葉の意味が飲み込めず茫然とする。
「皇籍奉還特権を使って、ゼロを救うというのです。」
「なん……だって……?」
 シュナイゼルが声を詰まらせ、スザクは雷にうたれたかのように席を立ち上がった。
 皇籍奉還特権……通常は、罪を犯した皇族が、その罪を免じられる代わりに自らの皇籍を失うという、皇族だけに許される贖罪の方法であり、罰であるとともに特権である。
 それを自分のためではなく、ゼロ…ルルーシュのために使うと言うのか。
 なんて…なんて強いんだ……!君は………
 皇籍奉還……スザクがしたくてもできない事を、彼女はあっさりとしてしまう。その強さが、スザクには羨ましかった。
「スザク。」
 コーネリアが、疲れた声で名を呼ぶ。スザクは、のろのろとその顔を見た。
「ユフィに、思いとどまるように説得してくれぬか。私では止められないのだ……頼む……」
「姉上……姉上が止められないことを僕が言ったところで……」
「私では、互いに意地を張り合って埒があかないのだ。
ユフィの案に賛成したお前の言葉なら聞くかもしれん。」
 コーネリアは、重ねて、頼むと頭を下げた。
「──努力はしてみます。ですが…1度こうと決めたらテコでも動かないのがユフィです。
僕が説得できるかどうか……あまり期待しないでいて下さい。」
「──ああ。」
「ユフィが、本国に皇籍奉還の願い出を提出してしまっていたなら、枢密院に掛け合って、行政特区にゼロが参加した時のみとしたらどうだろう。」
「そ……そうですね。」
 シュナイゼルの提案に活路を見出したコーネリアは、安堵の表情を浮かべる。
 それを頃合いと見計らったスザクは、退出の意志を示した。
「兄上、姉上。お先に失礼してもよろしいでしょうか。……さすがに疲れました。」
「あ…ああ。」
「そうだね。文化祭に参加するはずが、こんな騒ぎになってしまったんだ。
ゆっくり休んだらいい。」
「すまなかったな。」
「いいえ。姉上、どうかユフィの事を信じてあげて下さい。
皇族の地位をかけてでも、この施策を成功させたいと覚悟したのだと思います。決して、姉上をないがしろにするつもりはないのだと、僕は思います。」
「ああ……解っている。」
 コーネリアの静かな声に頷くと、スザクは兄の部屋を出た。

 ユフィの覚悟……無駄にするわけにはいかない。
 この行政特区を成功させるために、自分が出来る事は何か……
 思案にふけるスザクだった。

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