ニコニコと笑みを浮かべ、自分の手を握ったまま離さない友に、ルルーシュは困惑を隠せない。
ひとしきり泣いた後、ルルーシュの手を引いて、自分の座る3人がけのソファに並んで座ってからも、スザクはその手を離そうとしなかった。
「スザク…その…ルーベンの事は……」
咎めないで欲しいと目で訴えれば、それに応えるように大きく頷く。
「アッシュフォード老。感謝します。今までルルーシュの事を護って下さって……ルルーシュ、ナナリーも一緒だよね。」
「当然だろう。」
その答えに笑みを浮かべ、あふれる涙を拭った。
「本当にありがとうございます。……この学園は、2人のために?」
「当初の目的は仰る通りでございました。ですが、こうやって若者が勉学に勤しみ、共同生活を楽しみながら成長して行く姿を見る事が、私の生き甲斐になっております。
ルルーシュ殿下もナナリー殿下も、彼らと共に健やかに逞しく成長され、おふたりの将来を楽しみにしておるのですよ。」
朗らかに声を上げて笑う老人に、ルルーシュもスザクとともに笑みを漏らす。
そこに、ミレイに連れられたナナリーが入ってきた。
別れた頃そのままに、両の目は固く閉ざされ足も車いす無しには移動できない様子ではあるが、妹のような存在である彼女の、女性へと成長した姿に目を細める。
黙って見守る彼らに、ナナリーは部屋の空気や雰囲気から奥に人の気配があると、顔を彼らの方に向けた。
「おじいさま。ナナリー様をお連れしました。」
「アッシュフォード老。お久しぶりです。お客様がお見えのようですけれど、私もご一緒してよろしいのですか。」
ミレイが声をかけた方に顔を向け、微笑むと小さく首を傾げる。
「はい。ナナリー様にお客様です。」
「私に……?」
「ナナリー。」
怪訝な表情を浮かべていたナナリーであったが、ルルーシュの声を聞くと、ほっと明るくなる。
「お兄様。お兄様もいらっしゃったのですね。では、お客様というのは私達に関わりのある方なのですか?」
「ああ、そうだよ。」
妹の前に膝をついて彼女の手を握ると、優しく話しかける。
そして口元に指を持ってきて合図をすると、スザクを手招きする。
スザクはナナリーの前に立つと、ルルーシュのように膝をついてナナリーの手の上に自分の手を重ねた。
兄とは別の手が重ねられた事に、びくりと肩を振るわせたナナリーではあったが、次第に、その伏せられた両の目からポロポロと雫を落とす。
「───スザクさん……?スザクさんですね。」
「ああ。そうだよナナリー。久しぶりだね……ずっと、君たちの事を思っていたよ。」
「私…私達もです。ずっとずっとスザクさんの事が気がかりでした。
でも…本当に良かった。お互いに生きてこうして巡り会えて……」
「うん。僕も2人に再会できて本当に嬉しい。」
ナナリーの涙を指で拭ってやる。すると、嬉しそうに笑みを見せるのだった。
ルーベンとミレイは部屋を辞し、ナナリーを挟んで3人で座る。
ナナリーの両の手は実の兄と幼なじみの兄がそれぞれ握っていた。
「本当に、スザクさんがブリタニアにいらっしゃると知って驚きました。
あら。スザクお兄様とお呼びした方がいいのかしら。」
「ナナリーに“お兄様”なんて呼ばれたら照れるな。」
ナナリーと顔を見合わせて笑うスザクに、ルルーシュが問う。
「スザク……俺達と別れた後、一体何があったんだ?
何故、お前がブリタニアの皇族に……」
その問いかけに、スザクは姿勢を正して2人に向き合う。
「うん……あの日、僕は迎えに来た軍の人と一緒に、キョウトにある枢木本家に向うはずだった。でも、途中から行き先が変わった……」
シズオカを出て中継点であるナゴヤを過ぎると、方向をホクリクに向けた運転手にスザクは声をかけた。
「キョウトに行くんじゃないんですか?」
「キョウトには行けない。行けば、君はブリタニアに売られてしまう。」
「売られる──?」
信じられない言葉を反覆する。
「枢木本家が、ブリタニア統治軍と取引をした……」
「僕を渡すかわりに、財閥の解体を見送るように頼んだんですね。」
あまりにも的確な言葉に周りの大人が絶句するのに、苦笑する。
「桐原のおじいさんが言っていたんです。本家では僕の扱いに困っているはずだって……そうする事も考えられるって……
僕は、それでもいいんです。僕の命が誰かの役に立つなら……」
そう微笑むスザクに、軍人らは声を荒げる。
「何を言っている!そうさせないために藤堂中佐や我々が動いているのだ。」
「君には将来、ブリタニアに対抗するための旗印になって貰わねばならない。
それが、自刃された父上の供養だ。君の務めだ!」
父の事に言及され、スザクは黙して俯いた。
その時だった、行く手をブリタニアのナイトメアが塞ぎ、情け容赦のない砲撃に軍用車が吹き飛ばされ、スザクは車内に放り出された。
「頭を護れっ。そこから動くなよっ!」
同乗の軍人の命令に従って、倒れた状態のまま頭を抱え息を詰める。
軍人は車外へと飛び出して行き、激しい攻撃音が辺りに響き渡った。
ややあって攻撃は止み、スザクは車外へと引きずり出されたのだった。
「ブリタニアに捕まった僕は、統治本部へ連れて行かれ、そのまま本国に渡ったんだ。そこで……皇帝陛下に謁見した。」
「あいつの前に、出されたのか……」
「そもそも陛下が僕を連れてくるように望まれたそうだよ。」
「あいつが、スザクを欲した……?何故だ。」
自分の血を分けた息子と娘を捨て駒にしながら、支配地の子供を欲した。
皇帝の理解できない行動に、ルルーシュの声は硬くなる。
ルルーシュの態度に、スザクの表情も難しいものになっていた。
「僕を養子にする理由をもっともらしく言っていたけれど、その真の理由は誰にも分からない。ただ言える事は、陛下はただの気まぐれではなく、はっきりとした目的あって、僕をブリタニアに取り込んだのは確かだ。」
硬い声で答えるスザクに、ルルーシュも考え込む。
「どんな目的があるにせよ。私は、スザクさんが私達の兄弟になられた事が、とても嬉しいです。」
ナナリーの明るい声に、重くなりかけた部屋の空気が変わると、2人の頬も緩む。
「ああ。そうだねナナリー。スザクと兄弟か……」
「そうすると、この中では僕が1番のお兄さんだね。ルルーシュとは同い年だけど、僕の方が早く生まれたんだから。」
「──スザクが兄上とは……なんだか、腹が立つな。」
「ルルーシュ。酷いよ!」
3人は声を上げて笑い合った。
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