a captive of prince 第11章:再会 - 7/7

「ナイトメアで、巨大ピザ作り?」
「去年もこの企画にチャレンジしたんですけど、操縦者に恵まれなくて……」
 学園祭の目玉イベントに興味津々のスザクに、ミレイは我が意を得たりと目を輝かせて隣のルルーシュを見やる。
 その視線に、“恵まれない操縦者”であるルルーシュは顔をしかめる。
「殿下。どうせなら、祭りに参加なさいませんか?」
 猫の目で皇子を誘う会長に、メンバー全員がフリーズする。
「───その、巨大ピザを僕が作る……ということですか?」
 突然の申し出に、目を瞬かせながらミレイの意図を確認すれば、彼女の笑みはますます深くなる。
「さすが殿下!仰る通りです。
特別参加という事で、1日だけでも学生気分を味わうというのもいいんじゃありません?」
「かっかいちょーっ!?_」
「なっ何を言っているんですか!皇族の方なんですよっ。見学にいらっしゃるだけでも大変なのに、ピザ作りなんてっ!」
「ああら。ただ見るだけではなく参加してこその学園祭じゃない。」
 リヴァルとルルーシュが窘めるものの、彼女の耳には馬耳東風。右から左へ通り抜けてしまう。
 3人のやり取りを唖然と見ていたスザクが、フッと笑みを浮かべた。
「いいですよ。文化祭の視察だけでなく、参加もできるとは思わなかったな。」
 嬉しそうに言う皇子に、生徒会役員が再び凍る。
「で……殿下?」
「そんな簡単に……警備の問題とか色々あるでしょう」
 ルルーシュのツッコミに、スザクは今気がついたという顔をしてみせる。
「ああ。そうですね。じゃあ、担当者に確認してみます。」
 そう言って携帯端末を出すと、誰かと話し始めた。
 ミレイを除く全員が、事の成り行きに唖然としている。
「こ……皇族って、みんなこんな感じなのか?」
 こそこそとリヴァルがルルーシュに耳打ちする。
「まさか。」
 間髪入れぬ否定に、リヴァルも頷く。
「生まれが違うからかな……スザク殿下って、なんか天然ぽくないか?」
「私もそう思う。」
 リヴァルの意見にシャーリーも同意する。
「あまりそういう事言うと、不敬罪になるんじゃないかな……」
 ニーナの指摘に、2人が慌てて口をつぐむ。
 彼らが見守る中、スザクと警備担当者の会話は続いている。
「どのみち僕が行く事で警備が入るのだから、予定が1つ増えても大差ないだろう。
大丈夫だよ、僕はナイトメアに乗っているんだから。だからって、警備にナイトメアを持ち込んだりしないでくれよ。
うん……よろしく頼むよ、レナード」
 ややあって、スザクは晴れ晴れとした顔を彼らに向ける。
「話はつきました。ピザ作り請け負いますよ。」
「ほ……ほんとに……?」
 あまりの事にルルーシュ達は二の句がつけない。
「やった。そうこなくちゃ!」
 ミレイだけが、喜色満面でガッツポーズをしている。
「ところで、肝心のナイトメアはどこから調達するんですか?」
「ナイトメアならこの学園にあるんです。凄い旧式だけど。」
 楽しそうに話すミレイに、思い当たる事のあるスザクはすぐに納得の表情を浮かべる。
「ガニメデ……ですね。」
 ミレイはにっこりと頷いた。

 スザクが、ミレイとルルーシュからピザ作りについてレクチャーを受けている最中、突然ドアが開き黒ずくめの男が入って来た。
「失礼します。」
 学生には目もくれず、男は真直ぐにスザクの元にやってくる。
 その様子に、ただ事ではない事を察し室内に緊張が走った。
 男が耳元で何かを伝えると、スザクの表情も強ばる。
 だが、それも一瞬の事で、席を立ち上がったスザクの表情は、穏やかだった。
「申し訳ない。政庁に戻らなければならなくなりました。」
「そうですか。残念ですけど仕方ありませんわね。
細かい打ち合わせや確認は……ルルーシュ、貴方が窓口になってくれる?」
「…はい。分かりました。……政庁の秘書の方を通す方法でよろしいですか?」
「それでは、連絡を取り合うのに時間がかかるな。」
 そう言って、スザクは懐から名刺サイズの紙を出した。
「直接話した方が早い……僕の直通の番号です。」
「───頂いてよろしいのですか。」
「君を信じて渡します。くれぐれも口外したり、他人に見せたりしないように。」
「イエス ユア ハイネス。」
 ルルーシュが頷くと、スザクは顔を近づけ耳打ちする。
「特務部に内密で手に入れた番号だ。盗聴の心配は無い。
いつでもかけてきて……」
 反射的にスザクを見れば、優しく微笑む。
 次の瞬間には、厳しい顔でSPを従えて出て行った。
 慌ただしく去って行くスザクの背中を、生徒会メンバーと共に見送りながら、ルルーシュは手の中の紙をそっと撫でた。

「ルルーシュとナナリーの事は、まだ、誰にも言わないでおくよ。」
「いいのか?」
「7年あそこで生きて来てよく分かった。
ルルーシュが何に怯え、何からナナリーを護ろうとしていたのか……生存を今まで秘密にして来た理由だよね。
残念ながら、今のブリタニアでは2人が帰国しても安全に暮らせるとは思えない。それよりも……ここで生活していた方がまだ安全だ。」
「しかし、それもいつまでか。ルーベンやミレイでも保証できないだろう。」
 ルルーシュの皮肉げな笑みに、スザクも厳しい顔で頷く。
「状況を見て、良い方策がないか考えてみるよ。
ただ、これだけは忘れないで……君たちの味方はちゃんといるから。」

 理事長室でのスザクとの会話を思いだす。
「良かったじゃないか。全ての兄弟から見捨てられたのではないと分かって。」
 黒の騎士団のアジトであるトレーラーのゼロの私室で、ベッドに寝転んでピザを食べる魔女を、ルルーシュは一瞥する。
「それが分かったところで、状況は何も変わらない。この7年間何の手も差し伸べられなかったのは事実だ。
あいつが皇帝でいる限りは……いや、ブリタニアという国が存在し続ける限り、何も……」
「だから、ブリタニアを壊す……か。」
「ああ……ナナリーとスザクのために……」
「スザクのため……か?お前にとって最大の障害だろう。あの男は。
折角かけたギアスも、ブリタニアから離反しろではなく『生きろ』とは……お前は、頭がいいのか悪いのかよくわからん奴だな。」
「スザクが、敵として立ち向かってくるのならそれでいいさ。
叩きのめして捕らえればいい。それが、結果としてあいつを救う事になるのだから。」
「救いか……奴がそれを望んでいれば…な。」
「一体何が言いたい!」
 思わせぶりなC.C.の言葉に、ルルーシュは声を荒げる。
「べつに……ただ、お前の考えの中に、ナナリーやスザクの意思が反映されているのか疑問に思っただけだ。」
「ナナリーとスザクの意思……」
 怪しく笑う魔女と、手の中の名刺に視線を泳がせる。
 2人の思いがどこにあるのか……少なくとも、ナナリーは自分と同じ思いのはずだと、信じている。

ドアが、ノックされた。
「誰だ。」
「ディートハルトです。全員集まってゼロをお待ちしています。」
「解った。今行く。」
 返事をすると、ルルーシュは仮面を被った。
「次の手を打つのか。」
「ああ。これで、ブリタニア打倒の基盤を作る。」
 呟くように答えて出て行く共犯者の背中に小さく息を吐くと、C.C.は後に続いた。

 スザクとの再会も、彼の告白も、時代のうねりの中ではただ飲み込まれて行くだけだったかと、目を伏せるC.C.だった。

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