Inpatient - 1/4

「ざ~んねんでしたぁ~。」
記憶を失いスザクに執着したギアスを使うコード保持者、ライことライール・ドゥ・ブリタニアに誘拐監禁されていたスザクを救出してから3日後の事。
蓬莱島にある黒の騎士団本部内メディカルセンターの彼の病室を訪れたロイド・アスプルンド医師が、開口一番でこうのたまった。
飄々と立つ彼に、ベッドの上のスザクはキョトンとし、傍らにぴったりと寄り添うように座るルルーシュは、巣を荒らす外敵のようにロイドを睨みつける。
「スザク君。君の退院長引くよぉ。」
「どういう事だ。ロイド。」
皇帝の頃と変わらない口調でルルーシュが問うと、ごまをするような仕草で腰を屈める。
「スザク君、ゼロ辞めてから健康診断とか受けていないでしょ。
だから、今回の事で運び込まれたついでに、ちょーっと検査させてもらったんだよねえ。」
ロイドの指摘に目を彷徨わせるスザクを一瞥し、ルルーシュはロイドに視線を戻す。
「何か問題があったのか。」
「問題…と言うか、彼が元々抱えていた病気なんですけれどね。
血液検査で引っかかったよ。胃が荒れてるんじゃない?
精密検査するから、胃カメラ呑んでね。」
「うぇっ。またですか?」
「しょうがないでしょ。菌が見つかったんだから。」
「……除菌…もするんですか?」
「場合によってはね。それから……まあた、不整脈出てたよ。
まあ、こっちは事件に巻き込まれて負担になったんだろうけど……
24時間モニターするから、計器つけさせてね。」
ロイドの言葉を合図に看護士が入ってくると、スザクに計測器を取り付ける作業を始める。
その様子を見ながら、ルルーシュはロイドに尋ねた。
「どういう事だ?スザクは循環器系の病気なのか。」
「いーえ。いまのこところは……
でも、体を大事に生きて来なかったからねえ。彼は……
何しろ、死に場所を求めて軍隊に入ったみたいなところがあるから……
ナイトオブラウンズの頃からその傾向はあったけど、ゼロレクイエムの後…ゼロになってからメディカルチェックで必ず引っかかるんだよね。胃炎と不整脈……」
「───“ゼロ”が負担になっていたのか………」
「負担というよりは、必死だったんだと思いますよ。
陛下が託したものを守ろうとして……本当に、いつ食事して、眠っているのか判らない生活してたから。まあ。不摂生については、僕も人の事言えないけど。……おかげで体ボロボロ……
セシル君が、泣いて頼んでゼロを休ませた事もあったなあ。
胃に穴開けて、血ぃ吐いた時です。」
ロイドの告白に、ルルーシュは唇を噛み締める。
「ゼロ引退して、もう10ヶ月でしょう。なーにしてたんですぅ?
それとも、今回の事件が相当な負担だったのかな。」
横目で眺めてくるロイドに、ルルーシュはただ黙って見守る事しかできなかった。

「スザク。すまなかった。」
その夜、スザクのベッドの隣に簡易ベッドを並べて横になると、ルルーシュはそう伝えた。
スザクがここに運び込まれた夜から、こうしてスザクの隣で寝ている。
というのも、入院当日、黒の騎士団の用意した部屋で休むはずだったが、不安そうに見送るスザクが放っておけず、ベッドを並べる事を希望したからだ。
この施設の責任者であるラクシャータも、その方がスザクのためにもいいだろうと勧めてくれた。
「事件に、被害者の性差はないから。むしろ男性なだけに、彼が受けた精神的ダメージのケアを厚くしなくちゃいけないと考えているの。
不安がるようなら、同じベッドで添い寝位してあげてもいいんじゃない?」
並べたベッドで手をつなぎながら謝るルルーシュを、スザクは不思議そうな顔で見つめる。
「ルルーシュ?」
「お前を“ゼロ”にしたために、体を壊させた……オレの考えが甘かったんだ。」
スザクは首を振る。
「ルルーシュのせいじゃない。体を壊したのは、体調管理できない僕が悪いんだ。以前セシルさんに、もの凄く怒られたよ。
ルルーシュとの約束を守りたいのなら、それと同じ位自分も大切にしなければ、護りたいものも護れなくなるって……」
「胃潰瘍で吐血したんだって?」
「うん。その時にね、言われたんだ……さすがに反省した。」
ばつの悪そうに笑う。
「あの時は、ギアスじゃなく本心から死にたくない、まだ死ねないって思った。だから、あれ以来ちゃんと健康には気を使ってきたんだよ。」
「今回の事は、病気が再発するほどのストレスだったんだな……」
「きっと、ルルーシュの言う通り独り善がりで抱えちゃってたんだよ。ルルーシュと今の世界は僕が護らなきゃいけないって……
だから、また体が悲鳴上げちゃったんだ。
ルルーシュ。心配かけてごめんね。」
「馬鹿。辛い思いをしたのはお前なんだから、俺に謝るな。」
そう言って、手の中のスザクの指に口づける。スザクが小さく震えた。
「お前を取り戻せて良かった。本当は、もっと早く助け出したかった……」
すまなそうに言うルルーシュに、スザクは首を振る。
「ルルーシュが助けにきてくれるって……ずっと信じてた。」
はにかむような笑顔を見せるスザクに、愛しさが増す
「おやすみ……」
小さく笑い返して、灯りを消した。

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