Inpatient - 4/4

「おめでと~。胃も心臓も検査の結果悪い所見無し。経過観察になったよ。」
病室を訪れたロイドの言葉に、2人はほっと安堵する。
「それじゃあ。もう退院しても構わないのか。」
「そうですね。暴行で受けた傷も治ってきているし、感染症の心配もなかった訳だから……退院しても大丈夫でしょ。」
主治医のロイドの許可に、ルルーシュはある決意の元ラクシャータを尋ねた。
「日本へ……?」
「ああ。あいつ、ずっと帰っていないんだろう?」
「そおねえ。ゼロの活動基盤はブリタニアかこの黒の騎士団本部のある蓬莱島だし……彼、仮面取る事無かったから……」
「しばらく、向こうで過ごそうと思うのだが……」
「うーん。生まれ故郷で転地療養……悪くないけど……
でも、彼の場合、トラウマの多い場所でしょ。大丈夫?」
「それも含めて、向き合おうと思う。」
真直ぐに自分を見て話すルルーシュに、ラクシャータは独特の笑みを浮かべる。
「ふーん。………いいんじゃない?
ただし。彼の体調には、細心の注意を払ってちょうだいね。
無理や我慢はさせないように。穏やかで健康的な生活を心がけてね。」
釘を刺す彼女に、ルルーシュの顔が引きつる。
「───ああ……できるだけ努力するよ………」

スザクが退院するその日、見送る人々の中にコーネリアの姿があった。
「その……見舞いに行けず申し訳なかった。」
「そんな…気に掛けて頂けただけで……わざわざ見送りにきて下さってありがとうございます。」
「いや……気にはなっていたのだが……何と声をかけていいのか解らなくてな……元気になって良かった。」
「姉上が届けて下さったフルーツは、喜んで食べてましたよ。」
「そうか。」
よほど気にしていたらしく、スザクとルルーシュの言葉に安堵の笑みを漏らすコーネリアに、厳しい表情の彼女しか知らない者達は、驚いて見つめる。
それを不審がるコーネリアであったが、いつも見慣れている表情で弟とその恋人を見据えた。
「今回の事で、お前達に言っておきたい事がある。
なんでも2人だけで解決しようとするな。困った事があれば、いつでも相談しにこい。」
「姉上……」
「5年前、お前達を追いつめた私が言う事ではないが、だが……もうあの頃とは違うんだ。困っている弟の手助けぐらいしたいじゃないか。
ストーカーの事を相談してくれていれば……と、少し情けなかった。いや……相談しやすい関係を、私が築いて来なかったからだな。
すまなかった。」
頭を下げるコーネリアに、ルルーシュは驚愕し、スザクは慌てる。
この人物が、こんな風に人に頭を下げる姿も初めて見た。
唖然とする一同を他所に、コーネリアはルルーシュとスザクを抱き寄せる。
「辛い思いをさせたな……」
「そんな……」
「姉上……こんなにも気に掛けて下さって、感謝します。」
「ルルーシュ。今度はお前がしっかり守ってやれ。枢木…弟の事、よろしく頼む。」
「「はい。」」

「カレン。この間は本当にありがとう。話を聞いてくれて……とても楽になれたんだ。」
「うん……よかった。」:
「それに、ルルーシュから聞いたんだけど……ライの事ボコボコにしたんだって?」
「そうよ、あんたじゃできなかったでしょ。
あの時あんたがそこにいたら、あいつの頭思い切り踏ませてあげれたんだけど……」
「僕そんな事しないよ。」
カレンの、どこか本気を思わせる冗談に、スザクは笑う。
「ルルーシュに繋がる人間だもんね。あんた、それだけで許しちゃうんだもん。」
「だってさ……ルルーシュと同じ遺伝子持っていると思うと……なんかね……」
「甘いんだから。あんたみたいに優しい人、見た事無いわ。」
「そんな事無いでしょ。すぐ側に、世界一優しい人間がいるじゃん。」
そう言ってルルーシュを見る。カレンも、彼を見て微笑んだ。
「本当だ。世界中の人のために死ねるなんて、あいつ以外誰もできないものね。」
「そんな人だから、僕が守るんだって、自分1人で気負ってたのかも……」
「そうね。あんたもそろそろ、人に頼って甘えて生きてもいいんじゃない?
あんたの事を助けたり支えたい人間は、ルルーシュ以外にもいるんだから。」
「あ……っ。」
スザクは、自分の前に立つ人々を見回した。
そんな彼の肩を、ルルーシュが抱いた。
「そろそろ行こうか。」
「うん。それじゃあ…皆さんお世話になりました。これからもよろしくお願いします。」
ぺこりと頭を下げ、ルルーシュと共にタクシーに乗り込むのを、皆は温かい目で見送った。
「これから日本だって……?」
ロイドが、隣のラクシャータに確認する。
「そうですって。ルルーシュ……彼と一生を共にする覚悟がついたみたいよ。」
「と…言う事は……婚前旅行…いや、ハネムーンかな。」
面白そうに言うロイドに、彼と同じ元科学者の医師も、楽しげな笑みを浮かべる。
彼らの会話に、カレンが目を輝かせた。
「これは……2人がブリタニアに帰ったら確認しなきゃ。ううん。いっそのこと……」
「……カレン……今考えている事…私も一口乗っていい……?」
ムフフ…と笑う彼女に、アーニャが無表情で尋ねる。
「もちろんでしょ!ナナリーや神楽耶様にも連絡しなきゃ。」

何やら楽しげな企てを露程も知らず、恋人達はその1人の故郷へと旅立って行った。

 

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