Honey moon - 1/19

新月

※R18文含む

体を押さえつけられ、無理矢理暴かれる。
大好きな人と同じ色の瞳が獰猛な輝きを放ち、のしかかってきた獣が体をねぶり歯をたてる。
「やっ……やだっ……!」
キモチワルイ……イタイ…イタイ……コワイ…コワイ…怖い怖い怖いっ!
「うっ……わあぁぁぁっ!」

隣の座席で眠っていた男性が突然悲鳴を上げた事で、 仕事で日本に向う途中だった女性ジャーナリストは、びっくりしてその人物を見た。
黄色人種だが髪の色は見事な栗色だ。少し青ざめた顔には汗がにじんでいる。本人はまだ、うなされ苦しそうな声を漏らしている。
「もし……?もしもし、大丈夫ですか?」
見るに見かねて声を掛け、肩を揺すれば、びくりと震え目を開けた。
「あっ……?」
「大丈夫ですか?大分うなされていましたよ。」
男は、突然起こされ焦点の定まらない目を彷徨わせていたが、横からかけられた声の方を見た。
若葉の緑色の瞳が、驚いたように彼女を見つめる。
「分かりますか?ここは日本に向う飛行機の中です。貴方は、眠っていて突然大きな声を出されたのですよ。」
彼女は、できるだけ穏やかにその青年に話しかけた。20代と思われるが、東洋人にありがちなベビーフェイスで、大きな瞳がティーンエイジャーに錯覚させる。その顔を正面から見た素直な感想は、「可愛い男の子」だ。
「あ……ああ。すみません。夢見が悪くて………」
「よほど酷い夢だったのですね。」
呼びかけに応える声が震えている事に、彼女は眉根を寄せる。
「え…ええ。」
彼女に応じながら、青年は自分の右隣の席に手を伸ばすが、その席は空いており、そのことに愕然とする。
「お連れの方?でしたら、さっき席を立たれて……お手洗いじゃないかしら。」
「そ…そうですか。」
安堵の笑みを浮かべるものの、声はまだ震えている。
「あの…本当に大丈夫ですか?C.A.を呼びましょうか。」
「お客様?いかがされましたか。」
彼女が気遣って声をかけたと同時に、青年の声を聞きつけてきたキャビンアテンダントがやって来る。
「この方がうなされて……今もまだ落ち着かない様子で……」
C.A.も、彼の顔を覗き込んで眉根を寄せた。
「お顔の色が優れませんね。どこかお体の具合でも……」
「いえ……夢見が悪かったせいで、動悸が収まらなくて……」
青年も、困ったように眉を下げる。
「どうした。」
3人で話しているところに、また新たな人物が現れる。
青年の隣席の人物が戻ってきたのだ。
黒の長髪を後ろで束ねた白皙の青年は、その長身をかがめて、茶髪の青年を覗き込む。
「お客様のお連れさまですか?動悸が収まらないようなのですが、何か持病でもお持ちでしょうか。」
C.A.の問いかけに、青年もそのモデルのような端正な顔を曇らせる。
「これといったものは……時々不整脈が出るようですが、薬を処方するほどでもないそうです。」
「そうですか……シートを倒して、楽な姿勢にしましょう。」
C.Aが、シートのレバーに手をかけようとしたとき、隣の席の彼女が声をかけてきた。
「あの。もしよろしければ、私の席と替わりましょうか。私の方が通路側ですから、中側の席より幾分開放感があるでしょう。」
「え……でも……」
「そうさせてもらったらどうだ。」
「では、お客様。お願いできますか?」
茶髪の青年は遠慮するものの、キャビンアテンダントと、彼の友人は彼女の厚意に感謝し、席を移動させた。
「今、ブランケットと冷水をお持ちします。」
そう言ってから彼の顔を見て、おしぼりもお持ちしますとC.A.は一旦去って行った。
具合の悪い青年の隣に黒髪の青年が座り、心配そうに話しかける。
「どうした……?悪い夢でも見たのか?」
「うん……ちょっと…思いだしちゃって……怖くて……」
「そうか……」
C.A.が青年にブランケットを掛け、冷水とおしぼりを友人に手渡す。
「また何かございましたら、お声がけ下さい。」
にこりと微笑んで、彼女は通常業務に戻って行った。
渡された冷水を飲み干し、青年はほっと息を吐くと、シートに沈んだ。
ブランケットの下では、彼と隣の青年の手がしっかりと握られている。
彼は、すり寄るような姿勢で目を閉じた。

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