スラムまで連行され、広口瓶の中に閉じこめられたエンヴィーは、自分を捕らえた人間たちを改めて見まわして毒づく。
「くっそ………一体どうなってる。
なんだこの面子は。クズどもが集まって陰でコソコソと……」
その時、彼らの中でひときわ大きなアルフォンスの側に、必ずいるはずの豆がいないことに気付いた。
「鋼のおチビさんはいないのか?」
その質問にアルフォンスは、ブリッグズにいるはずだと、きっぱりと答えた。
「……行方不明って聞いてるけど……
ここにいないのか。本当に?」
唖然として確認してくるエンヴィーに、アルフォンスとウインリィは驚きで顔を見合わせる。
「ちょっとそれ、詳しく!!兄さんはどこへ!?」
青天の霹靂とはまさにこの事で、ブリッグズのマイルズ少佐と共に砦に戻っているものと信じていた兄が行方不明であると、よもや人造人間から聞かされるとは。
アルフォンスは、動揺を抑えることができず、彼らしくない支離滅裂な質問を投げかけた。
「詳しくって……バズクールで坑道が崩れて、それから見つかってないって聞いてるよ。」
エンヴィー自身も彼が行方不明であるという報告を信用していなかった。だが、アルフォンスの動揺ぶりに真実であると理解し、内心焦りながら自分が聞いた事をそのまま伝える。
真面目に答える人造人間に、アルフォンスは茫然とした。
「行方不明………うそ………」
顔を青ざめさせ、上ずった声を漏らす幼馴染に、聞きだしたわずかばかりの情報を頭の中で反復していたアルフォンスは、はっとして彼女に声をかける。
「だっ…大丈夫だよ。
兄さんの事だもん。どこかで上手く生きのびてるよ。」
自分に言い聞かせるように言う。
大丈夫だ。きっと兄さんは大丈夫。
坑道が崩壊してそのまま行方不明という事は、崩落に巻き込まれた痕跡がないという事だ。きっとそうだ。
言葉に込められたアルフォンスの想いは、ウインリィにも伝わった。
「う……うん。そう……そうだよね……!!」
アルの前で自分が動揺していてはいけない、泣いちゃダメ。泣くのは嬉し泣きだけだって決めたじゃない。
今にも緩みそうな涙腺を必死に締め付け、ウインリィは頷く。動揺と不安でくしゃくしゃな自分の顔を、アルフォンスに見られないように、俯きながら。
動揺しながらも、2人は確信していた。
エドワードは必ず生きている───と。
慌ただしくスラムを離れ、これからのいく先を相談する中、傷の男はメイに国に帰るよう促した。
躊躇する彼女に、傷の男は半端な覚悟でこの国に来たのかと諫める。
一族の存亡を賭け、不老不死の方法をこの国の錬金術に求めて密入国してきたメイ。
傷の男とマルコーに関わるうち、アメストリスの危機を知り今日まで行動を共にしてきたが、彼女の本来の目的は未だ果たされていない。
「この国の事はこの国の人間で何とかする。」
傷の男の言葉に、否を唱えるアメストリス人はいなかった。
アルフォンスに縋り付き別れを惜しんだ後、エンヴィーの入った瓶を抱えて去る少女を見送った彼らは、改めて今後について話し合った。
「さっきから、ちょっと考えていたんだけど……
気になる街がある。」
「どこだ、そこは。」
「東部の砂漠の街、リオール。」
問いかけてくるザンパノにそう言って、アルフォンスは国土全域の地図を取り出すと指でその場所を示す。ブリッグズでエドワードが国土錬成陣を描き足したその地図上で、かの地は五角形の頂点の1つの位置にあった。
「ここに、きっと人造人間が掘ったトンネルがあるはずなんだ。」
そこを破壊したいというアルフォンスに、合成獣らは顔を見合わせる。
「錬成陣を崩すのか……」
マルコーが呟く。
「でも、それって連中の計画の要だろ?」
きっと守りが堅いはずで危険じゃないかと言うヨキに、小さく頷きながらもアルフォンスは言う。
「でも、あそこは奴らの計画通りに事が済んだ場所だから、反対に警備が手薄かもしれない。」
「錬成陣の完成を阻止するのが一番手っ取り早いな。」
トンネルを崩すくらいなら、自分達にもできると合成獣の2人はアルフォンスの提案に同意した。
「確かに成功すれば、計画を阻止できるかもしれないが……」
傷の男が頷きながらも否を唱える。
「もし、それがすでに完成してしまっていたら?」
傷の男の不吉な言葉に、アルフォンスは体を強張らせた。
「己れは、兄が残してくれたこの逆転の錬成陣を完成させるために動く。
そのためには、マルコー。貴様の力が必要だ。」
強い意志をたたえ揺るぎない傷の男の言葉に、マルコーは強く頷く。
アルフォンスと傷の男は、それぞれの目的のために別行動をすることにした。
「完成できたら、君たちに合流するよ。」
別れしな、マルコーはアルフォンスにそう約束した。
「傷の旦那。俺は、連れて行ってくれないんですか。」
ヨキが情けなく尋ねるが、彼はすげなくお前の好きにしろと言い残して去っていく。
ヨキは、二手に分かれ移動し始める彼らの間で右往左往していたが、意を決してアルフォンスらの後を追った。
「錬金術の事はわかねえが、トンネルを崩すっていうなら、元炭鉱経営者の俺様の知識がいるだろ!」
恩着せがましく言って付いてくる彼に、一同は肩をすくめる。
「頭や口だけじゃなく、身体も動かせよ。」
突っ込むジェルソにやかましいと喚く元炭鉱経営者も引き連れ、アルフォンスらは賑やかに東へと向かうのだった。
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