真理の扉からアルの身体を持ってきちゃった 8 - 2/6

バズクール旧市街に設置した対策本部のテントで、ブリッグズ砦・少佐のマイルズは深く嘆息を漏らす。
目の前で起こった立坑の大崩壊。
北軍やブリッグズ兵の被害はないが、中央からやってきたキンブリーとその部下そして、彼らと相対していた鋼の錬金術師エドワード・エルリックの捜索は難航していた。
あれからもう十日も経つというのに、4人を発見することができていない。崩落現場に残された大量の血痕から察するに、彼らのうち誰か、もしくは複数人は負傷を負っているはずなのだが……
坑道を利用して脱出した傷の男たちは、アスベックにあるスラムにいると、アルフォンスに託した極秘回線番号に連絡が入った。
彼らについては、このまま連絡を取り合っていれば、中央に出向いている女王様の命令を守ることはできる。
問題なのは、中央の指示で動いている彼らの所在がつかめないこの状況だ。
マイルズは、また一つ嘆息を漏らすと、部下に指示を出す。
「仕方ない。撤収だ。十日間捜索して、中央への義理は果たした。
『行方不明』という事で報告するしかないだろう。」
「しかし、キンブリーはともかくエドワード君は……」
困惑した表情で問いかけてくる部下に、マイルズは小さく頷いた。
「あの現場に血痕はあったが、出血したまま移動した痕跡は見つけられなかった。
という事は、怪我をその場で治療し移動したと考えられる。」
「そんなことができるんですか。」
「エドワード・エルリックもゾルフ・J・キンブリーも国家錬金術師の資格を持つ人物だ。凡人の我々には想像もつかない事も、彼らならできるのかもしれん。」
「はあ……」
なおも不安げな部下の肩をポンと叩き、マイルズは小さく笑う。
「何の根拠もないがな。
彼なら、きっと無事でいると私は信じているのだよ。」
その確信に満ちた笑顔に、部下の顔もようやく明るくなった。
「………そうですね。」
そう微笑むと、彼は撤収の指示を伝えるためテントを出ていく。
「彼の無事を信じてはいるがな……」
小さく呟き、マイルズは蒼天を見上げる。
兄行方不明の報を、弟にどのように伝えるべきか頭を悩ませるマイルズであった。

マイルズらが砦に帰還後ほどなくして、ドラクマより開戦が宣言され、ブリッグズ砦は相手を全く寄せ付けない圧倒的な火力でそれを粉砕した。
これにより、ブリッグズにドラクマの兵士によって血の紋が刻まれた。

国土錬成陣が完成した───

 

傷の男の伝手つてでアスベックにあるスラムを訪れたアルフォンスらは、そこの住民に快く受け入れられ、馴染み始めていた。
マルコーは受け入れてもらった礼にと無償で病人や怪我人の治療を行い、他の者たちも、主に力仕事など自分達にできることを手伝っている。中でも、ヨキは何故か子供たちになつかれ、彼らの良い遊び相手になっている。
住民を手伝う傍ら、アルフォンスはメイに頼んで錬丹術を教授してもらっているのだが……教え方が下手なのか生徒が石頭なのか、彼女のいう事がさっぱり理解できないでいた。
今日も今日とて、借りたバラック小屋の中で少女と少年の怒号が飛び交っている。
その側を通りかかったウインリィは、眉尻を下げて苦笑する。
「アルもメイもすごい白熱してる……頑張ってるんだな。」
よし、私もっ!と、子供たちと一緒に使い終わった食器や鍋を洗いに行くのだった。
太陽が西の空に傾きかけた頃、近くの街へ食料を買い出しに行っていたザンパノが戻ってきた。
「ザンパノっ。てめーこの野郎!黙ってどこか行きやがってっ!!」
泥だらけで髪の毛はボサボサといった姿で自分をなじるヨキに、ザンパノは唖然としてジェルソに説明を求める。
「一日中子供の相手させられて、さんざん玩具おもちゃにされてたんだよ。」
その説明に、ザンパノは乾いた笑いを漏らす。
「そいつは難儀だったな。まあ。甘いものでも食べて元気出せ。」
そう言って、買ってきたチョコレートを投げ渡した。
酒か煙草をよこせと喚く不良中年を無視し、ザンパノは今日の診療を終えたばかりのマルコーの元を訪れた。
「ドクター。言われたとおり、中央セントラルに密告してきたぜ。」
その言葉に、穏やかな医師の目が鋭く光った。
「ああ。ありがとう。」
「これからこっちに来るって。
奴さん嬉々とした声で言ってたぜ。」
「───明後日には来るな。」
そう言いながらマルコーは空を仰いだ。
穏やかに晴れているが、風が微かに湿っている。
その事に、目を細める。
「仕掛けをする時間は十分ある。
メイちゃんに、話してくるよ。」
穏やかな笑顔に見えるその眼の奥に、微かに燃える焔を見つけ、ザンパノは表情を硬くする。
「俺たちも手伝うからな。」
「……ありがとう。
だが、これは私の償いで、けじめなんだ。」
「分かってるよ。
だが、無茶はするなよ。」
真顔の忠告に、初老の医師は優しく微笑むと、助力を頼むために少女の居る小屋へと向かうのだった。

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