ルースは、ブラッドレイ夫人の提案で、彼らともに昼食を食べていた。
丁度昼ご飯時、息子との会話も弾んでいることだし、どうせなら皆で食べましょうと、自分たちの分も用意させたのだ。
大総統夫人の突然の申し出に慌てるルースを他所に、てきぱきと準備は整い、同じ入院食を3人で食べている。
「すみません。付き合わせてしまって……病院の食事だから量も味も足りないんじゃない?」
食べ盛りで大総統の息子であるセリムには口に合わないだろうと眉を顰めると、彼はにっこり笑って首を振る。
「そんな事ありません。とても美味しいですよ。」
「そうね。こんな風に皆でおしゃべりしながら食べると楽しいし、美味しいわね。」
ニコニコと笑う夫人に、ルースの頬も緩む。
今日は天気も良く、窓から差し込む日差しが部屋の空気を温めてくれている。それ以上に、いつも一人でいる部屋に彼らがいることで、部屋全体が明るく感じる。
「はい。とても楽しくて、食事も美味しいです。」
柔らかで温かな日差しと、穏やかで人懐っこい親子。
のどかで優しい時間……
今まで味わった事のない過ごし方に、ルースは目を細める。
「ブラッドレイ夫人。誘ってくださってありがとうございます。
僕……世界がこんなに色や光に溢れて、暖かく優しいものだなんて知らなかった。」
ルースの告白に、ブラッドレイ夫人は痛ましげに眉を顰めると、次には微笑んで彼女の両手でルースの左手を包んだ。
「そうよ。世界は本当に光と優しさに満ち溢れているの。
人間は愚かだから、自ら闇や悲しみを作り出してしまうけれど……でも、それが全てではないと、いつか気付くわ。
だから、あなたも光や優しさの中でこれから生きてちょうだい。」
人造人間がでっち上げたルースの境遇を信じている彼女の励ましは、実際には的外れなものなのではあるが、その言葉は確かに思いやりと優しさに溢れていて、ルースの中にじんわりと沁みていく。
だから、彼は彼女の言葉に素直に満面の笑顔で応えるのだ。
「はい。」
そんな彼らを傍らで見守っている少年の笑顔が、実はとても冷ややかであることに2人は気が付かずにいた。
ホークアイからの暗号の最後の一文字を綴る。
書き留めていた紙に並んだ文字を斜線で区切る。浮かび上がった文章に、マスタングは驚愕で目を見開き息を呑んだ。
SELIMBLADLEY/IS/HOMUNCULUS
『セリム・ブラッドレイはホムンクルス』……!!
「ありえない…なんて事は、ありえない……か!」
発火布の手袋の指をこすり合わせ小さな火を熾すと、紙の端に点火させる。
火はすぐに紙の上を舐めるように広がり、灰とすすが便器の中に落ちていった。
その様子を、マスタングは引きつった顔を青ざめて見守るのだった。
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