真理の扉からアルの身体を持ってきちゃった 7 - 2/6

「バカ兄……!」
気が付けば、ルースは病室のベッドの上で膝を抱えて座っていた。
あの空間から戻っての第一声がこれだった。
「何で、そんなこと簡単に言うんだよ。
身体、僕に乗っ取られようとしてるんだぞ。分かってんのか。
何で許容するんだよ。否定しろよっ。
バカ、バカ、アルフォンスのバカ野郎……っ。」
口汚く罵りながら、胸に染み込んでくる温かな想いに自然と涙があふれてくる。
「兄ちゃん…兄ちゃん……っ。」
嗚咽と共に零れてくる言葉を繰り返す。
自分という存在を彼が何故許すのか、許せるのか分からない。
「分からないけど……嬉しい…嬉しくて涙が止まらない……」
堰を切ったように溢れてくる感情と涙に任せて、ルースは声をあげて泣いた。
「ぼ…僕は、ここに居てもいいのかな……いいのかな……」
誰にともなく、問いかける。
「ええ、もちろんよ。
貴方は、ここに居ていいの。いいのよ。」
返事が返ってくるとは思わなかった。
ルースは驚いて顔をあげると、声がした方を向く。
穏やかな表情の中年女性が、笑いかけていた。
「あ…」
「可哀想に。怖い夢でも見たのかしら。
大丈夫よ。ここには怖い人も、あなたを傷つける人もいないわ。」
見るからに上流階級の品のいい婦人は、微笑んで慰めながら、自分のハンカチーフをルースに渡してくる。
ルースは小さく会釈すると、それを受け取り、今も流れ続けている涙をぬぐうが、気持ちが高ぶったまま、なかなか涙がひかない。その間婦人は優しく背中をさすってくれていた。
「………ありがとうございます。
ごめんなさい。ハンカチ……」
手の中でぐっしょり濡れてしまっているそれに、ルースは肩をすぼめて謝る。
「気にしなくてもいいのよ。
気持ちが落ち着いて良かったわ。」
嬉しそうに笑う彼女に、ルースも笑みを返した。
「ありがとうございます。
あの……でも、怖かったり悲しくて泣いていたんじゃないんです。
嬉しくて……ここに居られることが嬉しくて……おかしいですよね。」
照れ笑いを浮かべるルースに、婦人は首を振る。
「今、自分が生きていることを喜べるのは、とても素晴らしい事よ。
そういう気持ちになれたのなら、貴方を助けたエドワードさんも私の夫も喜ぶわ。」
微笑む夫人の口から出た言葉に、ルースは目を瞬かせる。
「旦那さん……?」
「ええ。私の夫は、大総統キング・ブラッドレイよ。」
誇らしげに告げられた名に、ルースは驚愕した。
「あら。ごめんなさい。驚かせちゃったわね。」
悪戯っぽく笑う彼女に、ルースは慌てて首を振る。
「今日は、私の公務としてこちらに慰問に伺ったのよ。」
ブラッドレイ夫人の言葉に、昨夜看護師にそのような事を言われたことを思い出す。
「この病室に来たのは、息子の付き添いも兼ねているのだけど……」
そう言って夫人は、彼女の傍らに声をかける。
夫人のふわりとしたロングスカートの陰から、一人の少年がひょこりと顔を出した。
「こんにちは。」
はにかんだ笑みで挨拶をしてくる黒髪の少年に、ルースは微笑む。
「初めまして。僕は、セリム・ブラッドレイといいます。」
照れているのかと思いきや、はきはきとした声で自己紹介する彼に、ルースは居住まいを正して挨拶する。
「初めまして。ボクはルースです。そう呼んでください。」
「はい。その名前、鋼の錬金術師さんが付けたんですよね。」
目をキラキラさせて言うセリムに、ルースも嬉しそうにそうだという。
「僕、鋼の錬金術師さんの大ファンで。彼の活躍をあなたから聞きたくって、お義母かあさんに頼んでくっついてきたんです。」
「うふふ。ごめんなさいね。息子に甘いもので……
主人から、貴方が話し相手もなく本を読んで過ごしていると聞いていたので、話し相手になればと思って連れて来てしまったの。」
眉尻を下げて弁解するブラッドレイ夫人に、ルースは笑顔で応える。
「嬉しいな。セリム君、僕も鋼の錬金術師さん大好きだよ。
なんて言ったって、僕の大恩人だからね。」
「うらやましいです。彼はどんなふうに悪者をやっつけたんですか?」
すぐに打ち解けて話し出す2人に、ブラッドレイ夫人はコロコロと笑うのだった。

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