a capthive of prince 第8章:スザクに命ず - 6/7

 黙したまま動かないスザクに、ゼロ・ルルーシュは勝利を確信していた。
 この言葉で、スザクの首を縦に振ってみせると……
「私のところへ来い。ブリタニアにいる限り、君は君の矛盾を解消する事は出来ない。だが、私なら、その矛盾をひもとく道を示してみせよう。」
 戻ってこい。スザク。俺の側へ来い!
 だが、その時不意に割り込んだ1つの通信に、ゼロの目論みは水泡に帰す事になる。
『スザク殿下。殿下、聞こえていますか。こちら、ブリタニア軍式根島基地。応答乞う。』
 スザクは横目でゼロを見て、低い声で尋ねた。
「………いいかな。」
「好きにしたまえ。ただし、今の立場も忘れぬ様に。」
 会話の秘匿は許さないというゼロの態度に、通信をオープンにして受ける。
「……はい。」
『スザク殿下。こちら基地司令のファイエル中佐であります。』
 ジャミングのせいでノイズが酷い。
「スザク・エル・ブリタニアだ。中佐。」
『殿下。これより我が軍は…テロリストの集結ポイントに向け…地対空ミサイルを撃ち込みます。……スザク・エル・ブリタニア大佐には…テロリストを出来るだけそこに足止めする様にと…準一級命令が出ております。』
「なっ……!」
 驚愕の声を上げたのは、ゼロの方だった。
「馬鹿なっ!皇子であるスザクに、死ねと命じるのか⁉」

──これがブリタニアだ。ブリタニアに、捕虜も人質も存在しない。それは、皇族であったとしても例外ではない───

 スザクの酷く冷静な声が、その感情を全く見せない静かな顔が、1つの言葉を紡ぐ。
「───イエス マイ ロード。」

「誰がそんな命令を。スザクは、私の補佐役として公務に就いている身なのですよ!」
 ユーフェミアが憤怒の表情で、自分の前の士官に声を荒げる。
 しかし、相手は動じる事なく冷然と答えた。
「これは、帝国準一級命令です。ご存知でしょうが、植民エリアでの命令撤回には、総督か3名以上の高級将校の同意が必要になります。」
 全く応じる様子のない警備隊長に、ユーフェミアは実力行使に出た。
「おどきなさいっ!」
 皇族の命令に思わず身を引いた士官達の脇をすり抜け、その先のナイトメアに乗り込もうとしていた騎士を突き飛ばし、代わりに自分がオートタラップに足を掛ける。
「ユーフェミア様⁉」
「一体何をっ!」
「私はこれからスザクの元へ向います。副総督である私が巻き込まれてもいいというのであれば、いつでも発射命令を下しなさい!」
 その者にそう伝えなさいと言い捨てて、ナイトメアに乗り込んだ。
「っ!?我が儘もいい加減にして頂きたい!」
 怒った警備隊長が駆け寄るが、そのままユーフェミアを乗せた機体は急発進し、スザクが向った森へと突き進んでいった。

「なっ!」
 油断して銃をおろしていたゼロの腕を捕らえ、それを奪い仮面の横から突きつける。
「くっ⁉スザクッお前は───」
「悪いが、君の意見には賛同できない!」
 左手で拘束したままタラップに足を掛けると、投げ飛ばすようにしてゼロをランスロットのコクピットに押し込んだ。
「ぐっ……このままではお前も死ぬぞ!?本当にそれでいいのかっ。」
 銃を構えるスザクは、黙して語らない。
 代わりに、問いかけに答えたのはランスロット内の通信パネルだった。
『黙れっテロリストが!殿下。殿下の尊いお命が、このような国家の大罪人如きのために失われるのは、痛恨の極みです。
ですが、殿下の犠牲は決して無駄にはいたしません。殿下のご武勲は、ブリタニア軍人の鑑として永遠に語り継がれる事でしょう。』
「黙れっ黙れっ黙れっ黙れっ!」
 我が事のように怒り狂ってパネルに拳を叩き付けるゼロをスザクは呆然として見ていたが、頭を左右にふって銃を構え直す。
「ゼロ。静かにするんだ。」
「この……っ馬鹿が……!」
 ルルーシュの、嘆きにも似た罵声はスザクには届かなかった。

「接近するミサイルを確認!」
 緊迫した報告に、藤堂は舌打ちをした。
「全ナイトメア、飛来するミサイルに向け弾幕を張れっ。全弾撃ち尽くしても構わん!一発も近づかせるな!!」
 迎撃の指示を出すものの、それが有効な手段でない事は充分承知している。焼け石に水…このままでは自分たちも窪地にいる2人も助からない。
どうする? ラクシャータに指示して、ゲフィオンディスターバーを解除させるか?
 しかし、ゼロと心中覚悟のスザクが、ゼロを解放してミサイルを回避しようとするとは思えない。
 攻撃の指示を出しながら思案する彼の目の端に、窪地に向って滑り降りる紅蓮が映った。
 力場に捕まり動かなくなった紅蓮から、カレンが飛び出す。
「スザク!ゼロを放せっ!私だっ先日のパーティーで会った、カレン・シュタットフェルトだ!……こっちを見ろっ!」
 必死の叫びも、ナイトメアの攻撃音にかき消されてしまう。
 それでも、カレンは懸命にランスロットに向って走り続けた。

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