a capthive of prince 第8章:スザクに命ず - 4/7

「話とは、一体何だ。」
 睨みつけたまま問うスザクに、ゼロは、はぐらかす様に小さく笑う。
「その前に…簡単な身体検査をさせてもらおう。」
 ゼロの合図で、小銃を構えた人間が数人降りてくる。
「武器など隠し持っていないよ。だいたい、パイロットスーツにそんな物を……」
 隠せるはずなどないだろう。
「探している物は、武器とは限らない。」
 ゼロの言葉に、スザクの表情が険しくなる。
 体を探っていた団員が首を振ると、ゼロが次の指示を出す。
「スーツの襟の裏、袖口、足下はどうだ?」
 ゼロの指摘にそって探るが、何も出てこなかった。
 スザクの口元が笑みを作る。
「気がすんだかい?」
「いや……その手袋の中だっ。」
 一瞬手を握っていたのを、ゼロは見逃さなかった。
 検査係が二人掛かりで腕を押さえ、両手の手袋をはぎ取る。
 左手からポロリとこぼれたカプセルをゼロが得意げに拾い上げるのを、スザクは舌打ちしながら睨みつけた。
「君に死なれてしまっては困る。軍務につく皇族に課せられる毒物携帯義務を遵守しているとはな。
生き恥をさらすより、皇族らしく死ね…か?馬鹿馬鹿しい。
 そんな事を何故守る必要がある。」
「本当に君は皇室の事に詳しいな。皇室典範にも載っていない事なのに。」
 皇族が守るべき法律を記した「皇室典範」は、極秘事項を除いて公開されている。
 だが、ゼロの指摘した事は未公開の事項であった。昨今は、公開されていない事を理由に、携帯しない皇族の方が多い。
 スザクの言葉にゼロは沈黙で応え、スザクもそれ以上の追求はしなかった。
 そして、吐息をはく。
「他の皇族と違って、いろいろと厄介な位置にいるものでね……」
「宰相の弟がナンバーズ出となると、周りも遠慮ないか。
 何故そこまでシュナイゼルに尽くす。」
「弟が兄に尽くす事の何がおかしい。
もっとも、これを使わなくてはならない状況に追い込まれた事は、今までなかったけれどね……」
 あってたまるか!仮面の中で、ルルーシュが毒づく。
「弟…か。それを兄弟愛とでも思っているのなら、とんだ勘違いだと笑うしかないな。
君のそれは、隷属だ。シュナイゼルは君の心に付け入り、利用しているに過ぎない。」
 ゼロの言葉に、スザクは弾かれた様に笑いだす。
 ひとしきり笑うと、瞼に浮かんだ涙を拭いながら、ゼロを嗤った。
「ああ、失敬。あまりに傑作な事を聞いたものだから。
毒の携帯を兄から勧められた事はないよ。むしろ、常に危険な事はするなと止められている。軍に入ったのも自分の意志だ。
……と言っても、君は、それもシュナイゼルの誘導だとでも言うんだろうね。」
「勿論だ。君は気づかないうちにブリタニアに利用されているのだよ。枢木スザク。」
「くどい。その名前で呼ぶな!」
「そうやって“ブリタニア皇族”である事に執着させている事が、何よりの証拠だ。何故、過去の自分を消そうとする。」
「それは───」
 無意識に、左手首を握る。
「……何も…過去を消そうと思った事など……」
 しどろもどろになりながらも、反論するスザクにゼロが畳み掛ける。
「消そうとした痕が…その手の下に隠れているだろう。」
 やはり、見られていた。
 それを恥とか隠したい過去とは思わないが、自分に対して謀を持つ者に利用されるのはたまならない屈辱だ。
「これは、この痕は…自分の中の問題だ……」
「そうか。では、本題に入ろう。我々の仲間になって貰いたい。」
「何を言って……!これまでのやり取りで、そんな意志などない事は解りきっているだろう。」
「では聞こう。ブリタニア皇族という立場で、君はこのエリアに何を齎したい。お飾り副総督の元では、大した事など出来ないだろう。
ナンバーズ出の皇子がどんなに立派なことを言ったところで、それが政治に生かされる事などあり得ない。
せいぜい、これまで同様、軍の中で駒として使い潰されていくだけだ。それすらも、今の役職では難しいがな。
知っているか?自分が、お飾り副総督のペットと揶揄されている事を。」
「───知っている。」
 常にユーフェミアと行動を共にするスザクを、選民意識の強い者達がそう言っている事は、漏れ聞こえてくる“雑音”として耳に入って来ている。
「軍の中でそれなりの功績を上げて来た君には、事実上の左遷ではないのか。
君がどんなに尽くそうとも、ブリタニアの本質とはそういうものだ。例え、皇籍を持っていたとしても。」
「…………」
「ブリタニアの中に、君の居場所など本当はないのだよ。スザク・エル・ブリタニア。」
「そんなことは……」
 ないと言い切れない自分の立場を恨めしく思う。悔しさから、スザクはゼロから目を背けた。
 それに、ルルーシュはほくそ笑む。
「だが、枢木スザクとしてはどうだろう。君が本来の姿に戻り、日本人として生きようとするなら……」
「それは絶対にあり得ない。皇籍を失ったとしても、名誉ブリタニア人として生きるつもりだ。
日本を捨てブリタニア皇族となった僕に、日本の中にこそ居場所はないだろう。」
 反論するスザクの口調が微妙に変わって来ている事を、ルルーシュは歓迎していた。
 日本には居場所がない……裏を返せば、それを欲しているということだ。一人称も、先日のような「私」ではなく「僕」と答えている。
 皇子の仮面が、少しずつ剥がれようとしていた。

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