a capthive of prince 第8章:スザクに命ず - 1/7

 秋の日の穏やかな海原を、トウキョウ湾を出航した軍用船が、南へと進んでいく。
 その先にある式根島へ向う船に、スザクは副総督であるユーフェミアに伴って乗船していた。
 エリア11に視察にやってくる、宰相シュナイゼル・エル・ブリタニアを出迎えるためである。
「視察だなんて……ついこの間来たばかりなのに……」
「あれは、スザクのお見舞いにいらしたのでしょう。今回は、ちゃんと公務なのですから。」
 そうは言っても、目的の8割がスザクの様子を見に来ることだと解りきっているだけに、彼女の顔には苦笑が浮かんでいる。
「お兄様は、今回の事は何と……」
 皇族として名乗りを上げ公務につくことになったスザクに、養兄であるシュナイゼルがどんな反応を示したのか、ユーフェミアは不安そうに尋ねる。
「特に何も……戦闘パターンを研究されている事を心配していたけど……」
 ゼロが、ランスロットを目障りに思っている証拠だ。
 パイロットの正体が明らかになった事で、スザク本人をターゲットにするかもしれない。身辺には、充分注意する様にと厳命された事を思い出し、スザクも苦笑した。
「なるべく政庁から出るなと言うんだ。そんな事出来やしないのに。」
「まあ。まるでお姫様のような扱いですわね。」
 正真正銘のお姫様にそんなことを言われ、スザクはガックリと肩を落とす。
 操舵室の上にある貴賓室で窓の外を眺めながらの会話だったが、お茶にしましょうとユーフェミアが提案する。
 気分を変えるのにちょうどいいと、スザクは自分が淹れようと申し出た。
「あら、そんな。スザクに淹れてもらっては申し訳ないわ。」
「大丈夫だよ。公務中では僕が君の補佐役なのだから、こういう事をやるのも役目のうちさ。」
「でも……」
「どうぞ。お任せ下さい。副総督。」
 準備を始めるスザクに、ユーフェミアも任せる事にした。
「ダージリンでいいかな。」
「ええ。」
 紅茶の香りが、部屋中に広がる。
 用意された茶菓子にあわせて、少し濃いめに出してミルクを添える。
「このケーキを頂くのに、ちょうどいい濃さでおいしいわ。」
 と、嬉しそうにユーフェミアが言うのに、スザクも微笑む。
「ねえ、スザク。」
 お茶とケーキで和やかに話していたが、ユーフェミアが深刻な顔で話題を変えてきた。
「スザクは、その…彼…ゼロの事をどう思います?」
「どう…とは?」
 質問に質問で返すスザクに、ユーフェミアは、言葉を選ぶ様にゆっくりと言葉を紡ぐ。
「ゼロと話をしてみて、どういう印象を受けましたか?」
「そうだな…あんな状況で話したから彼も相当動揺していたようだけど、ゼロの、ブリタニアへの憎しみは本物のようだね。」
「ええ。でも、私は、憎しみだけでなく、哀しみも感じたのです。」
「哀しみ……」
「ええ。今のブリタニアに対する憎しみと哀しみ……だから、この国をエリア11を変えたいと願っている……」
「そうだね。だから、一度壊して新たに創り替える……“ブリタニアを破壊する”とは、そう言う意味なのかもしれない。」
「……壊して、創り替える……」
「力づくでね。彼のやり方に共感できないところだ。
立ち位置こそ違うが、この考え方は皇帝陛下に似ている。
力を信奉しすぎて、しかも、結果を求め過ぎだ。
ゼロは何を焦っているのか…結果を早く欲しがっている様に見える。」
「そう…ですわね。改革は一朝一夕に出来るものではありませんのに……
手柄を自慢したいだけの人物には、見えませんけど……
変な話ですけど、あのホテルジャックの時、銃を突きつけられても怖くなかったのです。この人は、きっと私を撃ったりしないと、確信していました。」
 ユーフェミアの話に、スザクは目を瞬かせた。
「ユフィも、そう思ったんだ。実は僕も、敵に取り囲まれていたけれど、話をしている間は攻撃命令は出さない……いや、僕の呼びかけに応えてくれると信じていた。」
 2人は顔を見合わせると、笑みをこぼす。
「不思議な人物ですね。テロリストで、クロヴィス兄様の仇なのに。私、あの時何故か懐かしい気がして……」
 本当に変ですわね。と、笑うユーフェミアに、スザクは首を振る。
 同じ事をスザクも感じていたのだ。
 何を仕掛けて来るのか解らない緊張感よりも、この男は、自分に危害を加えないという確信があった。
 そして、彼との会話には、懐かしい友人のような錯覚すら覚えていた。
 不思議だ……何故だろう。
 スザクはユーフェミアと再び顔を見合わせた。
 言葉にこそしなかったが、2人とも同じ考えに至ったのだ。
 もしかしたら、ゼロは自分が知る人物なのではないかと……
 その考えは、瞬時に打ち消されたが……そんなはずはないと……

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