その翌日から、エリア内はナンバーズ出身の皇子の話題で持ちきりになった。
ニュースやワイドショーは、スザクのブリタニアでの経歴と、現在シュナイゼル配下の研究機関で新型ナイトメアのデバイサーを務めている事などを何度も伝えていた。
そして、今後予想される公務の事などを解説者がしたり顔で語っているのを、苦々しい表情でルルーシュは見ている。
「凄いですね。スザクさんが皇族になっていたなんて。シュナイゼルお兄様の弟で、軍の階級は大佐ですって。
そんなに活躍していらしたのに、今まで全然知られていなかったなんて……不思議ですわね。」
いつもは大人しいナナリーが、興奮した様子で話しかける。
それを、優しい穏やかな兄の口調で相づちを打つものの、その端正な顔の眉間にはくっきりと皺が寄り、目は剣呑としている。
(全くだ。軍の情報にも、スザクの事は記録されていなかった。皇帝が養子にしたという情報も然り……トップシークレットだったのは確かだ。)
政庁のコンピュータからハッキングしたデータのバックアップを確認しながら毒づく。
今朝から公開されたスザクの公式データは、当たり障りのないものばかりで、余計な詮索をさせない様にとの配慮がにじみ出ている。
(だが、何故スザクをブリタニアに取り込む必要があるんだ?
敗戦国の為政者の子供を引き取ったなど、今まで聞いた事がない。)
刑部と藤堂の話から、枢木がスザクを放逐し、ブリタニアに売り渡したのは真実らしい。
それを阻止するために、藤堂が配下の者をスザクの元へ差し向けた。スザクと別れた日、彼の側にいた軍人達がそうなのだろう。
そして、ブリタニアはキョウト六家の温存を条件に、スザクを得た。
そこまでして、スザクを手元に置きたがる理由が解らない。
(だが、目的のためなら自分の子でも平気で殺そうとするあの男の事だ。明確な理由があるに違いない。)
思考に耽る兄を、ナナリーが現実に引き戻す。
「スザクさん、近々社交デビューなさるそうですよ。
政庁で、お披露目のパーティーが開かれるのですって。盛装なさったスザクさんてどんな感じなのかしら。きっと素敵ですよね。」
無邪気にはしゃぐ妹に、そうだねと答えるルルーシュの眼光は、さらに鋭くなるのだった。
「えー。会長、政庁のパーティーに招かれているんですか。」
「すごーい。」
「うっふふふ。殿下直々のお招きよ。」
そう言って、ミレイは皇室のエンブレムの封鑞がされた招待状を、得意げにひらひらさせてみせる。
「殿下直々って……どうして会長が!?」
リヴァルがびっくりした声を上げ、シャーリーはひったくる様にしてその印を確認した。
「この間お見合いに行った先で、たまたま殿下とお話しできてね。」
「見合いって……まさか、スザク殿下とですか?」
リヴァルの声が上ずっている。
「違う違う。軍に所属している貴族の方。そこに、本当にたまたま殿下がいらしたの。」
今にも泣き出しそうなリヴァルに、ミレイが慌てて説明する。
「──まさか。軍の施設で見合いしたんですか。」
「あら。ルルちゃん気になるぅ?」
ミレイが、猫の様に目を細めて笑いかける。
「いえ。ずいぶん変わったところで見合いしたものだと思いまして。」
「見合い相手が、変人で有名な人だからねぇ。」
「そうなんですか?」
興味津々で聞いて来るシャーリーに頷く。
「会ってすぐにプロポーズされちゃった。」
「えーっ!?」
それには、全員が驚きの声を上げる。リヴァルに至っては、悲鳴にしか聞こえない。
「だから、この招待状もその婚約者に配慮してだと思うけど。」
「ねえねえ。会長。スザク殿下って、どんな感じの方でした?」
「とても爽やかな感じの方よ。物腰も柔らかで穏やかで…何よりイイ男よね。」
「いいなあ。」
指をくわえてうらやましがるシャーリーに笑いかけたミレイは、会話に殆ど参加して来ていないカレンに声をかける。
「カレンも招待されているんじゃない?エリアの有力貴族には招待状が行っているていう噂よ。」
「……ええ…父宛に来ていて。義母に一緒に行く様に言われていますけど……私、人が大勢いるところは苦手で……」
「だったら、一緒に行きましょ。実は、私1人で行くのはなんだか怖くて……招待状には、ご友人とご一緒に…て、一筆書いて下さってるし。」
お願い。と、ウルウルした目で見つめられ、カレンも渋々頷く。
「──いいですけど……私、パーティーとか本当に苦手で……」
「大丈夫よ。一緒に来てくれれば、私がリードするから。」
「はあ。」
じゃあ決まりね。と、楽しそうに笑うミレイに、カレンは溜息を漏らした。
コメントを残す