a capthive of prince 第8章:スザクに命ず - 5/7

「違うな、間違っているぞ。捨てたのではない、捨てさせられたのだ。ブリタニアに。
当時10歳だった少年が、自ら進んで敵国の皇族になる事を望んだなど誰が思う。君は拉致され、今の立場を押し付けられたのだろう。」
「初めはそうでも。そこに居続けるのは自分の意志だ。」
「君の従妹が、帰りを待っているぞ。居場所がないというのも嘘だ。
そう思い込まされているのだよ。シュナイゼルに、ブリタニアに。」
 神楽耶の事に言及され、一瞬スザクの顔に切なげな表情が浮かぶが、軽く頭を振って目の前の敵を睨みつける。
「……何を言っても無駄だ。自分の居場所は自分で決める。」
「何故、そこまでブリタニアにこだわる。あの国に君がいるべき価値などない。」
「価値がなければ、ある様に変えてみせる。
それに、君のように力ばかりを信奉して間違った方法で手に入れた結果こそ、価値がないだろう。」
「その理屈からすると、今の平和にも価値がないのか?」
「?」
 何を言い出すのかと怪訝な顔のスザクに、ゼロは言葉を続けた。
「7年前、日本は侵攻して来たブリタニアに1ヶ月の戦闘だけで無条件降伏した。だが、あの時降伏せずに抵抗を続けていたら……」
「論外だ。あの時降伏していなければ、日本はブリタニアだけでなく中華連邦、EU三極が入り乱れての戦場となり、悪くすれば3つに分断されていたかもしれない。
それを防ぐために、父さんは…枢木ゲンブは、徹底抗戦を叫ぶ軍部を押さえるために自決したんだ。
それが、日本という国の形が失われた上でのものであったとしても……無意味な戦闘で人が死ぬよりずっといい───」
 違う、本当は違う。だが、真実は隠さなくてはならない。この戦争を引き起こさせたのは、誰あろう枢木ゲンブその人であるという事は……
 でなければ、この地に生きる日本人は…
 自分たちの代表に売り渡された事実に、さらに打ちのめされる事になる。
 必死に言葉を紡ぐスザクを、ゼロが嗤う。
「その人道主義には私も一定の評価を与えよう。ただし、私が問題にしているのは君の人道ではない。君の正義だ。」
「何だと……」
「スザク、君は言ったな。間違った方法で得た結果に価値はないと。
では尋ねる。7年前、日本は降伏を選んだ。それは果たして正しい方法で得た結果だったのか。」
「───!!」
「違うな。間違っているぞ。枢木スザク!降伏は、選挙で選ばれた枢木ゲンブ首相が決めた事ではない。彼を殺した何者かが、勝手にその方向を決めてしまっただけの事だ!」
 スザクは、その言葉に衝撃を受けた。
 ゼロの容赦のない言葉は続く。
「あの当時、首相の真意がどこにあったかまでは私も知らない。
しかし、はっきりしている事が1つある。彼が何を考えていたとしても、それを正当な権利の元で行使する事が出来なかったという事だ。
国家、国民の意思を代弁するはずの首相が殺され、彼ではない誰かが国民と国の向う先を決めてしまった。
人々の意志は奪われたのだ。正しい手段ではなく、ルールを破った①人の犯罪者によって!勝手に!」
「あ…そ…それは……」
 足下がふらつく。知っている…この男は何もかも知っている……
 7年前のあの事も、そして、そこで自分が果たしてしまった役割も。
 何故……どうやって知った……⁉
 スザクの目の端に、1機のナイトメアが映る。それは、チョウフで藤堂が乗っていた月下の指揮官機だ。
───藤堂さん……貴方か………
「はは……っ。」
 秘密を共有していた人物の思わぬ裏切り……いや、この場合、立場が全く違ってしまったのだから裏切りとは言えない。
 だが、彼ならば秘密を墓場まで持っていってくれるものと、勝手に信じていた己に嘲笑する。
 そこに、神聖ブリタニア帝国第十二皇子の姿はなかった。
 唇を噛み締めうち震えるその少年は、枢木スザクであった。
 皇子の仮面は、テロリストによってはぎ取られてしまっていた。

 ルルーシュはその姿に、自分の目的が達せられる事を確信していた。ゆっくりとスザクの隣にいく。仮面の顔を彼に向ける事なく、構えていた銃もおろしていた。 
 そうして、ルルーシュはスザクの耳元で囁いた。
「贖罪する方法が1つだけ有る。」
「………1
「あの時の日本人が選べなかった選択肢を、身を以て提示する事だ。
7年前に盗まれたブリタニアと闘うという道と、枢木スザクを取り戻して。」
「……また、それか。」
「これも1つの道だ。君は自分のエゴを、多くの人々に未来永劫押し付けるつもりか?それは、君の正義を真っ向から否定していないか?」
 スザクは、沈黙する事でしかこの魔人に抗う術がなかった。

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