スザク・エル・ブリタニアを誘い出して、捕縛する。
ゼロが打ち出した作戦に、全ての団員が従った。
思惑はそれぞれの立場によって違うが、反対する者はなかった。
藤堂と零番隊隊長のカレンは、ゼロの真意を知っている。
スザクをブリタニアから取り戻す。枢木スザクに戻すのだ。
スザクに対して負い目を感じている藤堂は、それが自分に課せられた使命であると考えていた。
「スザクくん……君は決して日本から見捨てられた訳じゃない。」
キョウトから正式に、枢木スザク奪回の依頼があったとも伝わっている。
君がいるべき場所は、ちゃんとここにある。
「一番隊はそのまま前進!零番隊は一番隊の側面から援護しろっ!」
前線を指揮する掌に、じわりと汗がにじむ。
スザクくん。どうか出て来てくれ。
『二番隊は後方八時の方向に向けて一時退避!対象視認を待て。
視認後は、予定された地点で待機!』
藤堂の指示を紅蓮のコクピットで聞きながら、カレンは鋭い視線で戦略パネルを見つめていた。
「さあ。出てこい。スザク・エル・ブリタニア…いいえ、枢木スザク!」
あんたが“家族”と信じる連中の化けの皮を剥がして、だまされて利用されているだけだと教えてあげる。
戦略パネルに、待ち望んだマーカーが現れた。
スラッシュハーケンが敵ナイトメア、無頼の両腕を斬り飛ばし行動不能に追い込む。
モニターを見ていたスザクは、そこに小さく映る紅い影を見た。
紅いナイトメア…紅蓮。黒の騎士団の中でも最も厄介な敵。
チョウフのときの様に集団戦になると、あれの機動性と格闘性能は最悪の武器になる。
遠距離からヴァリスを撃ち込むか…
スザクがそう考えていると、相手は意外な行動に出た。
紅蓮が、背を向ける事なくランスロットを見据えながら後方に飛んだのだ。
「……なんだ……?」
理解できない行動に注視していると、センサーが別の機影を補足する。
黒い機体……そのコクピットから身を乗り出しこちらを見る仮面のテロリスト、ゼロの姿があった。
思わずヴァリスを構えると、それを見越したかの様にゼロはコクピットに消え、黒いナイトメアはスザクに背を向け走り去る。
「誘っているのか……?」
敵の思惑を察しながらも、ランスロットの足を止める事はしなかった。
今ここでゼロを止める事が出来れば、もうこれ以上の犠牲は出さずにすむ。
テロに怯える人達に、安寧を届ける事が出来る。
スザクの操るランスロットは、すぐにゼロの無頼に追いついた。
ヴァリスを構えた瞬間、機影がモニターから消える。
足下にある、すり鉢上の砂の窪地に滑り降りていくのを確認した。
「こんなところに誘い込んで…狙い撃ちにでもするつもりか。
その前に……!」
ハーケンを放つと、それは無頼の肩をかすめて砂地にめり込む。
それを利用して、ゼロの前に回り込むとヴァリスを構えた。
「ゼロッこれで……!」
コクピットの中で、ルルーシュが不敵に笑う。
「お前を……」
「捕まえた!」
窪地を見下ろす樹木の影で、褐色の肌も美しい女性科学者が楽しそうに微笑んだ。
突然ランスロットの駆動音とは違う振動がコクピットを襲ったと思うと、コクピット内の計器が一斉に沈黙し、中は非常用の灯りのみとなってしまった。
「なっ───!」
慌てて再起動を試みるが、全く反応を示さない。
焦燥するスザクに、僅かに残った機能であるスピーカーの音声モニターが、自分に呼びかける声を伝えた。
「スザク・エル・ブリタニア…いや、枢木スザク。君と話がしたい。
出て来てくれないか。第一駆動系以外は動かせるはずだ。
捕虜の扱いについては、国際法に則る事を約束しよう。
もっとも、君が話し合いを拒否するようなら、四方からその機体を蜂の巣にする訳だが……」
「……テロリストが……」
毒づきながら、スザクはゼロの呼びかけを無視した。
今ここで、スザクを機体ごと葬り去る事はしないはずだという確信があった。
そのつもりなら、とっくに攻撃して来ている。
時間を稼げば、じき救援も来るだろう。
操縦桿から手を離し、シートに背を預けたとき、音声モニターが別の声を運んで来た。
ジャミングのため聞き取りにくいが、それは明らかにこのランスロットのオペレーターを務める女性のものだった。
「スザク殿下……呼びかけに応じ……外に出て下さい……副総督の…ご命令です……」
「ユフィ……」
小さく息を吐くと、了解の意を告げる。
きっと、さっきの脅し文句に驚いたのだろう。
だが、「命令」とあらば動くしかない。今は軍務中で、今この島にいる最高位の人間は副総督のユーフェミアだ。
時間を稼ぐという点では、同じ事だろう。
スザクは、ダッシュボードからある物を取り出すと、コクピットを開けた。
銃を構えて待ち受けるゼロの元へ、臆する事なく進み出る。
「ゼロ。名前を間違えている。“枢木スザク”は、もうこの世に存在しない名だ。」
「いや。君の名は“枢木スザク”だ。生まれた時からずっと…
押し付けられた名など名乗る必要はない。」
双方譲らないまま、睨み合った。
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